長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『サンドラの週末』

2018-03-01 | 映画レビュー(さ)

あなたにはこんな事はなかっただろうか。
逢いに行くのが辛くて、乗らなくてはいけない電車をやり過ごしたこと。
どうしても会社に行くのが怖くて、最寄り駅まで来て引き返してしまったこと。
自信を失って1人家に閉じこもってしまったこと。
そんな時に“がんばれ”とか“がんばろう”と声をかけられるのは正直キツい。そんな1人ぼっちの不安を痛いくらいに感じた事のある人に観てもらいたい映画だ。

週明けからの復職を前にして主人公サンドラは自分の解雇を知らされる。会社側がボーナス支給か、従業員の削減かと皆に迫ったのだ。家賃も払わなくてはいけない。子供2人はまだ幼い。夫1人の稼ぎではどうにもならない。サンドラは友人のとりなしにより、もう1度皆に再投票をお願いする機会を得るのだが…。

いつにも増してダルデンヌ兄弟の話法はシンプルを究めている。劇中の運動はひたすら歩く、会う、話すの3動詞だけ。でもそこから人生が見えてくる。自分の生活のために他人に収入を諦めてもらうだなんて話、正直辛い。サンドラはうつ病上がりで、こんなお願いをして歩き回るには心がボロボロ過ぎる。でも二つ返事で助けてくれる人もいれば、謝ってくれる人もいる。渋々納得してくれた人もいる。私は社会とつながっている!

彼女が最後に下す決断は厳しいものだが、その表情は本当にがんばれた人の清々しい笑顔だ。彼女はようやく自分に誇りが持てたのだ。スターオーラを消し去り、ダルデンヌ兄弟特有のリアリズムの中で小市民になりきれてしまうマリオン・コティヤールの演技レンジ、作品選択眼に現役最高峰の充実を見た。ささやかだけど大きい、そんな一個人の感動を表現しきれてしまう彼女の名演に爽やかな涙がこぼれる一編だ。

『サンドラの週末』14・ベルギー、仏、伊
監督 ジャン・ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演 マリオン・コティヤール
 

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