長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

火縄くすぶる…

2010年07月15日 16時20分00秒 | やたらと映画
 …そんなわけで、ワールドカップに気を取られて、あっという間に7月初旬は過ぎていった。……実際に観た試合は3試合ぐらいしかなかったのに、どうしたことだろう。
 人間、何事かに囚われると、時間はアッという間に過ぎていく。海中で竜宮に囚われた浦島しかり、山中で童子の碁に囚われたきこり然り。
 気がつけば、入谷の朝顔市も、四万六千日ほおずき市も、いつの間にか終わっていて……とはいえ、私自身、何事かに常に心囚われて(それが芸道のことだけなら苦労はないのだが…)上の空で日々を送っているので、こういった行事も気が向いたときに、しかも思い立ったときにしか行かないのであるが……東京はお盆になっていた。所用で出かけた市ヶ谷駅近辺は、靖国神社のみたま祭で、すごい人波だ。
 
 7月14日は、パリ祭である。…といってもどうやら、これは昭和に映画『巴里祭』を観た人にしか共感を得られない、日本特有の言葉らしいのだ。
 フランスの革命記念日で、ツール・ド・フランスも開催される。…サッカーの次は自転車かぁ…と、気分だけ渦に巻き込まれている私は、めまぐるしく想いながらも、淡い空色の南フランスの海が描かれた、ラウル・デュフィの窓辺の絵を思い浮かべて、うっとりする。

 フランス革命といったら1789年で、これは歴史の先生が「火縄くすぶるバスチーユ」と、覚えることを教えてくれた。だから私のヨーロッパ近代史は、この覚えやすい年号が基点となっている。
 ほかに印象的なのは、知人が、1234年に中国で「いち、にぃ、さん、し、金、滅ぶ」というのも教えてくれたが、これは、中国の数ある王朝で彩られた悠久の歴史を覚える基点とするには、どうにも脈絡がない。

 …そしてフランス革命といえば、昭和の世では『ベルばら』。
 しかし、生憎と、我が家には「寛政異学の禁」に似て非なる「小学漫画の禁」ともいうべきお触れがあり、気安く自宅で漫画が読めなかったのだった。親戚のお兄さんが少年サンデー、少年マガジンなどを購読していたので、遊びに行くと読んでいた。小学生の私は少年漫画に明るかったのだ。
 その小学高学年時代に、私が革命を起こしたのが「少女コミック」別冊号から週刊誌へなし崩し計画、というものである。どうしても読みたい、と思えるものだけを、決死の覚悟で手に入れてくるので、「勧進帳」の弁慶のように鬼気迫っていたらしく、父は富樫になって関所を通してくれたようだった。
 漫画雑誌も、各社それぞれ色合いがあり、私は断然、小学館の「少女コミック」だった。第一のごひいきは萩尾望都。大島弓子、竹宮恵子にも心かき乱された。池田理代子の『ベルサイユのばら』は、読んでいなかったのである。
 『ベルばら』が連載されていたのは集英社の「週刊マーガレット」で、私は同誌を、幼稚園児だったころ、グループサウンズ黄金時代に購読していた。ザ・タイガース(ジュリーではなく、断然、トッポのファン)の巻頭グラビアが載っていたのである。
 毎週発売日に、五十円玉を握りしめて書店目掛けて一心不乱に駆け出していく、バサラ的幼稚園児。…すでに異形の者。
 常に何かに囚われている私の原点は、ここなのかもしれない。オソロシや…。

 そういうこともあって、ベルばらにハマりそこなった私は、宝塚の舞台も、一度も観たことがない。
 しかし、中学時代の同級生で、ものすごく『ベルばら』好きの友人がいて、「絶対にこれは、ものすごくよくって、ものすごっく、面白いから!!」と、レコードや写真集(そのころはビデオがなかった)など、ベルばら関連のすべての資料を私に貸してくれた。
 彼女はバレー部のキャプテンで、バリバリの体育会系スポーツウーマンで、そのようなものに興味があるとは知らなかった。その迫力に度肝を抜かれた私は、「へぇ…そうなんだ」と、遠慮申し上げる言葉もなく、押しいただいて拝聴、拝読した。
 だからいまでも、観たこともない「♪ああ、愛あればこそ」とか、宝塚の『ベルばら』の曲が歌えるのだった。

