※このレビューは物語の展開に触れています※
2019年の終わり、シリーズのグランドフィナーレと銘打たれた『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』を見た時、僕はこんなツイートをしている。
— 長内 那由多 (@nayutagp01fb) December 20, 2019
僕の映画原体験は『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』だ。それ以来30数年間、折にふれて見続けてきた『スター・ウォーズ』サーガの終焉として『スカイウォーカーの夜明け』はあまりに寂しい仕上がりで、失望と言っても過言ではなかった。だからルーカスフィルムを買収したディズニーが、自社ストリーミングサービス“ディズニープラス”で『スター・ウォーズ』をTVシリーズ化すると聞いた時、奴らは永遠にコンテンツをむしゃぶり尽くすのだと嫌悪感すら覚えた。
そうした理由から『マンダロリアン』は世間から出遅れて見ることになった。そしてシーズン1を見終えてもまだ、半信半疑で距離を置いた。『スター・ウォーズ』が僕をあの時のように心躍らせてくれることはもうないだろう、と。
『マンダロリアン』シーズン2はトキシックファンダムという暗黒面から解放され、『スター・ウォーズ』シリーズにバランスをもたらした傑作だ。回顧厨みたいで言いたくなかったが、これこそオレが見たかった『スター・ウォーズ』だよ!!
第4話までは前シーズン同様、西部劇へオマージュを捧げた1話完結のライトな構成だ。マンドーはベイビー・ヨーダをジェダイの元へ帰すべく、再び銀河を渡り歩く。その途中、訪れたタトゥイーンでは巨大ドラゴン退治の報酬として古びたマンダロリアン装甲を譲り受ける。ん?この色合い、どこかで見たことがあるぞ?そしてその様子を遠くから見つめる1人の男の姿…。
この男の正体は『スター・ウォーズ』銀河史上最強の人気脇役ボバ・フェット。『ジェダイの帰還』でジェットパックの暴発によりサルラックの穴に呑み込まれた彼が、37年ぶりの大復活を遂げる。しかも銀河最強の賞金稼ぎの名に恥じない暴れっぷり。ホントに強かったのか!!『クローンの攻撃』でジャンゴ・フェットを演じたテムエラ・モリソンがクローンであるボバを“再演”し、年齢を重ねた凄みを感じさせて大迫力だ。もちろんボバの愛機スレーヴⅠも登場。シリーズのフラッグシップとして活躍する姿に「オレは今、いったい何を見ているんだ」と毎話、感動がこみ上げてしまった。
第5話でマンドー達はついにジェダイの生き残りアソーカ・タノと出会う。映画しか見ていないファンには「アンタ誰?」だが、彼女はアニメ『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』に登場し、クローン戦争時代(EP2~3)にアナキン・スカイウォーカーの弟子でもあった重要人物だ。現ルーカスフィルムのキーパーソンであり、本シリーズのショーランナーを務めるデイヴ・フィローニが自ら演出を担当したこの回は、『スター・ウォーズ』のオリジンである黒澤時代劇へのオマージュが満載。二刀流ライトセーバーのアソーカと、ベスカー製スピアを持ったヴィランとの戦いはシリーズ屈指のベストファイトとなった。
この回では同時にマンドーVS用心棒(え、マイケル・ビーンだ!)のメキシカンスタンドオフも同時進行する。そう、『スター・ウォーズ』は時代劇、西部劇、SFなどあらゆる娯楽映画にオマージュを捧げ、ベトナム戦争やイラク戦争、ジョージ・ルーカスの親子問題を絡めたハイコンテクストな作品であった。第7話ではなんと『恐怖の報酬』の引用まで登場。そしてグスタボ・フリングもといモフ・ギデオン(ジャンカルロ・エスポジート)は遥か彼方の銀河系でも怪しげなラボを作っており、マンドーはついにベスカースピアで大立ち回りを繰り広げる。鬼に金棒、ペドロ・パスカルに槍!『マンダロリアン』は2020年代のTVシリーズらしく『ブレイキング・バッド』や『ゲーム・オブ・スローンズ』らニュースタンダードにもオマージュを捧げ、新たな時代のポップカルチャーとして『スター・ウォーズ』を再創造しているのだ。おぉ、フォースにバランスがもたらされているではないか!
そしてシーズンフィナーレでは『スター・ウォーズ』史を揺るがす重大事件が発生する。『マンダロリアン』はもはやスピンオフではなく、さらに拡張するスター・ウォーズ銀河の重要な結節点だ。ひょっとすると今後、続々と製作されるTVシリーズ群がアベンジャーズよろしくアッセンブルするかもしれない。だが、まずはマンドーとベイビー・ヨーダの今後の物語に想いを馳せよう。サプライズ演出よりも彼ら2人の友情、親子愛にこそフォーカスしたエンディングに涙がこぼれた。『マンダロリアン』には『スター・ウォーズ』に必要なホンモノのフォースがある。
『マンダロリアン シーズン2』20・米
監督 ジョン・ファヴロー、ブライス・ダラス・ハワード、カール・ウェザース、ペイトン・リード、デイヴ・フィローニ
出演 ペドロ・パスカル、ジーナ・カラーノ、カール・ウェザース、ジャンカルロ・エスポジート、テムエラ・モリソン、ティモシー・オリファント、ロザリオ・ドーソン、マイケル・ビーン
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