ゆく人に 反魂草は 術もなく 夢詩香
*ハンゴンソウは、キク科の花で、黄色い花が咲きます。残念ながら、うちの近くには咲いていないので、ちょっと似ているツワブキの花で代用です。
名前の由来はよく知らないけど、反魂というのは、よみがえりという意味ですよね。若芽は山菜になるらしいですから、もしかしたら死人もよみがえるほどの薬効があるということかもしれません。
お義父さんがなくなったのは、もう十年くらい前になりますか。わたしがお嫁に来た時には、もうかなりの年でした。夫が、遅くにできた子供だったからです。
もう仕事は引退していて、病気がちでしたね。ずっと自宅療養していましたが、ある時入院したら、あっけなくいってしまった。
魂のない遺体になって家に帰って来たときは、灰色の顔をしていました。これが、あの人と同じ人だとは思えなかった。死に顔も、人によって違うようだ。
もうあの人はいないんだ。ハンゴンソウがあっても、帰って来ることはできない。どんな立派な医者でも、死んでいく人を止めることはできない。
庭仕事が好きな人でした。仕事はまじめで、上司の信頼も厚かったそうです。たいして出世はしなかったけど、お義母さんと協力し合って、小さいけれどいい家を建てた。子供たちもみんな立派に育て上げた。
まずまずの人生だと言えるかもしれない。
けど、不思議なのは、お義母さんが悲しまなかったことで。
なんとなくわかる。暴力をふるうような人じゃなかったし、ちゃんとまじめに働いてくれる人だったけど、いつも文句ばかり言っていた。
この家も、半分はお義母さんが建てたようなものなんだけど、そんなことは一切認めなかった。
ハンゴンソウが咲いていても、お義母さんはたぶん知らないふりをしたと思う。
女の人の苦労はいつも、一番欲しいと思う心を、男の人が決してくれないことなんだ。