『最高に素晴らしいこと』に続き、今年2本目となるブレッド・ヘイリー監督作。『ハーツ・ビート・ラウド』のカーシー・クレモンズ、前作のエル・ファニングに続き、今度は『モアナと伝説の海』で主演を務めたアウリー・カルバーリョという全く異なる個性の若手スターを起用し、魅力を引き出す事に成功している。
カルバーリョ扮する主人公アンバーは朝晩とアルバイトを掛け持ちしながら学校に通い、夜は母親の運転するスクールバスで寝泊まりするホームレスだ。酒と男に溺れた母に生活力はなく、アンバーが新居への引越資金を貯めている。常に笑顔を絶やさず、機敏に日々のタスクをこなす彼女の荷物は小さなカバンと愛犬のみだ。
後に物語の鍵を握る愛犬はヒロインの象徴であり、ケリー・ライカート(ライヒャルト)監督の『ウェンディ&ルーシー』までよぎる過酷さはアメリカのワーキングプア、格差社会問題を浮かび上がらせる。劇中の台詞やTVに『ブレイキング・バッド』が映る事から彼女らの貧困は病死した父親の医療費に起因しているようだ。ヘイリーはメンタルヘルスを描いた前作同様、社会問題を捉える事で今日性を獲得している。
後に物語の鍵を握る愛犬はヒロインの象徴であり、ケリー・ライカート(ライヒャルト)監督の『ウェンディ&ルーシー』までよぎる過酷さはアメリカのワーキングプア、格差社会問題を浮かび上がらせる。劇中の台詞やTVに『ブレイキング・バッド』が映る事から彼女らの貧困は病死した父親の医療費に起因しているようだ。ヘイリーはメンタルヘルスを描いた前作同様、社会問題を捉える事で今日性を獲得している。
そんなアンバーをさらなる悲劇が襲う。しかし貧困によって頑なになった彼女は周囲に救いの手を求めようともしない。ヘイリーの抑制された演出とカルバーリョの繊細な演技は傷ついたアンバーの内面に迫り、とりわけ訃報を受け取った瞬間のリアクションには心揺さぶられる。ミュージカル女優を目指している設定にもかかわらず、カルバーリョの歌唱力をこれ見よがしに使わない節度もいい。
アンバーのために人々が連帯するクライマックスに対し、生活保護者やコロナ感染者に「自己責任」という言葉をぶつける本邦では案の定「ご都合主義」という感想も見受けられるが、これがアメリカの持つ利他心と公共心であり、原題“All Together Now”というタイトルが心に響く。ブレッド・ヘイリー、次作が楽しみな監督だ。
『希望のカタマリ』20・米
監督 ブレッド・ヘイリー
出演 アウリィ・カルバーリョ、キャロル・バーネット、ジャスティナ・マシャド