長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『レベル・リッジ』

2025-01-04 | 映画レビュー(れ)

 例年、アワードシーズンに賞狙いの“決め球”をリリースするNetflixが、2024年は『Emilia Perez』『Maria』の配信を北米エリア中心に絞り込み、振り返れば随分と良策に乏しい1年だった。これが2023年の全米俳優組合、脚本家組合のストライキに起因する一過性の事象と思いたいが、現在Netflixはスポーツ中継のライセンス獲得および新たな会員層の発掘に勤しんでいる。映画ファンにとってアートハウス系映画の救世主と信じられてきた同社も元を辿ればレンタルビデオチェーンに前身を持つ。2024年は“普通のハリウッド映画”の供給者としての側面が強かった。

 では膨大なアーカイブに傑作を埋もれさせるわけにはいかない。『ブルー・リベンジ』『グリーンルーム』などを手掛けてきたジェレミー・ソルニエ監督の『レベル・リッジ』は、いよいよ脂の乗った演出手腕で131分、全く緊張感の途絶えることがない会心の1本だ。主演アーロン・ピエールとダビ・ガジェンゴ(『彷徨える河』)のカメラは研ぎ澄まされた肉体の如し。映画の語り口には一切の淀みもない。

 主人公テリーがシェルビー・スプリングスの山道を自転車でひた走る。突然、パトカーに追突され、地面にホールドされる場面にギクリとさせられる。テリーは勾留中の従兄弟を救うべく、保釈金を持って裁判車へ向かう最中だったのだ。しかし警官たちの不当な取り調べによって保釈金は押収され、テリーは執拗な嫌がらせによって町からの退去を強いられる。やがて危害が彼の周辺へ及んだ時、ついに怒りが爆発する。

 元イラク帰還兵が田舎の汚職警官と戦う、という筋立てから当然『ランボー』を彷彿するアクション映画だが、ソルニエは孤高のテリーに悲痛を背負わせるのではなく、むしろ腐敗した公権力との戦いに時代精神を背負わせている。あくまで不殺というテリーのスタンスも、映画を単なる二項対立に終わらせていない。ピエールの清廉な存在感に元名子役アナソフィア・ロブの引き締まったサポートアクト、臆することなく悪役を引き受けるドン・ジョンソンと役者も揃った。文句なしに2024年Netflix映画のベスト1だ。


『レベル・リッジ』24・米
監督 ジェレミー・ソルニエ
出演 アーロン・ピエール、アナソフィア・ロブ、ドン・ジョンソン

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