長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『オン・ザ・ロック』

2021-01-02 | 映画レビュー(お)

 1999年『ヴァージン・スーサイズ』で監督デビューしたソフィア・コッポラも49歳。パークハイアットの窓辺で憂いた少女は中年となり、再び“ロスト・イン・トランスレーション”する彼女の手を取るのは今度もビル・マーレイだ。女たらしで軽妙洒脱、そしていつだって1番の味方である理想のチョイ悪オヤジをもちろんマーレイはチャーミングに演じて最高である。

 僕はどういうワケか『マリー・アントワネット』以来のソフィア・コッポラ映画となったが、久しぶりに見てその洗練に驚かされた。描かれるライフスタイルは相変わらず世俗から遠いが、ここには不惑の年齢を迎えた人間普遍の実感がある。子育てと夫の不倫に悩まされ、自身の創作もままならない生活感は大いに共感できた。だがビル・マーレイと繰り出せば、夜のNYはなんともゴージャスで、胸躍るカメラなのだ。女優の趣味も実に良く、ラシダ・ジョーンズはマーレイ以上にこの映画のハートである。

 ソフィアはマーレイ扮するダメ親父に憧れながら、それを良しとは描かない。レストランのウェイトレスですら口説かずにはいられず、職質を受ければのらりくらりとかわし、孫には『ブレイキングバッド』を見せる(「面白いけど子供はダメ!」)彼は、事も無げに「(加齢で)女性の声が聞き取れない」とのたまう。歳を取ると高音が聞き取れないとは言われるが、親父はいつだって女性の声に耳を傾けてこなかった。2010年代後半、“女性映画”が更新されて以後、これまで活躍してきた女性監督達も今一度、男性性について見つめ直しているのだ。


『オン・ザ・ロック』20・米
監督 ソフィア・コッポラ
出演 ラシダ・ジョーンズ、ビル・マーレイ、マーロン・ウェイアンズ
※AppleTV+で配信中※
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『思い、思われ、ふり、ふられ』

2020-08-22 | 映画レビュー(お)

 近年、『13の理由』『ユーフォリア』『最高に素晴らしいこと』『はちどり』等、心動かされる青春モノが続いた。40歳になろうという僕が高校生達に感情移入できたのはそれらが人生の一時だけではなく、人間普遍の孤独を描いていたからだ(そしてそこにはメンタルヘルスに対する現代人の不安も垣間見えた)。

 そんな秀作群の後で咲坂伊緒の同名漫画を原作とした本作の世界は狭い。このジャンルでは異例の124分をかけて男女が好きだ告白するしないに終始するだけなのだ。Netflixで配信された『ハーフ・オブ・イット』は高校生達がカズオ・イシグロと『ベルリン天使の詩』で意気投合し、その文化的教養が相手への好意を高めていたが、本作で引用されるのはリチャード・カーティスの駄作『アバウト・タイム』である(みんな何でそんなに好きなのこの映画)。青春時代の友情や恋というのは一時のものであり、その伴走が後の人生の彩りとなる。本作は映画が終わっても続く彼らのその後に対する余白がなかった。

 中高校生をメインターゲットに大量生産されてきた“ティーンムービー”はおそらく日本で独自発展したエクスプロイテーションムービーと思うが、『アオハライド』はじめ数々のジャンル映画を撮ってきた三木孝浩監督は目線や間合いに目を凝らした演出で若手俳優達から繊細な演技を引き出す事に成功している。特に「え」という言葉だけで幾通りもの感情表現をする浜辺美波には目を見張った。日本映画界にもこんな基礎体力の高い職人監督が育っていたのか。名前を覚えておきたい。


『思い、思われ、ふり、ふられ』20・日
監督 三木孝浩
出演 浜辺美波、北村匠海、福本莉子、赤楚衛二
 
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『オールド・ガード』

2020-07-13 | 映画レビュー(お)

 近年、マイケル・ベイ監督『6アンダーグラウンド』やクリス・ヘムズワース主演『タイラー・レイク』など大作アクション映画の配信に力を入れているNetflix。ド派手な娯楽作はスマホやTVのモニターではなく、大スクリーンで見たいというのが一映画ファンとしての本音だが、コロナショックによって新作が途絶えた今、絶好調シャーリーズ・セロン主演最新作が観れるのはありがたい。

 どういうワケか前述の2作同様、この世の悪を正すノマド傭兵部隊モノである本作はそれだけに違いが際立ってしまうのが損だ。物量と火薬の“ベイヘム演出”で魅せる『6アンダーグラウンド』、チャド・スタエルスキー組で鍛えたスタントマン出身サム・ハーグレイヴのアクション演出が冴えた『タイラー・レイク』に比べ、本作のジーナ・プリンス・バイス監督はあまりにも無個性で、不慣れだ。スピードやパワーを見せる技術がなく、今やアクションスターでもあるセロンの身体性も撮らえきれていない。新入り役キキ・レインは『ビールストリートの恋人たち』から一転、アクション女優の才を見せて奮闘しているのだが、それでも映画を救うには至っていない。全米の批評家は好意的な反応を示しているが、有難がり過ぎではないか。

