『シンドラーのリスト』同様、ナチスの脅威に抗った市井の人々の物語だ。第2次大戦期のポーランドはワルシャワで300人余りのユダヤ人を動物園に匿った夫婦が描かれる。ナチスドイツの侵攻により爆撃を受けた園では多くの動物が死に、その広大な敷地は軍に徴用されてしまった。夫妻は園を養豚場に変える事でカモフラージュし、ゲットーから密かに連れ出したユダヤ人を匿っていく。
監督は02年の『クジラの島の少女』で注目されたニュージーランドのニキ・カーロ。今年、ディズニー大作『ムーラン』の実写版が控えている女性監督だ。同時期に頭角を現した女流と言えば『モンスター』で03年のオスカー主演女優賞レースを競い合い、2017年に『ワンダーウーマン』で特大級のヒットを放ったパティ・ジェンキンス監督が思い浮かぶ。しかし、2人とも決して順風満帆と言えるキャリアではなかった。フィルモグラフィを見渡してもこの20年で数作品しか撮っておらず、いずれもが小規模プロダクションだ。カーロは歴史映画を牽引できる風格を持っており、ジェンキンス同様、その才能を伸ばさずにキャリアを潰してきたハリウッドの罪は重い。
主演のジェシカ・チャステインはロシア系ポーランド人のアントニーナをアクセントを駆使して演じ、巧者ぶりを発揮。いつになくか細い声音で彼女の繊細さを表現している。彼女を篭絡しようとするナチス将校役にはダニエル・ブリュール。権力を笠に着たゲスなナチ野郎という役柄は『イングロリアス・バスターズ』と丸被りのタイプキャストで気の毒だが、これもドイツ出身演技派俳優の宿命だろうか。彼演じる動物学者ヘックは300年前に絶滅した牛オーロックスを復活させようとしており、第3帝国のトンデモ狂気には目がくらむ。アントニーナが牛の交配を手伝わされるシーンはほとんどレイプのように描かれており、カーロ演出の迫力にたじろいでしまった。
ちなみに今回はNetflixのミニシリーズ『アンオーソドックス』の主演で一躍脚光を浴びたシラ・ハースが目当てで見た次第。アントニーナ夫婦がゲットーから救い出したユダヤ人少女の役で、出番は短いがハードな場面もこなして印象深い。特に静かな泣きの芝居はジェシカ・チャステインと拮抗するほどの鮮烈さであり、彼女の才能を垣間見る事ができる。本作での好演が母国イスラエル以外での知名度に繋がったのだろう。
『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』17・米
監督 ニキ・カーロ
出演 ジェシカ・チャステイン、ダニエル・ブリュール、ヨハン・ヘルデンベルグ、マイケル・マケルハットン、シラ・ハース
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