長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』

2020-04-24 | 映画レビュー(は)

 最新作『最高に素晴らしいこと』がNetflixで配信されたブレット・ヘイリー監督の前作は音楽映画にも関わらずとても静かで、飾り気のない好編だ。フランクは17年間、経営してきたレコード屋の閉店を決める。男手ひとつで育ててきた娘サムは秋から医大への進学が決まっている。残された時間、2人が一緒に過ごせるのはずっと続けてきたバンドセッションだ。ある日、新曲『Hearts beat Loud』がSpotifyで誰かのプレイリストに入った事から父のバンド熱が再燃。なんとかサムの才能を世に出してやりたいと思うのだが…。

 衒いのないシンプルな映画であり、息をするかのように自然な演技を見せる父役ニック・オファーマンの素晴らしいパフォーマンスが本作のプリンシプルを体現している。サムは母を奪った交通事故から多くの人を助けたいという想いで医師を志すが、かつてバンドマンであり、今でもロッカーである父からすれば娘にはそんな小さく生きて欲しくない。

 だが、子供は勝手に育つものだ。サムは母の死以来、禁じられていた自転車への乗り方を覚え、同性の恋人と愛を育む。『さよなら、僕のマンハッタン』でも印象に残ったカーシー・クレモンズがサムを好演。素晴らしい歌唱力を発揮している。恋人役サシャ・レーンとのカップリングも実にキュートで、ヘイリー監督は『最高に素晴らしいこと』のエル・ファニングといい、今この世代の女優を撮らせたらピカ一かも知れない。もちろんトニ・コレットやテッド・ダンソンら大人のキャストも的確で、本作のような実直な企画を通せる監督は貴重である。語弊はあるかも知れないが、次回作が楽しみな“アイドル映画”監督だ。


『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』18・米
監督 ブレッド・ヘイリー
出演 ニック・オファーマン、カーシー・クレモンズ、サシャ・レーン、トニ・コレット、テッド・ダンソン、ブライス・ダナー
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『シンプル・フェイバー』 | トップ | 『ベター・コール・ソウル ... »

コメントを投稿

映画レビュー(は)」カテゴリの最新記事