1972年、ウルグアイの学生ラグビーチームを乗せた飛行機が遠征先のペルーへと向かう途上、アンデス山脈に激突。72日間のサバイバルの末、乗客乗員45人中16人が生還した“ウルグアイ空軍機遭難事故”再びの映画化だ。監督のJ・A・バヨナは実に10年もの歳月をかけて本作を企画。93年にはフランク・マーシャル監督が『生きてこそ』のタイトルで映画化したハリウッド版があるものの、バヨナは事実通り全編スペイン語で再現し、30年分の映画技術の進歩によって決定版とも言える仕上がりとなった。
93年版は74年に刊行されたビアズ・ポール・リードのドキュメンタリー小説『生存者』を原作にし、イーサン・ホークが演じたナンド・バラードを中心とするアドベンチャー映画としての色合いもあった。今回のバヨナ版は2009年にパブロ・ヴィエルシによって書かれた“Snow Society”が原作。『生きてこそ』は事故から間もない時期に書かれた原作を基にした故か、描き切れていない部分に「この世には物語ることができない物語もあるのだ」と思わせる生々しさもあったが、事件から50年を経た今、バヨナは生き残った者たち、そして死んでいった者たちの精神性にこそ注目している。『生きてこそ』と共通する出来事は飛行機の窓から見つめるに留め、ここでは最後の死亡者となったヌマ・トゥルカッティの死者の目線から物語らせているのだ。
想像を絶する極限状況に追い込まれた青年たちは、しかし不思議とこの世の地獄を嘆いたりはしない。助けを求め、決死のアンデス踏破を試みるナンドは嶺々のあまりにも美しい光景に「まるで天国のようだ」とこぼす。93年版も食人に至る経緯はあまり詳しく描かれておらず、それは今回も変わらない。彼らの決断は生と死、魂と肉体の境界を超えた精神状態が自ずと結論付けたのではないか。生者と死者、この世とあの世。暖を取るために互いに抱き合い、神よりも死する己の肉体を供する友を信じた若者たち。30年ぶりの再映画化は語り尽くされたサバイバル劇ではなく、彼らのスピリチュアルなまでの繋がりに言葉を与えようとしたのである。
『雪山の絆』23・スペイン、米、ウルグアイ、チリ
監督 J・A・バヨナ
出演 エンゾ・ボグリンシク、アグスティン・パルデッラ、マティアス・レカルト、エステバン・ベゲッツィ、フェルナンド・コンティヒアニ・ガルシア、エステバン・クワリスカ、フランシスコ・ロメロ、ラファエル・フェダーマン、バレンティノ・アロンソ
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