長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』

2020-02-03 | 映画レビュー(ろ)

 父の死をきっかけに故郷へと帰省したロニート。厳格なユダヤ教コミュニティ(おそらく最も排他的なハシディズムと思われる)で育った彼女はその閉そく性から逃れ、写真家として自立していた。彼女は父の後継者となったかつての友人ダヴィッドと、その妻エスティに再会する。ロニートとエスティはかつて激しく愛し合い、同性愛ゆえに迫害されたのだった。

同性愛や女性に対する理不尽な抑圧はイスラム原理主義のものが有名だが、西欧諸国の宗教原理主義にも同様に存在しており、殊にユダヤ教のハシディズムは厳しい。既婚女性は人前で地毛をさらす事は許されず、均一的なカツラの着用を義務付けられる。強固なコミュニティが互助社会を形成する一方、その教育は狭義的であり、インターネットすら許されない。毎週金曜には互いの意志とは関係なく性行為が強要される。人権無視も甚だしい厳格さによってコミュニティを離脱する者がいても、社会的に自立できないようにシステム化されているのだ。これらの仕組みについてはNetflixのドキュメンタリー『ワン・オブ・アス』が詳しいので、ぜひとも本作のサブテキストとしてもらいたい。

 そんな息をするのも苦しい社会では同性愛はおろか、女性として生きていく事もままらない。主演レイチェル・ワイズ、レイチェル・マクアダムスの抑制された演技が素晴らしい。特にマクアダムスは従来の陽性のオーラを消し去り、かつてロニートに置き去りにされ、失意の中でダヴィッドと結婚したエスティの絶望と孤独を切実に演じている。まるで水面に顔を出し、大きく息を吸うかのように互いを求め合うラブシーンを見よ。『ナチュラル・ウーマン』でアカデミー外国語映画賞を獲得した南米出身セバスティアン・レリオ監督の性愛描写は匂いすら錯覚させる濃密さであり、『アデル、ブルーは熱い色』を上回るエロティシズムである。ワイズ、マクアダムス共にキャリアの充実を示す名演だ。

 原題は“Disobedience”=不服従。彼女らの愛が特殊なコミュニティの特殊な物語でないことは言わずもがなである。


『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』17・米、英、アイルランド
監督 セバスティアン・レリオ
出演 レイチェル・ワイズ、レイチェル・マクアダムス、アレッサンドロ・ニヴォラ

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