100歳を超えても元気な人に実は共通する「長生きの4つの習慣」
奥田昌子:内科医、京都大学博士(医学)、人間ドック認定医+
DIAMOND online 2018.10.24
昨年、日本人の平均寿命は男女ともに80歳を超える最高齢を更新し、いまや世界的に見ても“長寿大国”となった日本。しかし、「長生き」は本当に幸せなことなのだろうか。厚生労働省の統計(2016年)によると、日本人は平均寿命と健康寿命の差が大きく、男性は約9年、女性は約12年も不健康な期間があるとされている。年々平均寿命が延びている日本人にとって、「いきいきと健康のまま長生きすること」はこれからの課題となってくるだろう。そこで、『「日本人の体質」研究でわかった 長寿の習慣』(青春出版社刊)の著者・奥田昌子氏が、日本人の体質や病気の傾向に特化した健康対策をアドバイスする。
日本人の弱点である○○を溜めない食生活とは
人生100年時代といわれる今、日本では100歳を超えても健康で元気な人が増えてきている。双子の長寿姉妹の妹・ぎんさんは、自分のことは自分でやり、「家の中に閉じこもっていてはいけない」と毎日のように散歩に出られていたという。また、医師の日野原重明先生は100歳を超えた後も、現役の医師として精力的に活動されていたことは有名だ。このように、100歳を超えても健康でいきいきと暮らせた人たちは、どのような食生活や生活習慣を心がけていたのだろうか。全国の百寿者に向けて行った調査、ならびに長寿医学分野の研究によると、彼らには共通する「4つの習慣」があることがわかった。
まず、「4つの習慣」の第1は、「栄養バランスのとれた食事」である。特に、魚を中心とする動物性蛋白質と、大豆、海藻、緑黄色野菜をしっかり食べることだ。
日本の百寿者が好んで食べる魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)という成分には、中性脂肪を減らして内臓脂肪をつきにくくする作用があるのだ。内臓脂肪は、血圧を上げ、血糖値を上げる非常に悪い物質を分泌し、脳梗塞や心筋梗塞、がんの発生を促すことがわかっている。日本人が健康寿命を延ばすには、内臓脂肪を落とすことが欠かせないため、魚の栄養は日本人の寿命を支える大切な命綱なのである。
また、厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、介護が必要になった原因の上位は男女ともに「骨折・転倒」だという。骨折・転倒を予防し、強い足腰を作る栄養素・カルシウムを摂取するにも「栄養バランスのとれた食事」が有効である。カルシウムは、海藻や緑黄色野菜、大豆、小魚に多く含まれているからだ。
「4つの習慣」の第2も食生活に関するもので、「腹八分目」である。日本人は体質的に内臓脂肪が溜まりやすいが、この「腹八分目」を続けることでカロリー摂取をおさえ、あらゆる病気の元凶となりうる内臓脂肪の蓄積を防ぐことができるからだ。
以上のことから、「栄養バランスのとれた食事」と「腹八分目」を心がけることが長寿への近道といえるだろう。
死亡率を下げる!?有酸素運動の驚くべき効果
百寿者に共通する「4つの習慣」の第3は、「有酸素運動」である。やはり、健康を維持するには食生活だけでなく、適度な運動も必要だ。この「有酸素運動」とは、体に酸素をしっかり取り入れながらじっくり行う運動のことで、たとえばウォーキング、自転車こぎ、水泳などがその代表だ。その効果は折り紙つきで、高血圧、糖尿病、動脈硬化に関する専門学会は、いずれも有酸素運動が病気の予防と改善に役立つとして、1日30分を目安に、1週間に5日以上実施するようすすめている。
では、なぜ有酸素運動が健康に良いのか。まず、有酸素運動を続けると、日本人の天敵である内臓脂肪が減って、生活習慣病を抑える良い物質の分泌が増える。また、老化の原因となる「糖化」を招く過剰なブトウ糖を減らすのにも有効で、1回4㎞の軽いジョギングを週に5回以上続けたところ、インスリンの効き目がぐんぐん上がり、1ヵ月後には運動を始める前の2倍に、1年後には3倍以上になったというデータもあるのだ。百寿者の運動習慣を調査した結果、男女ともにほぼ半数が「運動している」と回答しており、このうち多くが散歩も体操も週に5~7回ほぼ毎日のように行っていることがわかった。このように、有酸素運動は続けていくことで効果が高まるのである。
実際、体をよく動かす人は死亡率が低いこともわかっている。45~74歳の日本人約8万3000人を対象に、身体活動量と死亡率の関連を調べた研究がある。体を使う仕事やスポーツを一日に行う時間と運動の強さをもとに参加者を4つのグループに分けて、約9年後のそれぞれの死亡率を調べたところ、活動量が最も多かったグループは、最も少なかったグループと比べて男性は27%、女性は39%も死亡率が低いことが明らかになった。
しかし、人によっては有酸素運動には注意が必要だ。朝起きて1~2時間後と夕方は血圧が上がりやすく、夕食前などに空腹で運動すると心臓に負担がかかることもある。持病があって通院している人などは、必ず主治医の許可を得てから始めるようにしてほしい。
有酸素運動の他には筋力トレーニングも有効で、テレビなどではスクワットや片足立ちなどが紹介されている。しかし、筋力トレーニングは、これまで実施してこなかった人が急に取り組むと体を痛めたり、かえって転倒を招いたりするおそれもあるので無理は禁物だ。安全にはくれぐれも気をつけて、楽にできるものだけ加えるのがよいだろう。
“ポジティブ思考”が長生きを後押しする!
