長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ゴジラvsコング』

2021-07-08 | 映画レビュー(こ)

 “モンスターズ・ユニバース”最新作はいよいよゴジラとコングの一大プロレス興行だ。2大人気キャラクターの激突は昨今も『バットマンvsスーパーマン』が記憶に新しいが、どちらのファンも満足させつつ決着をつけなくてはならない監督の気苦労は相当なものだろう。その点、本作のアダム・ウィンガード監督は『ザ・ゲスト』やハリウッド版『デス・ノート』も務めたホラー映画職人らしい思い切りの良さで、ゴジラをヒール役に徹底させ、コングは『キングコング 髑髏島の巨神』の“好漢”ぶりを引き継ぐという明快さだ。2回戦に及ぶ興行はいずれも昼間シーンで、多くのモンスターバトル映画がCGの粗を誤魔化すために画面を暗くしてきた轍を避けることに成功している。第1ラウンドで見せた『ジョーズ』オマージュにもニヤリだ。

 それでもサービスが足りないのである。“乱入”によって水入りになるのが既定路線なら2大スターの試合はせめてあともう1回戦は必要だろう。人間ドラマはオマケに過ぎず、この内容でランニングタイム114分はハッキリ言って手際が悪すぎる。香港での一大バトルは中国興行への目配せだろうが、市民の日頃の労苦を思うとフィクションでも気の毒な気持ちが勝る(『ムーラン』といい、ハリウッドは全て間違っている)。伊福部サウンドの大盤振る舞いだった前作『キング・オブ・モンスターズ』から版権を失ったのか、テーマ曲が聞けないのも非常に寂しい。

 キャスト陣ではミリー・ボビー・ブラウンの成長に目を細めたが、『ストレンジャー・シングス』で初登場したインパクトには遠く及ばない。アレクサンダー・スカルスガルドはこんな映画でもオタク科学者役で性格演技を見せており、その生真面目さに感心した。ペーパー・ボーイことブライアン・タイリー・ヘンリーが登場し、『ストレンジャー・シングス』と『アトランタ』のアッセンブルが実現。さすがに『超サイヤ人かよ!」とは言わないが、“らしい”ツッコミに爆笑だ。

 本作はコロナ禍からの脱却を象徴するかのような世界的大ヒットを記録。喜ばしい事だが、シリーズとしてはいい加減にテコ入れを図らなければちょっと苦しいだろう。


『ゴジラvsコング』21・米
監督 アダム・ウィンガード
出演 ミリー・ボビー・ブラウン、アレクサンダー・スカルスガルド、レベッカ・ホール、ブライアン・タイリー・ヘンリー、小栗旬、エイザ・ゴンザレス、カイル・チャンドラー、デミアン・ビチル
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『GODZILLA』

2021-05-29 | 映画レビュー(こ)

 98年のハリウッド版『ゴジラ』にガッカリしたのは今でも克明に覚えている。ティラノサウルスのような外見、『ジュラシック・パーク』のようなプロット、『エイリアン2』の間抜けな模倣…あぁ、ハリウッドの壁は高いのだ、日本のコンテンツは海外に通用しないのだと子供ながらに感じた。
 それから10余年、ハリウッドをオタク監督達が席巻する今、ゴジラは満を持しての大スター待遇で再デビューに成功した。レジェンダリー・ピクチャーズによるモンスターズユニバースの始まりだ。

 65年オリジナル版『ゴジラ』へ最大限のリスペクトを払った本作は、日本が大震災と原発事故の傷口を恐れた2014年に世界的怪獣アイコンのアイデンティティを甦らせ、その本懐を遂げている。日本の原発が大地震に見舞われ、メルトダウンを引き起こす冒頭に僕らはコントロールできない力を持つべきではないと改めて恐怖がこみ上げた。この象徴が放射能を喰う新怪獣ムートーであり、いわば地球の浄化作用として立ち向かうのがゴジラである。彼が海から身を起こした瞬間、大津波で容赦なく人々を飲み込む。2016年に『シン・ゴジラ』が公開されるまで、金も心意気もハリウッドに圧倒され、日本がゴジラを作り直せる余地はないのかと思える程だった。全長ウン百メートルの巨体をカメラが見上げ、ついにゴジラがその姿を現す瞬間、伊福部サウンドが鳴り響く!ゴジラに強い思い入れがない僕も座席から飛び上がりそうになってしまった。

 豪華キャストは主役ゴジラを引き立てるための添え物に過ぎず、この傾向は後のユニバースでも変わりはない。『ジョーズ』よろしく見せない演出はサスペンスに乏しく、エドワーズ監督の演出力不足は大抜擢となった『ローグ・ワン/スター・ウォーズ ストーリー』でも今ひとつのまま、終幕の追加撮影分をトニー・ギルロイに譲る結果となった。

 それでも我らが大スターに恥をかかせるには至っていない。背びれが光る放射火炎チャージをはじめ、ゴジラのシーンはどこを取っても格好いい。本作の成功により『キングコング 髑髏島の巨神』ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』そして『ゴジラVSコング』へと続く一大人気シリーズへと成長し、ついにゴジラは世界制覇を果たす事となる。


