『「女子」という呪い』(雨宮処凛著 集英社クリエイティブ)刊行記念トークセッション
imidas連載コラム2018/10/09雨宮処凛・田房永子・北原みのり
フェミニズムとか、ジェンダーとか、女子に向けられる「呪いの言葉」とかについて3人で話してみた!
雨宮処凛さんの著書『「女子」という呪い』の刊行を記念して行われたトークセッション(2018年5月22日に実施。@神楽坂モノガタリ)。漫画家・ライターとして活躍する田房永子さん、作家・ラブピースクラブ代表の北原みのりさんをゲストにお迎えした。昨今のいろいろなセクハラ、#MeToo問題をテーマに話は盛り上がり、会場はヒートアップ! 女性も男性も立ち止まって考えてもらいたいと、3回にわたり採録をお届けします。
エラぶっているオジサンには、「虚」を感じる
北原 雨宮さんとは、たぶん15、16年ぐらい前から仕事を通じて知り合いでしたよね。だけど、フェミニズムとかジェンダーについて話をするのは、じつは今回が初めてで、今日はすごく楽しみにして来ました。
この『「女子」という呪い』という本には、(私が運営している)ラブピースクラブのサイトで書いていただいたエッセー(「化粧する女、化粧する男」)も収録されているんですよね。今回この本を手にした時、表紙のイメージもあると思うのですが、雨宮さんがポジティブにフェミ(ニズム)を語ったんだなと思い込みました。ところが、読んで驚きました。死者の話がとても多かった。ライターの井島ちづるさんや、電通社員で過労死した高橋まつりさんなど、全ての章で若い女性たちの死が語られる……そして、その死は「女性であること」と全く無関係ではない。そういう死を隣で寄り添うように見てきた雨宮さんが、女性の問題をなぜ今まで書かなかったのか、むしろ不思議でした。苦境を乗り越えた女たちは「生き残った者=サバイバー」ですよね。雨宮さん自身も、サバイバーだと思いました。
雨宮 ありがとうございます。お二人とはぜひ話をしたいとずっと思っていました。北原さんはずっとフェミニズムの活動をしてきた方。昨年(2017年)『日本のフェミニズム』っていう本を出版なさっていて、読みました。とても勉強になりました。
田房さんとは、今日初めてお会いします。つい先日、朝日新聞夕刊に田房さんが描いた「オトナの保健室」コーナーの漫画(2018年4月17日)で、セクハラを理解できないオッサンたちについての分析がとても鋭い、とネット上ですごく話題になりましたよね。
田房 もう二年前ぐらいから感じていたことを、最近それが表面に表れてきたなと思ったので、この前連載漫画に描いたんですが……。私はエライ感じがするオジサンが話しているのを見ると、すごい「虚」を感じるんですね、虚。
雨宮 空虚の虚。
田房 (オジサンは)立派に見えても、その人自身の心の中ってどうなっているのかなと不安になってくるんですよ。
私は心理学が好きなので、よく(そういう本を)読んだりするんですけど、「相手に対しての言動は、自分が自分自身に対してやっていることだ」という内容が出てくるんですね。子どもに対して「おまえはダメだ」と言っている人は、自分のことをダメだと思っている。こんなふうに、相手を見ると鏡みたいに自分のことが映って見えてしまう、っていうのが、人にはよく起こる。そういう視点で考えたら、オジサンたちは自分のことを人間扱いするって感覚を持っていないんじゃないかと思います。
北原 「週刊朝日」で田房さんがイラストを描いて、私が文章を書く連載もやっているのですが――(最近思ったことは)フェミニズムの問題って女性問題と言われるけれど、本当は加害者の問題で、男がなぜこういう状況になっているのかって考えるべきだと思う。やっぱり男自身がきちんと人間扱いされていない、そして、(他の人に対しても人間扱い)していない。さっき空虚っておっしゃったけれども、リアルな体の感覚を持たない男たちに、人権意識が育つわけないよね、と思う。
女性にわざとぶつかったり、怒鳴り付けたりする男性、けっこういるよね?
