東洋経済オンライン12/28(水)
斎藤幸平・東京大学大学院准教授が語る.
『人新世の「資本論」』『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』を著した斎藤幸平・東京大学大学院准教授は、気候変動のCOP交渉の実態を「グリーンウォッシュ」(まやかしの環境対策)と断じ、新たな仕組みを考えるべきだと主張する。
――国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が2022年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されました。地球の平均気温の上昇を産業革命時のレベルから1.5度以内に抑えるための温室効果ガス削減対策の強化では、合意できませんでした。
今回のCOP27の最大のテーマは気候変動による「ロス&ダメージ」(損失と損害)を被った開発途上国への支援だった。形のうえでは合意したが、これを「前進」だと呼ぶ気持ちは湧いてこない。むしろ、今回のCOPで「1.5度目標」の達成が事実上不可能になった現実を私たちはしっかりと反省する必要がある。今後、地球環境は危険な状況になり、食糧危機や水不足、自然災害のリスクが世界的に増大していく。
「私たち市民はCOP27参加をボイコットすべきだ」と、私は開催前から繰り返し指摘してきた。
エジプト政府は非常に強権的な支配体制を敷いており、6万人近い人々が拘束されているという。気候変動問題における弱者であるエジプトの市民はCOP27の会場には近づくこともできなかった。
言論の自由がない国の、社会から隔絶されたリゾート地をわざわざ世界中から二酸化炭素を排出して訪れて、会議に参加してもどれほどの意味があるのか。まさしく「グリーンウォッシュ(まやかしの環境対策)」の典型例ではないか。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんがボイコットを呼びかけたのも当然のことだ。
■COP28もグリーン・ウォッシュとなる
――次回のCOP28は、2023年にアラブ首長国連邦(UAE)で開催されます。
化石燃料を主たる収入にしている国で、果たして脱炭素化に向けた意味のある議論ができるわけがない。次回もグリーン・ウォッシュとなるだろう。これは、COPが形骸化していることを示唆している。
実際、スタートしてから30年近くになるが、合意文書には「化石燃料の削減」という当たり前の内容すら入ったことがない。世界全体の二酸化炭素(CO2)排出量は減るどころか大幅に増えている。その点だけをとらえてもCOPは失敗だと言える。もうこれ以上無駄にする時間はない。同時に、代わりの方法を探るべきだと思う。
――グレタさんはCO2削減に後ろ向きだとして、スウェーデン政府を訴えました。
自国の政府を提訴し、削減対策を実行させるほうがはるかに有意義だ。オランダでは国際環境NGOのフレンズ・オブ・ジ・アース(FOE)とオランダ市民が大手石油メジャーのシェルを相手取って、CO2排出削減を義務づける判決を勝ち取った。
COPの代わりというのであれば、各国が大陸ごとに集まって、もう少し規模の小さい市民会議をやったらどうか。そうすれば、多くの人は飛行機に乗らずに参加できる。
――COP27でも各国がパビリオンを設け、たくさんの企業が脱炭素の取り組みへの熱意をアピールしました。企業の役割と責任をどう見ていますか。
会場には化石燃料産業の関係者やロビイストもたくさん来ていた。プラスチックゴミの大量廃棄問題で国際環境NGOグリーンピースからやり玉に挙げられているコカ・コーラがCOP27のスポンサーになっている。
また、日本企業のブースでは、EACOP(東アフリカ原油パイプライン)という世界最長の石油パイプラインに投資していることが途上国の活動家たちから批判されていた。企業の役割やESG投資が重要だという主張はもちろん否定しないが、グリーンウォッシュには目を光らせる必要がある。
■日本も脱成長への移行を
――そうした実態について、日本の大手メディアはほとんど報じていません。そもそも日本では気候変動問題への関心が低いのが実情です。
再生可能エネルギーや電気自動車導入の取り組みで、日本はヨーロッパなどから2周遅れているのが実情だ。化石燃料の輸入に莫大な資金を支払っている現状にもっと私たちは危機感を持ち、エネルギー安全保障や経済政策として、グリーン産業に積極的な投資をする必要がある。
しかし、世界はもっと先を行っていて、Z世代を中心に、「緑の成長」ではだめで、「脱成長」に移行しなければいけないという機運が高まっている。その点で日本ははるかに立ち後れている。
そもそも日本では人権のような理念が社会を動かす力になりにくい。気候変動問題のみならず、ジェンダー問題や、最近ではサッカーのワールドカップに対する反応でも同じようなことがいえる。
