カンヌとオスカーは相性が悪いと言われたのも今は昔。リューベン・オストルンド監督が『ザ・スクエア 思いやりの聖域』に続いてパルムドールに輝いた最新作『逆転のトライアングル』に、なんとアカデミー会員は作品、監督、脚本の主要3部門でノミネートを献上してしまった。本気か!?世界中の大富豪が乗り合わせる地中海クルーズを舞台に、現代資本主義と格差構造を徹底的におちょくる本作。そんな映画に票を投じればハリウッドセレブ達の虚栄心は満たされるのか?『サクセッション』も『ホワイト・ロータス』も作っている国が褒めすぎではないのか?
意地の悪さで言えば『ホワイト・ロータス』のマイク・ホワイトもいい勝負だが、オストルンドはより露悪的だ。半裸の男性モデル達が仕事欲しさに媚を売り、高級レストランでは美男美女が“どっちがおごる論争”で醜態を晒す。地中海クルーズに居合わせるのは堆肥(クソ)で財を成したオリガルヒから、武器製造メーカーの白人老夫婦、そして拝金主義のコンシェルジュ達で、金持ちのために労働を搾取される事に嫌気がさした船長は酒に溺れ、安全運行なんてハナから考えちゃいない(いよいよデタラメさが可笑しいウディ・ハレルソンが最高だ)。
言いたいこともやりたい事もオストルンドは全てセリフで説明してくれるから、観客は海に迷うことはない。だが全方位へウンコとゲロを投げつける本作に、胃液の逆流を感じたのは僕だけではないだろう。海賊の襲撃によって豪華客船は沈没。残されたごく僅かの乗客が辿り着いた無人島で頂点に立つのは、おそらく東南アジア出身であろうトイレ清掃係のオバチャンだ。ドリー・デ・レオンの妙演によって使い古された逆転構造もなんとか笑うことはできるが、これが2022年の映画と言うにはあまりに出遅れすぎてやしないか。オスカー授賞式から間もなくして配信された『サクセッション』を見て、我々視聴者の姿が一切映らない金持ち共のパワーゲームに熱狂する方がよっぽど寝覚めは最高じゃないか。
『逆転のトライアングル』22・スウェーデン
監督 リューベン・オストルンド
出演 ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ウディ・ハレルソン、ドリー・デ・レオン
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