北原 女はね、いきなり他人に怒鳴られたり、そんな怖い思いを日常的にしていると思う。
田房 私も男の人に、ぶつかられるんですよね。駅とかで。
北原 タックルされるよね。
田房 カバンでバーンってやられて、もうクルリンって回っちゃったりするんですよ。
北原 そう、だから、日大のアメフトタックル問題は、(関西学院の)被害学生の気持ちがよく分かる。
田房 私たち、毎日あれと一緒ですよ。だからあの事件が大問題になって初めて、本当に後ろからタックルって超ヤバいんだって分かった。しかも、その後ツイッターで、駅でわざとぶつかる男の人がいると話題になって、みんなが被害に遭っていることも分かった。理由もなくぶつかられたり、叱られたり。
この間も、新宿の丸ノ内線の改札の前で、バカンとぶつかられて。その男はそのまま改札に入っていくから、思い切って「ぶつからないでください!」って言ったんですよ。そうしたら、その男性、メッチャ私に向かって怒ってて。
雨宮 こわーい。
北原 何で怒るの? 謝りもせず。
田房 その人、改札に入りながら、すごい怒った顔で私の方を見て「コノヤロー」みたいな感じで……たぶん「バカ」とか「ブス」とか罵声だと思うんですけど、私に向かって何か言って。私はそれが聞き取れないんだけど、その人の顔を見ながら改札の外側を歩いてて……。人混みの中、二人とも相手を探して見つめ合いながら歩いてる、っていう動きだけはトレンディードラマみたいな感じ。最終的に雑踏の中で、その人は「アーッ!!」て、映画の『プラトーン』のように天を仰いで反り返って、叫んだんですよ。
雨宮 何の叫び? それ。
北原 年は何歳ぐらいですか。
田房 私と同じぐらいですね、たぶん。身なりはきちんとした富裕層な感じの男性でした。反り返って叫んでいる姿を見た時に、「ぶつかられるかも」といつも恐怖心を持って歩いている私より、この人が感じてるストレスの方が5000倍ぐらい大きいんだなと感じたんですよね。ヤバいんだな、っていうか。
北原 ヤバいよ、相当。
田房 見知らぬ女へのタックルで、自分の抱えてるストレスを解消できるわけがない! 自分のストレスに対して、もうちょっと真面目に取り組んでほしいです。
雨宮 この前、斉藤章佳さんという精神保健福祉士の方が書いた『男が痴漢になる理由』っていう本を読んだら、まさにそれでした。痴漢は、ストレスを感じている男性が、満員電車の中で自分より圧倒的に力の弱い女性を支配するっていうか、攻撃するっていうか、むしゃくしゃした気持ちを弱くて抵抗しない人にぶつけたいっていう気持ちからやってしまうんだって書いてありました。
そういう支配欲の他にも、一週間頑張ったから自分へのご褒美に痴漢をしようみたいな人とか、ノルマ型みたいに今月の目標人数に達してないから、あと一人触らなきゃみたいな人もいるとか。
わざとぶつかる人も痴漢も、結局自分の気持ちやストレスを言語化しないのが原因なんじゃないですか。言語化したら何とか解決できるのに、何で(そういう男性は)できないんですかね。
北原 それは日本の男の何割なのかが、すごく気になる。だって、雨宮さんはぶつかられたことある?
雨宮 あるある、もちろんある。
北原 でしょう? 痴漢に遭ったことないとか、ぶつかられたことがない女の人って私の周りでは1割強ぐらいの割合だと思うのね。ということは、9割の女が電車とか駅、公共の施設とか空間で、見知らぬ男からの攻撃――それって別にぶつかられることだけじゃなくて、通りすがりに「ブス」とか「ババア」とか言われてストレスを吐き出されたり、性的なからかいを受けたり、一日イヤな気持ちになるようなことをされている。もうこれは、女にとってはテロじゃん! で、思うのは、ではいったい男の何割が加害者なってしまっているの? ということ。女性たちは(痴漢やわざとぶつかるといった行動を)やってもいい存在だと思われている。こんな社会に生きてたら、「フェミニスト」になりたくなくても、なっちゃいますよ。
最近のセクハラ案件についてどう思う?
雨宮 最近、財務省の福田事務次官やTOKIO山口達也メンバーの問題、自民党の加藤とかいう議員が「必ず3人以上の子どもを産み育てろ。結婚しなくて子どももいなかったら、人様の子どもの税金で老人ホームに入ることになるんだぞ」という発言をしたり――いろんなセクハラ案件があるじゃないですか? その中で、私が微妙に気になってるのが、文科大臣が通っていた〈セクシー個室ヨガ〉!
