長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ドーンウォール』

2019-10-06 | 映画レビュー(と)

ロッククライマー、トミー・コールドウェルによるヨセミテ公園エル・キャピタン登壁を追ったドキュメンタリー。高さ900メートル超のこの岩山で最難関と言われる“ドーンウォール”を彼はおよそ6年かけて攻略した。その偉業もさることながら、彼の苦難に満ちた人生に引き付けられる1本である。

1978年コロラド州に生まれたトミーは生まれつき身体が弱かった事から父にスパルタ同然の教育を受け、幼くしてロッククライミングを始める。各大会を渡り歩く中で運命の人ベスと出会い、2人はキルギスへ冒険旅行に。そこで反政府ゲリラに捕らわれ、トミーは兵士を奈落へ突き落す事で生還する。この事件が彼とベスの間に修復し難い傷を残し、破局の原因となってしまう。さらにトミーは事故で左手人差し指を切断。生きる事そのものとも言えるクライミングに大きな障害を抱えてしまうのだった。トミーは苦しみを振り払うかのようにドーンウォールへと挑む。

後半はそんな非業の人トミーの新たな相棒となったケビン・ジョージソンの苦闘にも焦点が当てられている。ボルタリングは名人級のジョージソンだが、9メートルから上は登った事がなかった。世間の注目とトミーの足を引っ張るのではというプレッシャーの中で揺れる心は僕らも常日頃体験する不安や迷いと何ら変わりない。偉業とはその最初の一歩を踏み出す事にあるのだと気付かされた。

トミーのその後は2018年のアカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞作『フリーソロ』でも描かれている。なぜ山に登るのか?それは人生そのものであるからに他ならない。ぜひこの2本をセットで見てもらいたい。


『ドーンウォール』17・米
監督 ピーター・モーティマー、ジョシュ・ローウェル
出演 トミー・コールドウェル、ケビン・ジョージソン

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