「しんぶん赤旗」2020年10月5日
日本学術会議会員の任命拒否が批判を浴びる中、記者会見は開かず番記者とオフレコ懇談会、通信社の前論説副委員長をいきなり首相補佐官に起用―。菅義偉首相が就任早々、メディア支配に乗り出しています。「安倍政権の継承」を掲げ自民党総裁選で圧勝した菅氏は官房長官として7年8カ月、政権のメディア支配の中心的役割を担ってきました。あるメディア幹部はその手法を「懐柔と脅し強権」と評します。浮かび上がるのは民主主義社会の根幹である「国民の知る権利」を顧みない強権的な素顔です。(内藤真己子)
■懐柔と強権
菅氏は9月の自民党総裁選でもメディアを最大限に利用しました。官房長官会見で菅氏と対峙(たいじ)してきた望月衣塑子東京新聞記者は語ります。「安倍氏が8月17日に2度目の入院をすると、21日にはテレビ朝日『報道ステーション』に生出演し、『ポスト安倍有力候補』を強く印象づける質問をされるなどして『菅本命』の流れが加速した。メディアを使いうまく情報操作している」
「安倍氏が辞意表明するとメディアがパーッと安倍政権を持ち上げた。それは『菅忖度(そんたく)』。安倍政権の支持率が上がるなか総裁選で菅氏が『安倍政権の継承』を打ち出して圧勝の構造がつくられた」。こう指摘するのは元経産官僚の古賀茂明氏です。同氏は「安倍政権のレガシー(遺産)は官僚支配、マスコミ支配、戦争できる体制の三つ。菅氏はその中心的役割を担ってきた。菅内閣誕生は、菅氏が総理になる前からレガシーを100%引き継ぎ行使した結果だ」と強調。警告を発します。
とくにテレビメディアは、立憲主義破壊の安保法制、2度にわたる消費税増税、民意に背く米軍沖縄新基地建設の強行、森友・加計、桜を見る会で露呈した国政私物化の検証をしませんでした。古賀氏は「安倍政権批判は菅氏に盾突くことになる。政治記者にとり政権交代は一大イベント。次の最高権力者からいかに情報を引き出せるかで社内の発言力が決まる」。
望月さんも語ります。「菅氏には安倍さんのような思想性はない。あらゆるメディアの政治記者の中から、これはという人を見つけて押さえ、その人たちを使って報道に圧をかけてくる。巧みにやってきた」
あるメディア関係者は明かします。「菅氏は連日行っている朝と夜2回、1日3回の会食でメディアと頻繁に会っている。各社の経営幹部をはじめデスクや記者、テレビに出ているほとんどのコメンテーター、番組関係者と、きめ細かさは安倍さんどころじゃない。じゅうたん爆撃の仕方が丁寧だ。こまめに会って情報もとるし徹底して懐柔、批判されないような関係をつくる。そういう体制を整えておき何かあれば権力を使って重層的に脅す。強権に見えない強権です」
■番組に圧力
古賀氏降板
安倍政権の官房長官だった菅氏によるメディア支配。元経産官僚の古賀茂明氏は、その圧力にさらされた一人です。2015年3月、テレビ朝日「報道ステーション」のコメンテーターを降板した裏に「菅氏の介入があった」と証言します。
「日本人は『I am not ABE』というカードを掲げる必要がある」。同年1月、古賀氏は番組でこう述べました。日本人ジャーナリストらが過激組織ISに拘束されているのを知りながら中東歴訪中の安倍首相(当時)が「ISIL(=IS)とたたかう周辺各国に2億ドル支援する」と表明したことへの抗議でした。
「(ISに対する)宣戦布告と同じですよ。でも日本には平和憲法があり戦後ずっと戦争していない。安倍さんとは違う。それを世界に向け発信しようと言ったのです」と古賀氏。
同氏によると発言後、番組放送中に菅官房長官(当時)秘書官からテレビ朝日側にクレームのメールが入り、報道局幹部が対応に追われました。「秘書官は菅さんに指示されたか、あるいは『言っておきました』と報告したと考えるのが普通です」。元キャリア官僚として、高級官僚である秘書官と官房長官との関係を知る古賀氏は語ります。
菅氏自身も直接介入に乗り出してきたと言います。2月末の定例会見後のオフレコ取材で「本当に頭にきた。俺だったら放送法に違反しているって、言ってやる」と語ったというのです。古賀氏は「オフレコ取材メモはメディア各社に報告されます。菅氏はメモがテレ朝幹部の手に渡ることを百も承知で圧力をかけてきた」と言います。
テレ朝が古賀氏の降板を決定。3月27日の最後の出演で古賀氏は「菅官房長官はじめ官邸からバッシングを受けてきた」と発言。今度は言葉だけでなく「I am not ABE」のフリップを掲げました。これに対し菅氏は30日の記者会見で「(古賀氏の発言は)事実に反する。極めて不適切。放送法という法律がある。テレビ局の対応を見守りたい」と、また放送法を持ち出したのです。
■放送法たて
「放送法をたてに菅氏が圧力をかけたことは明らかです。伏線は第1次安倍政権のときにあった」。こう語るのは元テレ朝報道局員で『放送レポート』編集長の岩崎貞明氏です。
菅氏は、第1次政権で放送局の放送免許を所管する総務相でした。菅氏の在任中、総務省は番組内容にかかわり「厳重注意」など8件の「行政指導」を行っています。
