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日本では公開順が逆になったが、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART1』のランニングタイムが2時間43分。『ジョン・ウィック:コンセクエンス』はさらに長い2時間49分。フランチャイズに根付いたファンダムは映画の尺が長ければ長いほど歓迎する向きにあり、ハリウッド映画の大作化は歯止めが効かなくなっている。愛犬の死も愛妻との死別も観客の記憶に遠く、似たりよったりのプロットを繰り返す『ジョン・ウィック:コンセクエンス』は中盤、明らかに中ダルみしている。“ジョン・ウィックシリーズ”にストーリーなんているか?どう見積もってもあと20分、ひょっとすると30分は短くできたかもしれない。CGにほとんど頼ることなく“スタント技”で魅せる本シリーズにとって、ストーリーなど二の次三の次ではないか。第4弾『コンセクエンス』は移動と動態運動、すなわち“活劇”こそが娯楽映画の醍醐味であると風格を身に着けており、長尺ながら凡百の娯楽映画の追随を許していない。
監督のチャド・スタエルスキはかねてよりアカデミー賞にスタント部門の創設を訴えてきた元スタントマン。このシリーズ第4作を見れば、アクションスタントが単なる肉体労働ではなく、シェイクスピア劇も演じられる名優たちの熟練技であることがわかるだろう。映画前半、追手を逃れたジョン・ウィックは、旧友を頼ってコンチネンタルホテル大阪へとやってくる。彼を迎え入れるのはなんと真田広之。そしてキアヌを付け狙うのはドニー・イェンではないか!169分序盤に繰り広げられる真田VSドニー、ドニーVSキアヌはまさにアクションの名人戦。オスカー像なんていくらあっても足りやしない。スター・ウォーズなんて子供だましだと言わんばかりのドニーの座頭市再演には、ユーモアとバイオレンスが同居し、その天才技に私たちは只々見惚れるばかりである。彼ら3人の間で全く霞まないリナ・サワヤマのカリスマ性も大いに刮目すべきだろう。
そんな達人を迎え撃つキアヌ・リーブスの胆力、献身はいったい何なのか。真田、ドニーよりもセリフは少ないかもしれない。ひょっとすると還暦を前にスピードは落ちているかもしれない。だが、今の彼には経験と年齢が支えるパワーがある。大阪コンチ死闘編、パリでの驚異的な“凱旋門大回転”、そして“サクレクール寺院222段落ち”の大立ち回りを見よ。満身創痍でもなお222段を登り直す姿には感動すら覚える。流れ続ける水、踊りを止めない人、絶えることのない車という“群舞”に、本シリーズの様式美も極まった。シリーズ最終作?いや、キアヌはヒットする限り続けると頼もしいコメント。あとは彼が舞うための新たな“振り付け”を用意するだけだ。
『ジョン・ウィック:コンセクエンス』23・米
監督 チャド・スタエルスキ
出演 キアヌ・リーブス、ドニー・イェン、ビル・スカルスガルド、イアン・マクシェーン、ランス・レディック、真田広之、リナ・サワヤマ、ローレンス・フィッシュバーン、シャミア・アンダーソン
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