1948年、短編小説『くじ』が注目を集めたばかりのシャーリィ・ジャクソンは新作に取りかかろうとしていた。しかし一向に筆は進まず、彼女は極度のうつ症状に悩まされる。ある日、大学教授の夫スタンリーの助手を務めるべく、若い夫婦が下宿にやってくる。妻ローズはシャーリィの大ファンだが、そう易々と心を開いてもらうことはできない。
作家と読者の間で起こるインスピレーションの相互作用を、ジョセフィン・デッカーはシャーリィ・ジャクソン小説さながらの心理ホラーとして描いている。シャーリィは地元で起きた女子大生失踪事件に強い執着を抱くも、一向にヒロインの顔をイメージすることができない。デッカーの演出は触感的で、人物に肉迫するカメラがシャーリィとローズの間に生まれる連帯を捉えていく。
エリザベス・モスほどフィルモグラフィの形成に自覚的な俳優は近年、稀だろう。『ハンドメイズ・テイル』で家父長制への反逆を謳ったこの女優は、居場所を得られなかった失踪者にシンパシーを抱き、物語を上梓することで自身の内にある孤独と共に昇華しようとするシャーリィの底知れなさを体現している。なんともはや一貫した女優である。モスとがっぷり四つに組んだオデッサ・ヤングの健闘も特筆したい。2019年製作の本作が5年も遅れて日本公開されたことは悔やまれるが、ジョセフィン・デッカー、ようやくの初登場である。
『Shirley シャーリィ』19・米
監督 ジョセフィン・デッカー
出演 エリザベス・モス、オデッサ・ヤング、マイケル・スタールバーグ、ローガン・ラーマン
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