ワールドカップのドイツ代表は1次リーグで敗退したが、選手が開催国カタールの人権状況に抗議の意思を示した。他方、日本ではそうした視点がまったく欠落し、単にスポーツイベントとして楽しめばいいという雰囲気一色だった。
――社会問題の傍観者になっていてはいけないということでしょうか。斎藤さんの近著『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』は、現場に出向いてさまざまな分野の当事者に話を聞き、学び、一緒に経験することの必要性を訴える内容ですね。
私はマルクスの研究を専門にしてきたが、理論だけでは足りない。この本では気候変動問題を含め、さまざまな社会問題をめぐる現場の実践について私自身が学び直す経験をつづった。取材を通じて多くの人たちがどんな苦難に直面しているかを考える機会を得た。
――著書では「脱プラスチック生活」にもチャレンジし、挫折した経験も書かれています。
プラスチックゼロを個人が徹底することはあまりにも大変で、無理だと認識した。プラスチックが含まれていない製品を探すことに労力を費やすよりも、地元の政治家に働き掛けたり、知り合いと勉強会を開催して解決方法を見出すことのほうが社会を変える力になるのではと感じた。
――そのために、どれだけの人たちの考え方が変わる必要がありますか。
『人新世の「資本論」』では、ハーバード大学の政治学者エリカ・チェノウェスらの研究を引用し、「3.5%」の人々が非暴力的な方法で本気で立ち上がると、社会が大きく変わる可能性があるということを書いた。独裁者を権力から引きずり下ろすのであれば、一時的な運動としてそのくらいの数の人たちが盛り上がれば、大きな力を発揮する。
■私たちは自ら学び直す必要がある
もちろん、気候変動問題には少し違った側面がある。それは何かというと、持続可能な社会を作ることが目的である以上、もっと多くの人たちが積極的、かつ継続的に問題解決に取り組む必要があるということだ。つまり、ゴッホの絵にトマトスープをかけるだけでは、気候変動問題はまったく解決しないのだ。
その点では3.5%の人たちが出すメッセージからもっと多くの人たちが学び、自らの価値観や生活を変えていく必要がある。だからこそ、私自身を含めたマジョリティが他者から学び、変わることの大切さを今回の本で訴えた。
――斎藤さんは見かけ倒しの豊かさを追い求めるのをやめ、「脱成長」を目指すべきだと著書で述べています。
気候変動問題に関して言えば、過剰な大量生産・大量消費をやめなければ、ガソリン車が電気自動車に代わったとしても、事態はよくならない。
例えば、毎年、今の年末年始の時期に、クリスマスケーキや正月のおせちなどが、大量廃棄されている問題。これは、環境問題でもあるが、ノルマとか、強制購入、廃棄の心理的負担など労働問題にもつながっている。人間も自然も使い捨てない社会にするためには、未来の技術革新に頼るだけでなく、今すぐできる身近な使い捨て社会の問題を解決していくべきだ。
私の考える本当の豊かさとは、労働時間をもっと短くし、家族や友だちと時間を共に過ごし、地域でボランティア活動やスポーツをしたりすることだ。そのためには公園や図書館などの「コモン」(人々によって社会的に共有・管理される富)を増やしていく必要がある。
■必要なのは「下からのうねり」
――斎藤さんは市民やローカルの役割を重視していますが、国家の役割をどう考えますか。
国家の役割はまったく否定していない。例えば週休3日制を全産業に当てはめるには、国の役割は重要だ。しかし、そのためには、週休3日制を求める声が、市民や労働者からわき上がってこなければ法制化を実現できない。また、自治体レベルでさまざまな取り組みが必要だ。
例えば、市民が声を上げることで自分が住む町で自動車が進入できないゾーンを広げたり、東京都が条例化したような、新築住宅の屋根に太陽光パネルを載せることを義務化するといった取り組みも重要だ。人々の意識が変わっていけば、やがては抜本的な格差是正策として、国レベルで年収について上限を定めるといったことも考えられる。気候変動問題もそうしたさまざまな取り組みと密接に関係している。
いずれにせよ、下からのうねりがあって初めて、国のGX(グリーントランスフォーメーション)も、COPのような国際会議も意味を持つ。私たちが声を上げることのないままに、良心的な政治家や企業経営者のようなリーダーが良い政策や技術で、気候危機から救ってくれるという幻想を捨てなければならない。そうしなければ、世界の気温上昇は1.5度のみならず、2.0度のラインも遅かれ早かれ、突破してしまうだろう。
今、「国を守る」時ではない。「地球」を守らなければ・・・
「世界」に求められているのは「国軍」の解散である。
今こそ「日本国憲法」が輝く時なのだ。
今日も昼まではいい天気でした。こんなに天気が続き、しかもプラス気温まで上がるというのは異常気象の部類でしょう。
面白いビデオ見つけました。この人いまブレークしていますね。なんか氣になる人です。
登紀子の「土の日」ライブVol.28「驚きの出逢い!!」