長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『真夜中のサバナ』

2025-01-13 | 映画レビュー(ま)

 90年代のイーストウッドは毎年のようにベストセラー原作映画を量産し、職人監督として脂が乗り切っていた時期でもあった。1994年に発表されたジョン・ベレントのノンフィクション『真夜中のサバナ』もまたセンセーションを呼んだ小説だったが、97年の映画版は期待に反してヒットに至らなかった。

 フリーライターのケルソー(ジョン・キューザック)は一代で財を築いた富豪ジム・ウィリアムズ(ケヴィン・スペイシー)に招かれ、ジョージア州サバナを訪れる。透明の犬を散歩する男、妖艶なドラッグクイーン、ブードゥー魔術を操る浮浪者…まるで南部のツイン・ピークスとでも言いたくなるフリークスばかり。とりわけケルソーの興味を引いたのはウィリアムズ邸で起きた殺人事件だ。ジムが口論の末、若い男娼を射殺したのである。

 南部ゴシックは物語が脇道に逸れるほどじわりと汗がにじむような気味の悪い笑いが生まれるだけに、イーストウッドは珍しく155分もかけているが、どうにも御大にはサバナの湿気が不似合いに映る。当時、ブレイク直後のケヴィン・スペイシーが死んだ目付き(ほとんど瞬きをしない)とカリスマチックな佇まいでウィリアムズを演じ観客を惹きつけるも、肝心のケルソーに主人公としての貫通行動が不足しているのだ。罪を逃れる者への怒りと正義の女神テミス像のモチーフは、後に再びサバナを舞台とした『陪審員2番』で繰り返されることになる。


『真夜中のサバナ』97・米
監督 クリント・イーストウッド
出演 ジョン・キューザック、ケヴィン・スペイシー、ジュード・ロウ

 

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