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虚しさの まなこに出でて さいはひの 一世の夢は 黄金のひとや
*今週は三首ほど詠めました。添島のほうにエネルギーをとられて、ここのところ全然詠めていなかったのですが、少し調子が戻ってきたようですね。
表題の作は、わたしたちが例の悪魔と呼んでいる、ある野球選手のために詠ったものです。
世界的に有名な選手でね、今もテレビの中で大活躍しているのですが、本人は全然楽しそうじゃない。才能にも名声にもお金にも美人の妻にも、全部恵まれているのに、目から虚しさがこぼれ出ている。
愛が何もないからです。すべては嘘だからです。
人から盗んだ福をつぎ込んで、人もうらやましがるような、何もかもに恵まれた人生をでっちあげてみたら、みごとの黄金の牢屋(ひとや)ができあがった。何も知らなかった馬鹿者は、一生あの牢獄から出られない。
魂が愛に飢えて、疲れ果てていくのに、幸せのふりを続けていかねばならない。馬鹿が馬鹿をやりすぎて、世界中の人をだましてしまったからです。
かわいそうだが、わたしたちは救いの手を差し伸べるつもりはありません。あれは当然の報いだからです。愛を馬鹿にし、人を馬鹿にし、すべてを自分のエサにして、自分だけの豪勢な幸せを味わおうとした、悪魔の行き着いた、当然の結末なのです。
人の苦しみを振り向きもせず、自分の幸せのためだけに生きてきた。だから自分が苦しんでも、だれにも振り向いてもらえない。
黄金の幸せでできた、豪勢なひとやの中で、彼は一生、冷たい孤独を抱いて、苦しまねばならないのです。