人の世は、滞在期間の定め無き、今日一日の旅の宿

 時 人を待たず、光陰 惜しむべし
 古より有道の人、国城 男女 七宝 百物を 惜しまず
 唯 光陰のみ、之を惜しむ

方剤:麦門冬湯

2019-08-11 | 日記


次は麦門冬湯です。
これは後で出て来る炙甘草湯とよく似ています。
三陰三陽で分類してある図では、
この二つはすぐ近くに書いてあります。
この附近は皆、の虚がある人なのです。

麦門冬湯は基本は外因病に使います。でも脾や肺の虚がない人は
普通の状態では麦門冬湯証にならないのです。そこまで言うと
内因病と外因病の関係が非常に分からなくなってしまうのですね。

純粋な外因病で麦門冬湯になる疾患は
たった一つだけあります。それは百日咳です。
ワクチンが出来てから今では無くなったのですが、
私が医者になった頃はありました。
本当に小さい1,2歳の子供がひどい咳をして可愛そうでした。
他の鎮咳剤や去痰剤が全然効かないのです。
でもこの麦門冬湯だけが非常に良効くのです。
何故か分からないが他の薬が効かないから
百日咳というすごい名前がついたのでしょう。
麦門冬湯はもしかしたらそういう様なものを想定して
作られたのかも知れません。

現代では単純に風邪をひいて
基礎疾患がないなら、例えば麻杏甘草湯や麻杏甘石湯合、
あるいは単なる麻黄湯や桂麻各半湯とか、
普通の太陽陽明の合病とか、その付近の状態になるのです。
でも風邪をひくと必ず喘息になるとか、
痰の切れない咳がつくという人がいます。
先に言った百日咳の場合はこれ一つだけで良く、
合方する必要が無いのですが、
今言ったような風邪の時は
必ず麻杏甘石湯麦門冬湯を合方して使います

それに対して内因病から出発して
慢性気管支炎になっている状態にも麻杏甘草湯と麦門冬湯
あるいは五虎湯と麦門冬湯の合方という全く同じ処方で
効いてしまいます。

でもこの人は外因病で使い、
この人は慢性気管支炎に使っているということを
一応頭の中で整理しておいたほうが良いですね。
そうしないと薬は同じでも外因病として治療しているのか
内因病として治療しているのか曖昧になってしまいます。

麦門冬湯の一番の特徴は「大逆上気」です。
咳き込んで顔が真っ赤になるのが上気です。
場合によっては吐くぐらいになるまで咳き込んで、
それでちょっと痰が出て楽になります
痰は多くないのです。これが麦門冬湯の証です。
まあ聞けば分かりますね。

これと似た状態で痰がたくさん出て、それでも咳き込むというのが
五虎二陳湯だと言うことは前に言いました。普通は、麦門冬湯に
気管支拡張作用のある麻杏甘石湯や五虎湯を合わせて使います。
どちらかといったら外因病の時は麻杏甘石湯と組み合わせる事が多く、
内因病の時は五虎湯と合わせる事が多いのですが
「大逆上気」の時に使うというのが特徴です 
ただの虚があるのは確かめたほうが良いのです。

実は麦門冬湯のお年寄り版は清肺湯なのですが、
清肺湯になると「大逆上気」も強くありませんし、痰の量は少し増えます。
でも痰が粘張で切れにくいのは同じです。何故そうなるかと言うと
お年寄りだから「大逆上気」するほど咳き込めないのです。
そしてお年寄りになると肺疾患も慢性化していて、
肺の線維化も起こっているので、痰も少し多くなります。
これは年齢によるシフトであって、
五虎二陳湯の様な水性の痰がたくさん出るようなことはないのです。

後で出てきますが、清肺湯は麦門冬湯のお年寄り版で
五虎清肺湯の組合せで使います。
お年よりはそんなに水を貯められませんので、
五虎二陳湯というのはほとんどありません。
おそらく若い人の五虎二陳湯も五虎麦門冬湯も、
歳をとると両方とも五虎清肺湯になっていくと思います。
麦門冬湯は特殊な状態の時にしか使わないのですが、
結構使い手はあります。急性疾患にも使いますし、
慢性疾患で長期に使っておられる人も居ます。

第11回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda11.htm


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