北原 私も気になってる。
雨宮 あれを見てね、思い出したのが、田房さんの書いた本『男しか行けない場所に女が行ってきました』に出てきたセクシー〈密着型理髪店〉なんです。あの〈セクシー個室ヨガ〉は、経営者の人が元AV女優ではないかとか一部で報道された。それに対して、「元グラビア(アイドル)だし、そう報道されること自体がセクハラで職業差別だ」って経営者の女性が反論していたじゃないですか。
でも一方で、自分たちの美を商品として売り出している感じもビンビンにしていて、ああいう綺麗な女性からそうされてしまうと、何て言えばいいんだろう? ……と思いました。
田房 私が取材した〈密着型理髪店〉はもう、なくなってしまったんです。ミニスカート穿いて長い髪を垂らして、細い眼鏡かけた女教師みたいな格好をしてる女性が理髪店にいる。とにかく理髪店としておかしい風景なんですよ。
雨宮 おかしいよね、明らかに。
田房 衝立があって、でっかい鏡があって。髪を洗ったりとか、切ったりする時に、ミニスカート姿がチラチラ見えたり、おっぱいがお客さんにくっつきそうな感じになったりする。私、その当時、いろんなフーゾク店に取材に行っていたのですが、そういう話を男の友達とか知り合いの人に話すと、この〈密着型理髪店〉はみんなすごく食いついてきて、「メッチャ行きたい」って言うんですよ。
そこは、ただ世間話をするカウンセリングコースというのもあって、1000円で10分とか、お店の一角で話をするんです。カントリーマアムというお菓子やQoo(クー)っていう子どもの好きなジュースが出てくる。
雨宮 切ないですよね。というか、みんな茶番じゃないですか。「いや、髪切ってるだけですよ」っていう体裁で、性的な何かを期待するわけでしょう。で、田房さんがこの本で書いているように、男性はみんなキョトンとした顔してやってくる!
田房 そう! 「ここ、普通の理髪店ですよね、あれっ、あれっ」みたいな感じを装いながら、ひっきりなしにお客がやってくる。
雨宮 確信犯なのにね。男ばっかりでしょう?
田房 そう。
雨宮 だから、〈セクシー個室ヨガ〉の報道があった時に、あの文科大臣もたぶん同じようにキョトンとした感じで通っていたのではないかと。個室ヨガで1対1だけど、ヨガやってるだけですよ~と言い訳している感じが、なんかもやもやするというか。
田房 その〈密着型理髪店〉で働く女の子に聞いたんだけど、そこは男性の経営者がキャバクラや理髪店から女の子を引き抜いてきて作ったお店でした。「3倍の給料を払います」という感じで。だから理髪師とキャバクラ出身の人の区別が、見ただけではっきりと分かるくらいなんです。私のことを担当してくれた女の子は、理髪師でハサミとかカミソリが持てるんだけど、それでもミニスカートにサイズ小さめのワイシャツは着なきゃいけない。その子は「お給料はいいけど、つらい……」って感じでした。
でも、その〈セクシー個室ヨガ〉は女性が経営してるんですよね。そこは、〈密着型理髪店〉とはちょっと違うのかな?
雨宮 〈密着型理髪店〉も〈セクシー個室ヨガ〉も、フーゾクでもないしキャバクラでもない。それはその通りだと思います。
ただ、一方でね、本来提供しているサービスに加えて、女の子とLINEでメッセージ交換とかできますよ、といったことを売りにする場合がある。それで、お客からのストーカー被害に遭った場合は、店は責任を負わない、労働者として守られていない。なんか曖昧にして、「そういう種類のサービスではないですよ」としらばっくれて、結局働く女性が大きなリスクを負う可能性が高い。そういう曖昧なグレーの部分が際限なく広がって、全部女性の自己責任になるんですよ。風営法に取り締まられないような、水商売とも性産業とも言えないところが、危ないと思いませんか?
北原 風営法によるフーゾク産業でも、基本的には女性の自己責任とされているんですよね。いわゆる「本番」と言われている性交は、自由恋愛の範囲でどうぞ、として運営されている。どんな所でも、男は、「デリヘルって、ただのマッサージじゃないんですか、キョトン? え、ソープランドってお風呂屋さんだよね? なのにセックスできるの? キョトン?」という、建前と本音、ダブルスタンダードで、女をすごく上手に搾取している。でも、基本的に最終的に何かあった時には、全て責任を取らされるのは男じゃなくて女なの。
雨宮 今のフーゾクも「キョトン」ですよね。ソープランドもね、そんなつもりじゃなかったみたいにね、言えちゃいますもんね、男性はね。
北原 (日本の社会は)どこまでも男の人に甘い、性に関して甘いよね。だけど、男の人もこれでほんとうに幸福なんですか? こんな文化でいいんですか? って聞きたいの。さっきの話に戻ると、大臣が公用車で〈セクシー個室ヨガ〉に行くわけでしょ。 そんな人が大臣でいいんですか。
田房 虚がすごいよね。
北原 虚がすごい。あまりにも空、ほんとに。
*「この国で、女子でいることはかなりしんどい。その2」は、10月16日(火)の公開です。
そうですか・・・・・
都会での通勤、大変なんですねぇ
下手したらホームから突き落とされるかも
そうですか・・・・
そんなものがあるんですね
なんか「ごはん論法」みたい