 個人的には『ザ・ファイブ・ブラッズ』でも印象的だったベロニカ・グゥをシャーリーズ・セロンとカップリングさせたセンスに色めきたった。この百合設定考えたヤツ、天才か!(プロデュースも兼ねたセロンの功績だろう)。


『オールド・ガード』20・米
監督 ジーナ・プリンス・バイス
出演 シャーリーズ・セロン、キキ・レイン、マティアス・スーナールツ、キウェテル・イジョホー、ベロニカ・グゥ
 
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『俺たちホームズ&ワトソン』

2019-12-06 | 映画レビュー(お)

 ウィル・フェレルとジョン・C・ライリーがイチャイチャしながらボケとツッコミを無限に繰り返す“俺たちシリーズ”(非公式)最新作。今回は近年、TVや映画でリメイクの続く『シャーロック・ホームズ』がネタだ。ベネディクト・カンバーバッチ×マーティン・フリーマン、ロバート・ダウニーJr.×ジュード・ロウによってしきりにBLというか、やおいというか、ブロマンス要素が強調されてきたこの古典はまさに“俺たち”シリーズに打ってつけ。かくして公開されてみれば…うわーい、ラジー賞独占しちゃったよー!

 気難しいホームズがフェレルで、ホームズラブなワトソンがライリーというのは何だか真逆なキャスティングに思えるが、裏返してみてもこの2人じゃ大差ないか(企画初期段階ではホームズがサシャ・バロン・コーエン、フェレルがワトソンだったらしい)。なぜか1人だけ大真面目に演じるレイフ・ファインズ扮するモリアーティ教授を追って各地で騒動を繰り広げる。ライリーはこの年、殺人ガンマンを好演した『ゴールデン・リバー』を掛け持ちしており、つくづく独自のキャリアだなぁ、と。フェレルと2人揃えばここぞとばかりにミュージカルラヴソングまでカマし、バカ映画にも惜しむ事なく才能を注ぎ込むシャレのわかる男である。

 2人を囲んでレベッカ・ホールやヒュー・ローリーといった演技派から、いつも通りスティーヴ・クーガンまで登場。大人子供キャラが十八番のフェレルがホームズなせいか、いつもに比べるとやや大人しめだが、何も考えずに見るには十分な口当たり。そういう手堅いだけのバカ映画はラジー賞に目つけられるんだよな!


『俺たちホームズ&ワトソン』18・米
監督 イータン・コーエン
出演 ウィル・フェレル、ジョン・C・ライリー、ケリー・マクドナルド、レベッカ・ホール、レイフ・ファインズ、ヒュー・ローリー、スティーヴ・クーガン
 
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『オフィーリア』

2019-12-06 | 映画レビュー(お)

 『眠れる森の美女』を邪悪な魔女側から描いた『マレフィセント』など、古典作品の再映画化がブームとなっている昨今だが、往々にして本末転倒な発想ばかりであり、いい加減にしてくれという気分になってしまう。本作もシェイクスピアの代表作『ハムレット』に登場した悲劇のヒロイン・オフィーリアの視点で描く新解釈版だが、古典をないがしろにした底の浅い2次創作と言わざるを得ない。そもそも『ハムレット』のスピンオフにはトム・ストッパードによる名作『ローゼン・クランツとギルデン・スターンは死んだ』があり、今さら新訳が立ち入るのも憚られる聖域なのだ。

 デンマーク王妃の下で侍女として育てられた平民の娘オフィーリアは大学から帰省した王子ハムレットと運命的な恋に落ちる。時同じくしてデンマーク王が急逝。王の弟クローディアスが玉座に着き、先王の妻ガートルードを妃とする。王宮には『ゲーム・オブ・スローンズ』ばりの策謀が張り巡らされ、ハムレットとオフィーリアに悲劇が迫る…まぁ、今更あらすじは言うまでもないだろう。

『スターウォーズ』新3部作で主役を務めるデイジー・リドリーがオフィーリアに扮し、さてイギリス女優の本領や如何にと思えば、どうやら彼女の本分はアクションにあるらしく(『最後のジェダイ』の素晴らしい立ち回りを思い出してもらいたい)、ハムレット役ジョージ・マッケイとの間には何1つケミカルが起きない。これではオフィーリアが狂気を装い、荒れ地の魔女から仮死状態に陥る薬を貰って入水自殺を偽装し、ハムレットと落ち合うべく尼寺へ向かうという沙翁作品のマッシュアップは白けてしまうばかりだ。終幕、なす術なく悲劇へと突き進むハムレットを、オフィーリアはほとんど見限っているようにすら見えてしまった。

 この映画を見ている人が沙翁の原作を未読とは思えないが、そんな稀有な人がいるならぜひ本を手に取ってイマジネーションの扉を開いて欲しい。きっとあなたの脳内には最高の映画化作品が上映される事だろう。


『オフィーリア』18・米、英
監督 クレア・マッカーシー
出演 デイジー・リドリー、ナオミ・ワッツ、クライヴ・オーウェン、ジョージ・マッケイ、トム・フェルトン
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