岩崎氏は、1985年11月から2009年6月までに確認された31件の行政指導のうち8件が菅総務相のもとで行われており、異例の多さだと指摘。「日本の放送は政府の直接免許制で、局は5年ごとに一から書類を出して免許の再交付を受ける。再交付がなければ電波は出せません。申請書類に行政指導を受けたことも書くので、放送局には『再免許に影響したら』と非常に脅威です。菅氏はそれを熟知し、放送法を持ち出し脅している」と語ります。
14年7月、NHK「クローズアップ現代」で、官房長官だった菅氏に集団的自衛権行使容認の閣議決定への疑問を投げかけた国谷裕子キャスターが、官邸側からの「抗議」にさらされたと報じられました。その後、国谷氏は降板します。
あるテレビ局関係者は語ります。「メディアにたいし圧力をかけるのは憲法21条の言論・表現の自由にかかわることだから、それは控えるという雰囲気がこれまでの自民党幹部には暗黙にあった。でも菅さんにはまったくない」「経済成長が望めないなか自民党は政権から転がり落ちることだってある。だからメディアを支配し、徹底的に批判を許さないようにしている」
古賀氏はこう語ります。「国民は、選挙で国民のために働かない政治家は落とすことができるというのが民主主義です。その前提として『報道の自由』が保障され、メディアがきちんと政権を監視する報道がないと国民は正しい判断ができない、すなわち民主主義は機能しない」
■記者を排除
望月氏敵視
懐柔と強権でメディア支配を構築してきた菅首相。その強権姿勢がむき出しになったのが、東京新聞の望月衣塑子記者への執拗(しつよう)な質問妨害と記者クラブへの排除要請です。
望月氏は17年6月から菅官房長官(当時)会見に出席し同氏に加計疑惑などで質問。加計学園獣医学部新設をめぐる文部科学省の「総理のご意向」文書を「怪文書」と言い放った菅氏ですが、望月氏の追及で、再調査せざるをえなくなり、省内から文書が見つかりました。
その後の経過を望月氏が振り返ります。「やがて、手をあげていても菅氏が指名せず打ち切られ、質問中に会見進行役の官邸報道室長が『質問は簡潔に』と繰り返す妨害が始まりました」
18年12月には官邸が同報道室長名で、官邸記者クラブ(内閣記者会)に事実上、望月氏の排除を求める文書を出します。
望月氏が沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設に向けた埋め立て工事の土砂投入について質問した内容に「事実誤認」とレッテルを貼り、質問を「度重なる問題行為」として内閣記者会に「問題意識の共有」を求めたのです。
翌年2月、「文書」の存在をネットニュースが報じると衝撃が走りました。新聞労連は「国民の『知る権利』を狭めるもので容認できない」と抗議。国会でも野党議員が「取材を封ずるのは取材の自由、国民の知る権利を封じるものだ」(国民民主・奥野総一郎衆院議員)と批判しました。
これに対し答弁に立った菅氏は「取材じゃない。決めうちだ」と強弁。さらに安倍内閣は、質問制限や妨害行為を正当化する政府答弁書を閣議決定し、菅氏は同26日の会見で望月氏に「あなたに答える必要はありません」と切り捨てました。
望月氏は菅氏の姿勢をこう評します。「私個人への攻撃というよりも、政府を追及して質問する記者はこういう仕打ちにあうと見せしめの意図を感じています。政権批判を許さない。メディアの牙を抜いちゃって権力監視の役割を弱めようとしている」
■連帯し対抗
メディア労働者と市民が立ち上がります。3月、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)が首相官邸前行動を主催。複数の現役記者がマイクを握り「知る権利守ろう!」「真実のためにたたかおう」と訴えました。
このとき「デモの情報がSNSで拡散されるなかで質問妨害が止まった」。望月氏はこう振り返ります。「会社の垣根を越えて記者がつながり市民も参加したのが力になった。デモは必要だと思いました」
岩崎氏は、政権のメディア支配について「批判を許さないのは民主主義的チェックが働かなくなってくるということで非常に危険だ」と指摘。「対決するために、分断を乗り越えたメディア同士の連帯、市民とメディアの連帯を作り直すことが重要だ」と語ります。
「(菅氏は)脅せば何とかなると思っている。安倍政権の陰の部分をずっとやっていた人が表に出てきた」(政治部記者)。すでに多くの言論人から菅政権の危険性が告発されています。菅政権によるメディア支配のさらなる強化を許さないたたかいが始まっています。
依然として70%を超える支持率。危ない、危ない。日本学術会議会員の任命拒否もその理由を明らかにせず、「忖度」を一層拡大させている。
雨はそれほどでもないが、風が強い。
はじけそうなイガグリ。
風に揺すられボタボタと実がこぼれ落ちてくる。これは虫にも喰われていない、いい栗の実だ。イガをつけたまま落ちてくる実はほとんどが虫食いだ。
栗拾いをしているとキノコのナラタケ(ボリボリ)が目につく。