『GODZILLA』14・米
監督 ギャレス・エドワーズ
出演 アーロン・ジョンソン、エリザベス・オルセン、ブライアン・クランストン、渡辺謙、デヴィッド・ストラザーン、サリー・ホーキンス、ジュリエット・ビノシュ
 
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『コマンドー』

2021-04-30 | 映画レビュー(こ)

 2021年1月6日、バイデン新大統領当選の承認議事が行われていた連邦議会議事堂を、ドナルド・トランプに扇動された群衆が襲撃した。この前代未聞の事件によりトランプ支持者や議会警備にあたっていた警察官など、計5名の命が失われる事となった。アメリカ下院議会は残り2週間の任期となったトランプに対し弾劾決議を下し、それはバイデンが無事に就任してもなお上院での可決を睨んで多数派工作が進められた(結果、共和党の反対多数により否決される)。

 この事件を受けてビデオメッセージを発表したのが元カリフォルニア州知事にして我らがシュワちゃんことアーノルド・シュワルツネッガーだ。その内容はこれまであまり語られることのない、衝撃的なものだった。シュワルツネッガーは第2次大戦の終結からわずか2年後の1947年、オーストリアに生まれる。当時の大人達はファシズムに加担した罪の意識に苛まれ、シュワルツネッガーの父もまたアルコールに溺れ、子どもたちに暴力を振るっていたという。

 そんな幼少期を過ごしたからこそ、自身と周囲を守るためにあの鋼の肉体を手に入れたのだろう。大スターの赤裸々で、真に迫り、そして移民である自分を受け入れたアメリカを信じる偉大なメッセージに今一度、彼の足跡を振り返りたいという気持ちが募り、85年公開の本作を手にとった。84年に『ターミネーター』で世界的ヒットを飛ばし、87年には『プレデター』を控えるシュワルツネッガー全盛期の1本だ。

 最近でも『ワンダーウーマン1984』がオマージュを捧げていたように、この時代ならではの大らかさが魅力だ。特殊部隊のコマンドーだったシュワちゃんは、かつて任務で転覆させた独裁者の報復によって愛娘(一世を風靡したアリッサ・ミラノ)を誘拐されてしまう。返還の条件は今再び南米へと戻り、親米政権をひっくり返す事だ。『エクスペンダブルズ』なら秒でやりかねないミッションだが、シュワちゃんは南米行きの飛行機から(パラシュートなしで)飛び降り、娘の救出へと向かう。タイムリミットは飛行機が南米に到着するまでの11時間だ。当時のシュワちゃんはオーストリア訛りが強く、台詞回しに難があったため短いフレーズのパワーワードを連発。それが強烈なインパクトと笑いを生んでいる。

 そしてこの時代のアクション映画と言えば法外な火薬量である。対人地雷で建物はあんな吹っ飛び方はしないが、見た目に気持ち良ければそんな事はどうでもいい。シュワちゃんは重火器をノーエイムで腰だめ。人を殺して決め台詞を放つ。「蒸気を抜け」ヒドい(笑)

 続けて『ターミネーター2』を再見し気づいたのだが、当時のシュワちゃん映画には彼の筋肉を余す所なく収めたヌードシーンというか、サービスカットが必ず盛り込まれている。無名時代は同性愛者向けの雑誌でグラビアを飾り、日銭を稼いでいたこともあったそうだ。そんな経歴ゆえか、州知事になってからのシュワちゃんは性的マイノリティへの支援にも熱心だったという。彼は共和党だが、真に信じるのはアメリカの民主主義なのだ。偉大なスターによる偉大なポップコーンムービーである。


『コマンドー』85・米
監督 マーク・L ・レスター
出演 アーノルド・シュワルツネッガー、アリッサ・ミラノ、レイ・ドーン・チョン、ダン・ヘダヤ、ヴァーノン・ウェルズ
 
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『この茫漠たる荒野で』

2021-02-14 | 映画レビュー(こ)

 『ブラディ・サンデー』『ユナイテッド93』『キャプテン・フィリップス』『7月22日』とこれまで近過去の事件を題材に、手持ちカメラと細かいカット割による“ドキュドラマタッチ”で現代を批評してきたポール・グリーングラス監督。最新作はトレードマークとも言えるその手法を封印し、ポーレット・ジルズによる2016年の小説『News of the World』を脚色した初の西部劇だ。しかし、1870年のアメリカ西部を舞台としながら、その荒野はついに連邦議事堂が暴徒によって占拠された2021年のアメリカと地続きである。この茫漠たる荒野を突き動かされるのが、『キャプテン・フィリップス』に続いて2度目のタッグとなるトム・ハンクスだ。

