『眠れる森の美女』を邪悪な魔女側から描いた『マレフィセント』など、古典作品の再映画化がブームとなっている昨今だが、往々にして本末転倒な発想ばかりであり、いい加減にしてくれという気分になってしまう。本作もシェイクスピアの代表作『ハムレット』に登場した悲劇のヒロイン・オフィーリアの視点で描く新解釈版だが、古典をないがしろにした底の浅い2次創作と言わざるを得ない。そもそも『ハムレット』のスピンオフにはトム・ストッパードによる名作『ローゼン・クランツとギルデン・スターンは死んだ』があり、今さら新訳が立ち入るのも憚られる聖域なのだ。
デンマーク王妃の下で侍女として育てられた平民の娘オフィーリアは大学から帰省した王子ハムレットと運命的な恋に落ちる。時同じくしてデンマーク王が急逝。王の弟クローディアスが玉座に着き、先王の妻ガートルードを妃とする。王宮には『ゲーム・オブ・スローンズ』ばりの策謀が張り巡らされ、ハムレットとオフィーリアに悲劇が迫る…まぁ、今更あらすじは言うまでもないだろう。
『スターウォーズ』新3部作で主役を務めるデイジー・リドリーがオフィーリアに扮し、さてイギリス女優の本領や如何にと思えば、どうやら彼女の本分はアクションにあるらしく(『最後のジェダイ』の素晴らしい立ち回りを思い出してもらいたい)、ハムレット役ジョージ・マッケイとの間には何1つケミカルが起きない。これではオフィーリアが狂気を装い、荒れ地の魔女から仮死状態に陥る薬を貰って入水自殺を偽装し、ハムレットと落ち合うべく尼寺へ向かうという沙翁作品のマッシュアップは白けてしまうばかりだ。終幕、なす術なく悲劇へと突き進むハムレットを、オフィーリアはほとんど見限っているようにすら見えてしまった。
この映画を見ている人が沙翁の原作を未読とは思えないが、そんな稀有な人がいるならぜひ本を手に取ってイマジネーションの扉を開いて欲しい。きっとあなたの脳内には最高の映画化作品が上映される事だろう。
『オフィーリア』18・米、英
監督 クレア・マッカーシー
出演 デイジー・リドリー、ナオミ・ワッツ、クライヴ・オーウェン、ジョージ・マッケイ、トム・フェルトン
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