 それよりも何よりも、『ベルばら』が舞台化されるにあたり、当時もっともビックリなニュースだったのが、あの、長谷川一夫が、演出を手掛ける、ということだった。
 明治末期から大正生まれのバアサマには唯一無二の存在ともいえる映画俳優である。

 以前、出稽古に伺っていた永福町のご隠居。結婚前はモガで鳴らして、銀ブラして家に帰ると不良といわれ、母親にえらく叱られたという、そのご隠居様は、長谷川一夫のご贔屓で、戦前の林長二郎時代の「雪之丞変化」を、週に五回観に行った、と言っていた。
 たしかに、セピアカラーのフィルムの中の、若き日の細面で白塗りの長谷川一夫は、20世紀末ギャルの私の目にも、花なら蕾というような、ハッとするような男前だった。
 …当家のバアサンはある時、高田浩吉にくらっと来たが、ジイサンにたしなめられたらしい。そのバアサンは、長谷川一夫のいかにも…という秋波が、好きではなかったようだ。なにしろ水戸黄門は、月形龍之介じゃなくちゃ、という渋好みだったからなぁ。

 ……と、くすぶるのは、火縄どころか、記憶。「ラ・マルセイェーズ」のメロディが、頭の中でぐるぐるする映画は、『カサブランカ』だっけ? イングリッド・バーグマンがやっぱりヒロインだった『誰がために鐘は鳴る』は…スペイン内乱だから、違うか。

 革命記念日が日本にないのはなぜだろう。

 …それよりも、ここへ来て初めて気がついてギョギョッとしたのだが、フランス革命で火縄銃って、さすがに、もはや使ってなかったんじゃないかなぁ。
 ……気になる。


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2 コメント

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ご無沙汰しました! (FK)
2010-07-15 20:19:49
すっかり、ご無沙汰いたしました!
この1か月半、数十年ぶりに真面目に勉強していたため、
さらに、ワールドカップも観て、となると、
他のことはいっさい無視してしまい、失礼いたしました。

ワールドカップでは、最後の日本戦は、非国民宣言をして、
パラグアイを応援していました。
しっかし、昨年からずっと、南米予選を追っかけ、
次にサンタクルスのケガは治るのかで、ヒヤヒヤし・・
くったびれました。
でも、しかし、どうも勝負事に根性だせない性格で
PK戦になってしまえば、どっちにも頑張って欲しい・・・
何時ぞやのオシム監督風に、テレビから目を背け・・・
(スカパー解説のオシム氏は、「PK戦見た」と言っていたけれど)

久々に勉強をしたら、これも案外いいもので・・
(学生時代そうだったら、よかったのにね)
次はなににしようか、
ヨーロッパ、北アフリカあたりに行くと
ローマ時代の話を抜きには、なにもわからないから
世界史にしようか・・・と考えていたら、このブログ!
世界史にします。
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すごい集中力! (tokuou)
2010-07-16 10:01:25
FKさま!

サンタクルスの写真を残したまま、
しばらく更新がなかったので、
どうなさったのかなぁと、気になっていたのです。

勉強に囚われ人…だったのですね。頼もしい!
そんなに一心不乱に何を勉強していたのか、気になります。

世界史も楽しいですね!
中学生のころ、産業革命の辺りのヨーロッパ史を、個人的趣味でイラスト入り(…というより漫画)のレポートにしてたことがありました。

歴史は正史外の、教科書の脚注に補足説明されてるような、細かいところが面白いですね!
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