長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ノーウェア』

2024-11-23 | 映画レビュー(の)

 1990年代“ニュー・クィア・シネマ”を牽引したグレッグ・アラキ監督の代表作。97年のビビッドな表現は性的な多様性が広く認知され始めた今日見ても、目の覚めるようなインパクトがある。巻頭、まるで4次元空間のように拡がるシャワールームや(主人公ダークはここで同級生の男子を思いながらマスターベーションしている)、壁一面にデザインアートが施された自室など、まるでロサンゼルスの陽光を浴びたペドロ・アルモドバルのような美術センスに面食らう。若者たちは性差に囚われることなく、互いを呑み込むようにキスとセックスを繰り返し、全編に渡って映画は祝祭的だ。

 しかし、ダークの眼の前に人類をアブダクトする宇宙人の姿が垣間見え、同級生の少女は理不尽な暴力に見舞われる。無事に大人になることもままならない死と隣り合わせの青春は、エイズ禍を生きたアラキの実感そのものだろう。一見、素っ頓狂にも思えるクライマックスは、自分を満たしてくれる愛が地球の何処にもないと嘆く青春の孤独であり、今なお観る者の心を切なく震わすのだ。


『ノーウェア』97・米
監督 グレッグ・アラキ
出演 ジェームズ・デュバル、レイチェル・トゥルー、ネイザン・ベクストン、キアラ・マストロヤンニ、デビ・メイザー、キャスリーン・ロバートソン、ジョーダン・ラッド、ヘザー・グラハム、ライアン・フィリップ、ミーナ・スヴァーリ

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