長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ニーナのすべて』

2020-10-06 | 映画レビュー(に)

 PeakTVの功績の1つが多くの女優に上質な役柄を用意した事だろう。もともとハリウッドにおいて女優の役は圧倒的に少なく、40代以後はほとんど皆無と言っていい。そうして多くの女優がキャリアを絶たれ、“デヴラ・ウィンガー化”していったのである。『ビッグ・リトル・ライズ』でエミー賞を獲得し、キャリアを復活させたニコール・キッドマンは受賞スピーチでこう言った。「もっとテレビドラマに出たい!」

 この状況は若手女優も同様で、彼女らが当てがわれてきたのは“主人公男性の(都合の良い)相手役”ばかりだった。近年、『ウエストワールド』で再ブレイクしたエヴァン・レイチェル・ウッドも20代は低迷している。

 ウッドより3歳年下のメアリー・エリザベス・ウィンステッドもTVシリーズを経て大きく飛躍した女優の1人だ。20代の作品で記憶に残っているのは完全に“カワイコちゃん”枠だった『デス・プルーフ』くらいか。その後、密室スリラー『10クローバーフィールド・レーン』を経て、人気TVシリーズ『ファーゴ』シーズン3に到る。彼女のしなやかなさと色気はシリーズ屈指の難解作となったノア・ホーリー節を超え、主演スターの華があった。その後は『ジェミニマン』『ハーレー・クインの華麗なる覚醒』でハードなスタントを披露し、アクション女優としても開眼。ジェンダーレスなハンサムさはこれまでになかった魅力だ。

 そんな彼女の通過点としてこの主演作は貴重だろう。彼女が演じるのは赤裸々トークが売りのお笑い芸人ニーナ。舞台の上で自らの性癖を晒し、ビビっときたらすぐにセックス。酒とタバコが手放せないハードボイルドなヒロインだ。彼女はコモン扮する実業家と出会い、恋に落ちる。コモンは演技力云々ではなく、完全に彼のカリスマ性だけで役を成立させており、ウィンステッドとのケミカルも抜群。自身もこんなにスクリーンタイムの長い役柄は初めてではないだろうか。2人の本気のキスシーンは画面を熱くヒートアップさせている。

 終幕に明かされるニーナの秘密がそれまでの映画のトーンとイマイチ噛み合わず、テーマの重大さが引き立たないのは惜しまれるが、それがウィンステッドの充実を妨げる事にはならない。今後のさらなる飛躍に期待だ。


『ニーナのすべて』18・米
監督 エバ・ビベス
出演 メアリー・エリザベス・ウィンステッド、コモン、ジェイ・ムーア、ミンディ・スターリング、クレア・デュヴァル、チェイス・クロフォード、カムリン・マンハイム

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『フォーカス』 | トップ | 『ボーイズ・イン・ザ・バンド』 »

コメントを投稿

映画レビュー(に)」カテゴリの最新記事