「しんぶん赤旗」2024年8月27日
「知の総和」を高めるため国立大交付金の拡充必要
国立大学が法人化され20年。国からの運営費交付金が13%も削減され、物価高騰のもとで厳しい財政状況に陥っています。政府内で学費値上げの議論が沸き起こる中で、高知大学の受田浩之学長は「授業料は無償化にかじを切るべきだ」と日本共産党の宮本岳志衆院議員との懇談(8月7日)のなかで言明しました。
(土井誠 党学術・文化委員会事務局長)
―国立大学の交付金が削減され、国立大学協会も物価高騰のもとで「もう限界です」(6月7日)という声明を発表しています。
高知大学への交付金は法人化後、約6億円減っています。病院収入や産学連携の研究費を増やしていますが、これはそのまま支出しますので厳しい状況です。
2023年度の人事院勧告で国家公務員の給与が引き上げられ、高知大学では約1億2千万円の人件費増となりました。ところが、交付金は減ったままです。今後人事院が賃上げを勧告しても、25年度はもう反映できない状況です。しかし、これができないと有為な人材を確保することができなくなります。
電気代は19年と比べて約2倍です。施設の維持管理コストが毎年約13億円不足しています。その結果、全面改修できていない老朽化した建物は6割を超えています。学生の命にかかわる極めて深刻な状況です。
予算の制約により法人化後、教員が62人、常勤職員が45人減っています。教員1人当たりの研究費も4分の1の11万3千円に減らしました。学会の出張で使い切ってしまう程度しかありません。教員のみなさんには、科学研究費などの競争的資金の獲得に挑戦してもらっています。
日本は大学予算を抑制していますが、諸外国は大幅に増やしています。2000年を1として大学部門の22年の研究開発費(名目額)を見ると、日本は1・0で伸びていません。一方、米国3・1、ドイツ2・6、フランス2・0、中国28・4、韓国6・6と大きく伸ばしています(文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2024」)。企業の研究開発費も日本は他国に比べて極めて低調です。
日本の研究開発は十分に投資されていません。これまでのストックしているものを全部注ぎ込んでいて、もう蓄えがなくなっていると言わざるを得ません。
イノベーション創発の中核を担っていくために研究開発力をより強化したい。そのためには交付金の拡充は不可欠です。
―厳しい財政のもとで授業料を値上げすべきだという議論がありますが。
安定的な収入の確保のために、例えば東大は授業料を20%値上げしようとか、慶応義塾大の伊藤公平塾長のように国立大学の授業料を年53万円から150万円に値上げしてはどうかなどの考え方が出てきています。
しかし、私は、授業料は無償化に向けてかじを切るべきだと考えています。
日本はこれから人口減少局面に入ります。国力の低下を防ぐ唯一の戦略は「知の総和」(量×質)を高めることにあります。量が人数、質とはそれぞれの力を高めていくことです。文科省は博士号取得者を2040年に向けて、20年比3倍にするという目標を掲げています。労働力人口に占める大学院修了者比率が高ければ、労働生産性も高くなる関係にあるからです。この人口100万人当たりの博士号取得者数を見ると、日本は他国と比較して少なく、伸びていません。修士号取得者数も同じ傾向にあります。一方、学部の卒業生、学士号取得者数は他国と比べてそん色がありません。
修士号、博士号取得者数を伸ばすためには、ネックになっている経済的な問題を改善する必要があります。
―国民の暮らしが苦しくなっている中で、学費負担が重くなっています。
厚生労働省の国民生活基礎調査の23年度調査を見ると、平均所得金額以下の世帯数が62・2%、300万円未満が36%を占めています。生活意識への問いでは「苦しい」の回答が全世帯の59・6%と22年の51・3%から大幅上昇しています。
平均年収賃金構造基本統計調査をみると、東京は月収37万5500円ですが、高知は26万円で東京より3割低くなっています。
一方、日本の高等教育機関への教育支出における私費負担割合がOECD(経済協力開発機構)加盟国37カ国の中で3番目に高くなっています。(図2)
今、学部生の2人に1人が奨学金を受け取っています。労働者福祉中央協議会の22年の調査では日本学生支援機構の奨学金返還者の平均借入総額は310万円で返済期間は平均14・5年でした。
高知大学のアンケートでは、留学を「強く希望する」「できれば留学したい」と回答した学生は18年度59%、20年度40%、21年度68%と、コロナ禍における内向き志向から徐々に海外志向が高まってきています。一方で、留学できない理由を問うと「費用面、経済的理由」を挙げた学生が約7割を占めます。
奨学金を受けて何とか学生時代を乗り切っていますが、海外に飛び立とうという経済的余裕はありません。
―住民税非課税世帯の若者の学費を免除し、奨学金を給付する修学支援制度は、財源を消費税に限るなどの解決すべき課題はありますが、進学率を上昇させました。
制度開始時の2018年度の住民税非課税世帯の高等教育機関への進学率は40%でしたが、23年度は約69%まで上昇しました。これほど実効性が証明されている政策はありません。よって、これに続く、国立大学の授業料の無償化に向けた社会変革が必要だと、国立大学協会などさまざまな場で提案していきます。
うけだ・ひろゆき 1960年北九州市生まれ。農学博士(九州大学)。今年4月より高知大学学長。専門は食品分析学、食品化学、食品機能学。内閣府消費者委員会委員長代理などを歴任。編著に『新時代LX ―持続可能な地域の未来を切り拓く』等
軍事費を削って教育、人材育成に使ってほしいものです。
台風の動きが氣になります。
北海道では前線の影響で強い雨が降っています。
さらに台風が来るとかなりの被害に見舞われる可能性があります。
園のようす。