『「女子」という呪い』(雨宮処凛著 集英社クリエイティブ)刊行記念トークセッション
雨宮処凛・田房永子・北原みのり
Imidas連載コラム 2018/10/16
フェミニズムとか、ジェンダーとか、女子に向けられる「呪いの言葉」とかについて3人で話してみた! 話題は最近のセクハラ問題から、日本の女性の置かれている状況について。
雨宮処凛さんの著書『「女子」という呪い』の刊行を記念して行われたトークセッション(2018年5月22日に実施。@神楽坂モノガタリ)。漫画家・ライターとして活躍する田房永子さん、作家・ラブピースクラブ代表の北原みのりさんをゲストにお迎えした。昨今のいろいろなセクハラ、#MeToo問題をテーマに話は盛り上がり、会場はヒートアップ! その1 から引き続き、3人のトークをお届けします。
女性がイヤな気分になって終わり。それでは、何も変わらない
(最近のセクハラ問題の話題が続いて――)
雨宮 TOKIOの事件はどうですか。
北原 TOKIOの山口メンバーが46歳っていうのに驚きました。30年間芸能活動やっていて、40~50代の男に求められるのが成熟した大人であることよりも、少年であり続けることとか若さで、そういう点がまだ芸能界では評価されている。昔だったら、46歳の歌う男性グループって、ダークダックスだよ。
田房 確かにそうだ。
北原 成熟したおじ様であるべき世代が、若さとか幼稚さとか少年性とかを売りにして、恥ずかしくないような社会になっちゃっているんだなって思った。
雨宮 ほんとですよね。
北原 いろいろ幼くなっているのかもしれないですよね。私はアラーキーのことが今、とても気になっているんだけど。写真家アラーキーとそのモデルさんの話について、メディアがほとんど取り上げない。
田房 やっぱり女の人がイヤな気分になって終わり、なんでしょうか。(これまでは女性たちが)イヤでも仕方ないじゃん、とされてきた。それが最近は、やっぱりイヤなんだ、問題化して声を出さなくちゃ! という動きになっていることは、すごく感じています。
北原 声を上げて叩かれるのであれば、黙っておいた方がいいかなと考えるのは仕方ないと思う。でも、それって、叩かれた人を、遠巻きに見ている人たちの数が多いからなんですよね。仲間の沈黙の方が怖かったりする。
雨宮 セクハラや#MeTooが話題になると、どうしたら社会が変わるのかみたいな話によくなるじゃないですか。でも、もう麻生(太郎)さんとかは無理だと思うんですよ、何を誰がどう話しても変わらない。
北原 77歳でしょう、あの人……。「ファッションヤクザ」なんだよね。
雨宮 だから、そういうご老人たちには言うのを諦めたとして、どの年代の男の人から(セクハラ問題や女性のことを理解してもらうように)対話していくことを始めるかが問題ですよね。私の同世代なんかでも、……43歳ですけど、もう二分化していると思います。9割は「昭和のオッサン」まっしぐら、1~2割がイクメンとかに目覚めている(女性に対して)理解のある人になれるかな。若い世代は少し変わりつつあると思うんですけど。
セクハラなどの加害者になってしまう「昭和のオッサン」的な男性に対して、どう(人権的な知識や理解を深めてもらうために)言えばいいのか。そのことを話し合っていると、だいたいが「男を立ててあげて、(できたことに対して)褒めて、育てる」という話が出てくる。そこまで女性たちがしなくちゃダメですか? サービスして? じゃ、(私たちに)時給払えよっていう気持ちになりますよ。
田房 時給くれたらちょっと考えるかも! 「立てて、褒めて、育てる」って本当にその場しのぎの逆効果ですよね。それを(女性たちから)されてきたから、オジサンは、「自分の感情が分からない」という病が重症化してる気がする。もし時給がもらえるとしたら、私の具体的な対策は、何かが起こった時に言語化してあげる作戦。それもオジサンの方に、(こちらの話を)「聞こう」という前提がないと成り立たないから、幻想なんだけど。
でも以前に、電車の中で女性を怒鳴り付けた男性に遭遇した北原さんが、騒ぎが大きくなった時にそのオジサンに「怖かったの?」と聞いたら、「怖かったんだ」とうるうるし始めた――と話してましたよね?
北原 うるうるしているオジサンを目の前にした時でも、ここで(その人が女性に対して)怒鳴ったことを許しちゃいけないと思いました。だから、「女はね、殴られたり、いきなり怒鳴られたりすることに日常的に怖い思いをしているの。だから、ここはやっぱり謝った方がいいんじゃない?」と言いました。そしたらオジサンも、自分の気持ちを自分から話し始めた。
雨宮 ほんと「ボク、どうしたの、言ってごらん、言葉にしてごらん」から始めるしかないのかしら?