 ハンクスのこの10年余りのキャリアを振り返れば、アメリカの理念を体現するロールモデルを演じ続け、去る1月にはバイデン新大統領就任特別番組のホストの1人を務めるなど、今や“アメリカの父”とも言える貫禄である。アメリカの平等自由の理念を守ろうとする『ブリッジ・オブ・スパイ』、アメリカの“正しい保守性”を体現した『ハドソン川の奇跡』『ペンタゴン・ペーパーズ』では真なる報道を謳い、『幸せへのまわり道』はフレッド・ロジャーズを通じて現在のアメリカに必要な癒しを施した。『トイ・ストーリー』のカウボーイ人形ウディが、持ち主アンディの父親を象徴していることはシリーズ当初から言及されてきたことだ。そんなハンクスにアメリカの無知を演じさせたのがグリーングラスの『キャプテン・フィリップス』だった。貨物船の船長フィリップスは遥かソマリアの海で海賊に襲われ、命を脅かされる。アメリカのグローバリズムは地球の裏側で人々を搾取し、食べることもままならないやせ細った若者達によってハンクスは復讐されるのだ。彼のかつてない捨て身の演技は、その偉大なキャリアを更新した。

 『この茫漠たる荒野で』でハンクスは再び過酷な試練にさらされる。演じるキッド大尉はアメリカの辺境を巡業し、“世界のニュース”(=原題News of the World)として新聞の読み聞かせを行っている。ここでも人を繋ぐ縁としてニュースというナラティヴが重要な役割を果たす一方、権力者自らが発行する偏向記事の代読にNOを突き付ける下りには、フェイクニュースと陰謀論に呑まれ、約過半数がトランプに票を投じたというアメリカの現在を想起せずにはいられない。そんな旅路の中で、ハンクスは1人の少女と出会う。唯一無二のヘレナ・ゼンゲルが演じるジョハンナはドイツからの移民であり、幼い頃に両親をネイティヴアメリカンに殺され、誘拐されていた。既に母国語を話すこともできなければ、スプーンで食事をする文明も持ち合わせておらず、アメリカ荒野に取り残されたその姿からはトランプによって両親と引き離され、未だ再会が叶わない移民の子を想わずにはいられない。そんな子供を受けとめられるのかと、グリーングラスは“アメリカの父”トム・ハンクスを試すのである。

 描写を客観的に積み重ね、怒りを持って告発してきたこれまでのグリーングラス演出からすれば本作は直截的かも知れない。しかし時代が混迷し、映画もTVシリーズもハイコンテクスト化が極まった今こそ、この明朗な語り口が必要だろう。美しいカメラと簡潔な筆致、素晴らしい演技に支えられた巨匠の1本である。


『この茫漠たる荒野で』20・米
監督 ポール・グリーングラス
出演 トム・ハンクス、ヘレナ・ゼンゲル、マイケル・コヴィーノ、メア・ウィニンガム、エリザベス・マーヴェル、レイ・マッキノン、ビル・キャンプ
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『ゴールド 金塊の行方』

2020-11-28 | 映画レビュー(こ)

 アッと驚く仰天実話だ。1990年代、170億ドルもの金(きん)の大鉱脈が一晩で消え失せ、株式市場を大混乱に陥れた“Bre-x事件”を基にする本作は、脚本に惚れ込んだマシュー・マコノヒーが自ら製作、主演を務め、ますます強烈な“臭い”で映画を牽引している。

 マコノヒー扮するケニー・ウェルズは3代続いてきた採掘会社の社長だが、経営は壊滅的状況にあり、今や飲み屋をオフィス代わりにしている有様だ。ある日、彼は啓示的な夢に従い地質学者アコスタを訪ねてインドネシアへと渡る。既にその学説がトレンドを過ぎ、落ち目にあったアコスタはケニーを連れて新たな金脈を掘り当てようとする。

 見所は何と言ってもマシュー・マコノヒーの怪演だ。ケニーは口八丁、詐欺師同然のヤマ師であり、80年代という劇中設定からやはり同時代を舞台にした『ウルフ・オブ・ウォールストリート』での大怪演が頭を過る。マコノヒーはアルコールまみれのケニーを創造するにあたって体重を大幅に増やし、ハゲ頭になる肉体改造を披露。次から次へと降りかかる危機にアドレナリンはダダ漏れ、終始脂汗まみれ、血走った眼差しはやや平板な映画を2時間に渡って引きずり回すには十分な狂気だ。オスカー獲得後はいまいちヒット作に乏しいが、彼の演技には全くケチが付いていない。そろそろ新しい代表作が欲しい。

 多くの投資家が実際に見もしない金(きん)に金(かね)を注ぎ込み、ウォール街がコロッと騙されたというエピソードにはコンムービーの側面もあるが、むしろ主眼はウォール街の強欲で杜撰な体質が後にサブプライムショックを招いた事への批判だろう。劇中、ウェルズが“Fool's Gold”と評されるが、そういえばマコノヒーもずばり『フールズ・ゴールド』なんて映画に出ていたなと思い出した。彼とは対照的なエドガー・ラミレス扮するアコスタとのエピソードが1つも2つも足りないばかりに、映画ならではの着地を見せる脚色が生きていないのが惜しまれる。


『ゴールド 金塊の行方』17・米
監督 スティーヴン・ギャガン
出演 マシュー・マコノヒー、エドガー・ラミレス、ブライス・ダラス・ハワード、コリー・ストール、トビー・ケベル、クレイグ・T・ネルソン、ステイシー・キーチ、ブルース・グリーンウッド、ビル・キャンプ
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