2015年に引退したパリ・オペラ座バレエ団のエトワール、オーレリ・デュポンに人気監督セドリック・クラピッシュが3年間密着したドキュメンタリー。2005年の“青春3部作”第2弾『ロシアン・ドールズ』でロシアのバレリーナ、エフゲニア・オブラツォーヴァを出演させるなど、かねてよりバレエやダンスに関心を寄せてきたクラピッシュが、ここではデュポンのキャリア最終盤に密着し、後には引退公演『マノン』を劇場公開用に撮影するに至っている。
ドキュメンタリーながらデュポン本人のコメントはおろか、ろくろくテロップやナレーションも入れることなく、彼女の類まれなカリスマ性とストイックな身体鍛錬を見つめ、クラピッシュのダンサーに対する深い敬愛を察することができる。インタビュー時にタバコをくゆらせるデュポンの貫禄は往年のフランス大女優さながらで、クラピッシュが魅せられずにはいられなかったのがよくわかるが、彼が平伏しているのはデュポンという踊り手の精神性そのものだろう。背中の筋肉のうねり、緊張感に満ちた足元をつぶさに見つめ、反復と探求を繰り返すコンテンポラリーの稽古場に息を詰めて密着している。本作での経験が後に「踊れる役者よりも芝居のできるダンサーがいい」と、やはりパリ・オペラ座バレエ団のダンサー、マリオン・バルボーを起用した念願のダンス・フィクションもの『ダンサーインParis』につながるのだ。
『オーレリ・デュポン 輝ける一瞬に』10・仏
監督 セドリック・クラピッシュ
出演 オーレリ・デュポン