
「一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する」
以下、書籍を読了した。
・「一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する」
(石井俊全著)
本書は題目のごとく、一般相対性理論を数式で理解したい読者を対象にしている。冒頭の”はじめに”を読むと想定読者として、特殊相対論までは啓蒙書により数式レベルで理解することができたが、一般相対論に関しては専門書に手を出して挫折した、という経験をお持ちの方とある。よって初学者が、この本を手にするのは敷居が高いことをまずはお断りしておく。
まず相対性理論に興味のある方は、数式から入るのではなく、相対性理論の考え方を数式を使わず、分かりやすく書かれたものをお薦めする。私のお薦めは、NHKスペシャルの「アインシュタイン・ロマン」のDVDを見ることである。少々、値ははるが、DVD BOXが販売されているので購入してはいかがであろうか。この「アインシュタイン・ロマン」は、NHKスペシャルの中でも傑作中の傑作だと思っているので買って損はないと思う。ちなみに私はこの番組をリアルタイムで見ている。そして今回を契機にDVD BOXを購入してしまった。
そして私の場合、まさに特殊相対論まで数式で理解できたものの、一般相対論で挫折した過去をもつ、まさに本書にうってつけの対象者であった。私の場合、微分幾何の心得もある。そして煩雑なテンソル計算も経験した過去もある。そういう意味では、私の書評はあまり役に立たないかもしれない。
私の場合においては物理学の知識が著しく貧弱であった。そういう意味では、”数学の準備”、”物理の準備”に入念に紙面を割いて、200ページ強の解説が平易な形でなされていることは、私にとって真に有難かったといっても良い。手に取った読者も同様に思うことだろう。他書には見られない親切さである。またテンソル解説にも入念に解説がなされており、縮約規則についても丁寧に解説されている。
とは言いつつも添字のたくさん付いたテンソル計算には辟易する。よっぽど計算に手慣れていない限り、数式を追っていくのは難儀である。それでも何とか読み進められるところに、この本の良さがある。ここまで親切に噛み砕いて、途中式まで載せながら解説している書籍は他を見ない。
それでも最終章の一般相対性理論を読み進めるのは難儀であった。いくつか物理的制約を付けた上で数式を計算していく個所があるのだが、私の場合、物理の知識の貧弱さがアキレス腱となって、今一つその制約がうまく飲み込めなかったのが要因だったかもしれない。もっとゆっくりと一ページ一ページ咀嚼するように読めば、もっと簡単にクリアできたのかもしれない。
それでも私が最後まで読みきることができたのは、ひとえに著者の”誰でも理解できるようになってほしい”という執拗なまでの徹底した熱意によるものだと感謝している。私のような者が読めたのだから、きっとこれを手にした読者も私よりもより深く理解できることだろう。
本書の範囲を超えるが述べておきたいことがある。アインシュタインは従来の物理学を根底から覆し、新しい時空や物質、エネルギーの概念を獲得した人物である。それはとても素晴らしいことだと思う。しかしこれを契機に核爆弾が開発され、それまでとはスケールの違う、人類を破滅せしめる地球規模の悲劇的な殺戮兵器が生まれてしまったのも、また事実である。そして第二次世界大戦中、ユダヤ人でアメリカに亡命したアインシュタインが敵国ドイツに対抗するため、やむを得ず核爆弾の開発に加担したことを、終生悔やみ、心に暗い影を落としていた事実も忘れてはならない。
科学の発展の裏には、常にフランケンシュタインのような誘惑が影をひそめている。本書は純粋に数式による一般相対性理論の理解に務めている。できれば本書を読み終えた後、アインシュタインとは一体どういう人物であったのか、歴史をひもといてほしい。そうして初めて一般相対性理論を理解できたと言えるのではないだろうか。私はかように思うのである。
最後に、とても素晴らしい本を作ってくださった著者に感謝したい。「カロア理論の頂を踏む」以来の大著。とても待ち遠しかった。これからも応援します。次に出版予定の本「激わかる!実例つき ビジネス統計学」も楽しみにしています。皆さんも是非。