百寿者に共通する「4つの習慣」最後の第4は、「気持ちが前向き」であることだ。たしかに、長寿者は嫌な事があっても気持ちを切り替えて、おおらかに前を向く人が多い傾向がある。ある調査によると、百寿者の約8割が「毎日気分よくすごせる」「将来に不安を感じていない」と回答し、「さびしいと思わない」も約6割いることがわかった。さらに、「これからのことに夢や希望を持っている」という人が男性は3割以上、女性は14%もおり、100歳を超えてもなお、将来を前向きに捉えている人が一定数いたのである。
また、人生に目的を持つことと死亡率などの関係について、日本とアメリカで別々に実施された10件の調査結果からは、前向きな考え方が寿命を延ばすことが明らかとなっている。平均年齢67歳の13万6000人にこの調査を行ったところ、「人生に目的を持っている」と回答した人は、そうでない人とくらべて7年以上にわたる調査期間中の死亡率が17%低いことがわかった。さらに他の研究からは、「人生に前向きに取り組んでいる」と回答した高齢者は脳梗塞の発症率が半分であることも示されている。このように、考え方を前向きに変えるのは単なる気休めではなく、健康寿命と平均寿命を実際に延ばしているのだ。
一方、「前向きな考え方」とは正反対の「孤独感」は死亡率を上げてしまう可能性がある。これは一人暮らしかどうかではなく、その人が孤独を感じているかどうかが問題だ。家族と同居していても自分は孤独だと感じている人は、そうでない人とくらべて死亡率が2倍高く、うつ病の発症率も上がってしまう研究報告もある。このように、「孤独感」は体と心をむしばみ、老化を進行させるおそれがあるのだ。
さらに、「孤独感」は無力感とつながりやすく、「こんなことをして何になるんだろう」「結局、うまくいかないんだな」「もう、いやになった」…などと考えてしまったら、健康であることも、長生きしていることも、すべてが無意味に思えてしまうだろう。その一方で、家族と同居して一緒に食卓を囲み、同じものを食べる人だけでなく、一人暮らしであっても積極的に人とつながったり、仕事や趣味を楽しんだりしている人は孤独を感じにくいとされている。生き方は人それぞれだが、気の合う友人や兄弟姉妹と集まって、気兼ねなくおしゃべりしながらゆっくり食事を楽しむ機会を持つようにすると、さらに健康でいられるはずだ。
ここまで見てきたように、健康寿命は食生活と運動、生活習慣、人種による体質の違いなど多くの要因が重なり合って決まるが、その一つに「前向きな考え方」のような心のありようも大きく関わっているのかもしれない。「考え方」が寿命に与える影響については研究が始まったばかりだが、健康寿命を延ばす条件がいくつかそろったところで最後の一押しとなったり、体力が落ちた時に下支えしたりする可能性は十分にあるのだ。
「もう歳だから、体に不調が出てしまってもしかたがない」などと考える人も多いが、それでは、歳のせいにして健康をあきらめることになってしまう。「明日もあさっても人生が続く」と考えれば、体調不良を「しかたない」で片づけるわけにはいかないだろう。将来を前向きに考えられれば、食生活や生活習慣に気を配り、体をしっかり手入れすることを意識するきっかけにもなる。
「人間は習慣の生き物である」というように、人生を作り、人生を変えていくのは習慣の力である。歳をとることを怖れず、これまで述べてきた食生活や生活習慣を繰り返し続けていくことで、健康で楽しく天寿をまっとうすることができるはずだ。
昼過ぎまで雨。そんなわけで昨日菊芋を掘ったのだが半分も掘れなかった。
菊芋の花
家の中に持ってきたらすぐに咲き出した。