フランスの監督オリヴィエ・アサイヤスは今、最もユニークなフィルモグラフィを形成している映画作家だ。クリステン・スチュワートと組んだ近作『アクトレス』では女優の心理を描き、その奇妙で夢幻的ラストはポストモダン心霊ホラー『パーソナル・ショッパー』に繋がった。かと思えば本作は1990年代にマイアミで活動したスパイ組織“WASPネットワーク”を描く実録映画であり、エドガー・ラミレス、ペネロペ・クルス、アナ・デ・アルマス、ガエル・ガルシア・ベルナルらラテンスターの揃ったオールスター映画である。
90年代初頭、キューバのカストロ政権転覆を目論んだ反共テロが激化。テロ組織の大半はCIAの協力やFBIの黙認の下、マイアミを中心としたアメリカ国内に拠点を持っており、キューバは政治亡命と見せかけたスパイをアメリカへ送り込んで対テロ活動を行っていった。諜報員の多くは後にアメリカ政府によって逮捕され、長期刑を言い渡される事になるが、2000年代中半以後、ブッシュ政権による対テロ戦争への批判が高まるにつれて減刑を求める声も大きくなっていった。本作に登場する5名はとりわけ社会の注目を集め、“キューバン・ファイヴ”と呼ばれている。
この題材で上映時間2時間10分は短過ぎるだろう。アサイヤスは不格好なまでの早口で語りを進め、キャラクターもドラマもオミットしていく。スパイ映画としてのダイナミックな空撮にこんな技まで持ってるのかと驚かされ中半、突如として挿入されるナレーションに彼らしい飛躍を見るが、ラストシーンのカストロのコメントからもわかるようにテーマがアメリカの対外政策批判である以上、もっと時間をかけるべきだった。長尺版が存在するかのような編集リズムなのだが…。
TVドラマの隆盛によって長尺のストーリーテリングが可能になった昨今、題材に対して詰め込み過多な劇映画のミスマッチはより明らかになっている。これでは前時代的過ぎるだろう。
『WASPネットワーク』19・スペイン、ブラジル、仏
監督 オリヴィエ・アサイヤス
出演 エドガー・ラミレス、ペネロペ・クルス、ワグナル・モウラ、ガエル・ガルシア・ベルナル、アナ・デ・アルマス
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