マガジン9 2025年1月29日
「楽しい日本を目指していきたい」
1月24日、施政方針演説で石破総理が語った言葉だ。
その翌日、毎週土曜日に東京都庁の下で「もやい」と「新宿ごはんプラス」によって開催されている食品配布には、食料を求めて828人が並んだ。
コロナ前は50〜60人だった場だが、コロナ禍を受けて「一食分でも節約したい」と並ぶ人は増え続け、この日、過去最多を更新したのだ。
困窮者支援の現場にいると、「楽しい日本」という言葉は随分と無神経なものに聞こえる。以下のような悲鳴を、相談会などをするたび耳にするからだ。
「仕事をクビになり、給与の残りで生活している。食べるものにも困っている」(60代女性、単身)
「無職。ネットカフェ等で暮らしている。頸椎症性脊髄症を発症し、両手のしびれ、足のふらつき、失禁などの症状がある。安定した住まいを確保したい」(50代男性)
「失業中で一年くらいまともに食べていない。保険証もなく病院にも行けない。現金がなく食べ物に困っている」(50代男性)
この30年間、日本は先進国で唯一賃金が上がらなかった国である。そこに5年前、コロナ禍が直撃。この3年間はそこに物価高騰が加わる「三重苦」。そんな中、庶民の暮らしは限界に達しているというのが私の実感だ。
電話相談のたびに、「とにかく一万円でもいいから給付金がほしい」「なぜ国は物価高対策をしないのか」「自民党は底辺の人の暮らしをまったくわかっていない」「消費税引き下げや現金給付などの対策を今すぐにしてほしい」という嘆きの声が寄せられる。
昨年夏に発表された国民生活基礎調査によると、生活が苦しいと回答したのは約6割。
また、日銀が1月17日に発表した生活意識アンケートによると、1年前と比べて暮らしに「ゆとりがなくなってきた」と回答した人は57.1%。その理由が「物価が上がったから」と答えたのは89.7%だったという(複数回答)。
そこに「一人ひとりが主導する『楽しい日本』」と言われても。
「楽しい日本」について、石破総理は「すべての人が安心と安全を感じ、自分の夢に挑戦し、『今日より明日はよくなる』と実感できる。多様な価値観を持つ一人一人が、互いに尊重し合い、自己実現を図っていける。そうした活力ある国家」と語っている。
が、「豊か」だった日本を30年かけて貧しくし、国力を奪い、未来の見えない不安定な働き方を激増させて少子化を推し進めたのが自民党政権であることについてはどう考えているのだろう? その果てに、「今日より明日は悪くなる」という空気がこの国には蔓延していることを知らないとでも言うのだろうか?
ここにそれを証明するような数字がある。
日本財団による、6カ国(日本、アメリカ、イギリス、中国、韓国、インド)の18歳への意識調査だ(2024年)。
それによると、「自分の国の将来」について「良くなる」と答えた日本の18歳はわずか15.3%。中国の18歳は85.0%が、インドの18歳は78.3%が「良くなる」と答えているのにぶっちぎりで最下位だ。諸外国と比較しても相当な悲観ぶりである。この国の18歳が見ている日本と、67歳の石破総理が見ている日本はずいぶん違うようである。
さて、施政方針演説では「地方創生」にも触れられた。石破総理は「地方創生2.0」とブチ上げ、「これを『令和の日本列島改造論』として強力に進める」と自信満々だ。
そうして「若者や女性にも選ばれる地方」などと述べるが、まずはここまで地方を衰退させるような政策を自民党政権が進めてきたことについてはどう思っているのだろう。
それだけではない。演説ではNISAやiDeCoなどの名前も出し、「資産運用立国の取り組みを強化する」と主張。なんか国が投資とか勧め出すのって、いかにも「末期」って感じがするからやめたほうがいい気がするんだけどどうだろうか。
施政方針演説の中でもブッたまげたのが「闇バイト」や「匿名・流動型犯罪」への対策について触れた部分だ。
「仮装身分捜査により検挙を徹底する。『闇バイト』の求人情報の削除の促進、SNS等での若者向けの注意喚起、防犯カメラの整備の支援等を進める」と「対策」を語るが、闇バイトが蔓延するもっとも大きな理由は「貧困」ではないだろうか。
働いても生活できない、マトモな賃金の仕事がない、あるいは失業してもセーフティネットになかなかひっかかれないなど、この社会が30年かけて傷んできた結果のひとつが「闇バイト」の蔓延に私には思える。また、闇バイトなどよりずっと多いのが、全国のコンビニやスーパーで起きている、おにぎりひとつが買えずに万引きして逮捕されるような事件だ。逮捕されているのは高齢者やロスジェネ、若者など全世代。こんな悲しい事件の頻発は、20年前には決してなかったものだ。
そんな中、もっとも早く闇バイトを根絶する方法は、この国の経済が立て直されることだろう。
しかし、それをやらずに「仮装身分捜査」や「防犯カメラの整備」とは、どうしても「小手先」に思えてしまう。
というか、自民党政権はこの30年、ずーっとそんなことばかりしてきたように思うのだ。例えば火事そのものを鎮火しようとしたり火事を起こさないようにしようとはせず、「どの消火器を使おうか」みたいな議論ばかり。
少子化対策だって、安定雇用を増やせばかなりの部分が解決するのに決してそこには踏み込まなかった。ロスジェネに関しても、20年以上放置したところでやっと「人生再設計第一世代」と名付けて正社員化とブチ上げても、もうその時点で手遅れ。常に小手先で後手後手で、抜本的な解決策には手をつけず、やってる振りをしてきた。
そういうことを繰り返して、取り返しがつかないところに来たのが今の日本ではないのだろうか。
と、そんなことを「楽しい日本」という言葉を聞いて考えたのだった。
おそらく、ほとんどの人が望んでいるのは「楽しい日本」より「安心して生活できる日本」「老後の心配をこれほどしなくていい日本」「未来が今より明るく思える日本」ではないだろうか。
しかし、その辺、石破総理って全然見えてないんだろうな……。だって今、「楽しい日本」って選んでしまうセンスの持ち主だもんな……と遠い目になっている。
朝玄関の戸を開けると、車が半分埋まっている。
これはひどいなと思いながら除雪作業開始。
しかしそれほど積もっているわけではなく、22,3cm程度。
どうやら車周りに吹き溜まったようだ。
温度計を見ると0.1℃、プラス氣温だ。