長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ベイビー・ドライバー』

2017-09-05 | 映画レビュー(へ)

ようやく、ようやく飛び出したエドガー・ライト監督の本塁打『ベイビー・ドライバー』は途中、多少の蛇行はあるものの、冒頭からアクセル全開で最高のドライブに連れて行ってくれる大快作だ。

 巻頭、ベルボトムズをバックに繰り広げられる銀行強盗からの逃走シーンはまるで『ラ・ラ・ランド』のカーアクション版であり、あの群舞を一人で踊るかのような主演アンセル・エルゴートのファニーでキュートなパフォーマンスはスター誕生の瞬間である。“タランティーノ以後”の監督であり、『グラインドハウス』でも組んだ言わば舎弟でもあるライトは元来、既成ポップスを使った心理描写が多かったが、本作ではそれがほぼ全編に渡って採用され、カット割りから俳優のミザンスまで全てが音ハメされている。『ベイビー・ドライバー』はまさに“ミュージカル・カーアクション映画”なのだ。

 これまでのエドガー・ライト映画は「わかる奴にだけわかればいい」というノリの映画愛が時に楽屋ウケの範疇を出ず、彼をカルト監督に押し留めてきた感があった(ひょっとしたらマーベルの『アントマン』を降板させられた要因もここにあるかも知れない)。本作でも映画ネタはふんだんに散りばめられているが、より幸福なエネルギーとして画面から発散されるのは音楽愛だ。車を運転する人なら誰でも“飛ばす曲”は持っているだろう。『ブライトン・ロック』について熱く語り合うエルゴートとジョン・ハムの姿に頬が緩む。

 ジョン・ハムのいい仕事っぷりは今に始まった事ではないが、ライトは大物キャスト陣を相手に魅力を引き出す余裕も身に付けている。『ハウス・オブ・カード』最新シーズンでは精彩を欠いたケヴィン・スペイシーがここでは任侠ヤクザを楽し気に演じ、オスカーを獲っても一向に貫禄の出ないジェイミー・フォックスはその小粒感を上手く活かされたキャスティングで笑えた。

そしてベイビーの良心とも言える天使のようなリリー・ジェームズには誰もが恋せずにいられなくなるだろう。
今年最高のスクリーンカップルである2人の初デート先は近所のコインランドリーだ。そこでは『ラ・ラ・ランド』に登場した赤、青、黄の原色ドレスが踊るように洗濯されているではないか。製作時期から考えると関連性は不明だが、ハリウッドミュージカルを復古させた『ラ・ラ・ランド』に対するアクション映画ジャンルからの呼応にも見えた。この偶発的関連性も映画の面白いところである。

『ベイビー・ドライバー』17・米
監督 エドガー・ライト
出演 アンセル・エルゴート、リリー・ジェームズ、ケヴィン・スペイシー、ジョン・ハム、ジェイミー・フォックス
 

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