映画『ぼくのエリ 200歳の少女』や『ボーダー 二つの世界』で知られるスウェーデンの人気作家ヨン・アイビデ・リンドクビストが自身の小説を脚色した最新作。これまでトーマス・アルフレッドソン、アリ・アッバシら異才の出発点となってきたリンドクビスト映画だが、今回共同脚本を手掛けるテア・ビスタンダル監督といい、誰が撮っても同じトーン&マナーを共有する“リンドクビスト映画”になるのが唯一無二の個性だろう。スウェーデンの曇天の下、ここには吸血鬼、獣人、そして生ける屍ら闇の者が棲んでいるのだ。
現代のオスロ。沈鬱な面持ちの老人が若い女性の部屋へやって来て、食事の支度を始める。2人の間にはいったいどんな関係があるのか。リンドクビスト作品には北国気質特有の口数の少なさがあり、私たちは少ないディテールから人物と物語を読み解いていかなければならない。そして原因不明の大規模停電を機に死者たちが息を吹き返し…。
ゾンビ映画のセオリー通り、彼らがなぜ蘇ったのかは判然としない。死者たちは無差別に生者を襲うこともなく、只そこに存在するだけだ。愛しい者の帰宅にある者は耽溺し、ある者は生前果たせなかった絆を取り戻そうと執着する。ここで描かれるアンデッドとは不在を突きつける存在であり、生者にとって哀しみと向き合うための心の反響である。ジャンルで映画を見る観客にはしんしんと冷えた本作のトーンに戸惑うかもしれないが、静かに息を吸い込めば新鮮な空気があなたを満たすことだろう。
『アンデッド 愛しき者の不在』24・ノルウェー、スウェーデン、ギリシャ
監督 テア・ビスタンダル
出演 レナーテ・レインスヴェ、ビョルン・スンクェスト、ベンテ・ボシュン
※2025年1月17日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほか公開 公式サイト
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