北原 それを結論にしたくはないですけどね。
日本の男性の「遊び」=「女」という感覚がある
北原 昨年(2017年)夏『日本のフェミニズム』という本の編集のために、日本の近代からのフェミニズムの運動についていろいろ調べてみたんですが、そこで気付いたことは、伊藤博文(のような、これまでの権力者たち)の罪は大きいということ。
日本の男性の「遊び」ってずっと貧しかったのかも。飲む、打つ、買う、だから。女を利用したり搾取したり、そういうことで男は自分の優位性を担保してきたのよ。そして、女に対するエロ情報を共有することで、男たちは連帯してきた。そういうのを伊藤博文のような近代の権力者が、率先して見本を見せてきたのよね。
英雄色を好む、みたいな感じで、女を囲って、女を粋に買うことができて、男として一人前、みたいな。だから、みんな愛人持ちたいよねとか、フーゾク行きたいよね、セクハラなんて文化だよね、という「遊び」文化が脈々と続いてきた。
男の「遊び」=「女」という感覚は、兵隊の娯楽=「慰安婦」という感覚と一直線につながるんでしょうね。日本軍は、娯楽としてセックスを強制し、拒否すれば「おまえは男か!」って殴られた。休みもなければ、何のために自分たちは戦ってるかも分からない中で、その列に並ぶしかないという状況だった。
もちろんいちばんの犠牲は女性たちですが、男の性も国家に利用されていたんですよね。「男の性など、こんなものだ」と国家にバカにされている。これは戦時中の軍隊だけじゃなくて、戦後の経済発展期だって同じですよね。あちこち海外に出ていって、現地妻とか女を買いまくって、それが当たり前だった。経済と男の性がくっついて発展してきているから、この種の(男性への)呪いは明治以降だけでも150年も続いているんです。呪いを解くのには、倍の年月がかかると思う。だから、私はもう諦めていて、この国の男たちは(変わるのは)無理だろうなと。
雨宮 諦めては、ダメですよ。
北原 今ようやく#MeTooのように女性たちの怒っている声が表に出てきたけれど、じゃあ、それによって本当に男たちが性に対する考えを変えられると思いますか? この日本の教育の中で? 長い間、培ってきた日本の文化とか意識とか、そういったものですよ。すごく時間かかるだろうから、私が生きている間には無理じゃないか。……でも、変えたいよね、変えなきゃねって思います。
スイスの雑誌記者から、「日本の女性はかわいそう」と言われた!
北原 男性たちが自分を人間だと思うことが必要だと思うんですよ。こんなふうに(周囲に)エロ情報が氾濫していて、その上「男たちの欲望なんてこんなもんだ」と決め付けられていますが、「いや、違うでしょ、もっと優しい関係があるでしょう」と男の人自身が(人間性を)求めないとだめですよ。
この国では、エロや性産業って一大産業じゃないですか。経済的に回っている。供給する側はどんどん欲望を再生産していくようになっている。
雨宮 日本って特殊ですよね、これだけ男性が安全に手軽に性を買えるっていうこともそうだし、その性のサービスがとても細分化している。なのに、性教育はふわっとした感じで(きちんと教えないし)、一方で過激なAVとかが誰でも見られる状況になっている――。
この前、スイスの雑誌の取材を受けたんですが……。
北原 私も同じ取材を受けましたよ。日本のフェミニストに取材していますって言うから、誰かなと思ったら、私と雨宮さんだった。日本はどうなるんですかって、逆に心配されなかった?
雨宮 されました。私が、日本のおっぱいパブの話とかを記者の人にしたら、すごいショックを受けていました!
北原 その取材はどんなものだったかというと、3DのAIの「嫁」をお家に飼う装置が日本で発売されたんですよ。女の子のキャラクターが3Dになって投影されて、ちっちゃいボックスの中の女の子が、帰宅するまでに電気をつけておいてくれたりとか、帰ってくると「おかえり。ご飯にする? お風呂にする?」みたいなことを言ってくれたり、一緒にテレビとか見てくれたり……。
雨宮 命令すれば、AIだから家の電気もつけてくれる。ちっちゃい萌えキャラの嫁が家にいるってやつ。
北原 それを見て、スイスの人が「日本人はどうなるんでしょうか?」と心配してた。
「滅びると思います」と言ったら、納得されちゃって(笑)。だけど、そういう商品が日本で販売されたということを聞いて、驚かない自分がいた。
雨宮 なんで、スイスの人がこんなに怒っているんだろうと思いました。もう慣れちゃっているんですね、私たち。
スウェーデンとかヨーロッパの話を聞くと、もう小学校の頃から、セックスがいかに素晴らしいコミュニケーションかってところから、教えられる。セックスは素晴らしく大切なコミュニケーションであるっていう、前提をまず叩き込まれる。で、中学、高校でもう実践でしょ、コンドームの付け方とかの。そういったことを子どもは、周囲の大人や家族からも学ぶ。そんな性教育、日本ではないですからね。ジェンダー教育もね。
北原 日本の女性は、かわいそうだと言ってましたね。
雨宮 よく正気でいられるな、この国で。日本の女はって!
*「この国で、女子でいることはかなりしんどい。その3」は、10月23日(火)の公開です。
「昭和のオッサン」てひとまとめに言われるとちょっと嫌な気分ですが、そんなにひどい状況なのですね。
半袖のTシャツで仕事をしていますが夕方になって寒さが身に染みてきます。明日の朝はひょっとすると危ないかもしれないなぁ。霜の予感です。