2023年末、専属契約を結ぶNetflixから『ラスティン』『終わらない週末』と次々に話題作を送り出したバラク&ミシェル・オバマ夫妻の主宰する製作プロダクションHigher Ground。現在、オスカーレースでアカデミー長編ドキュメンタリー賞のフロントランナーと目されている『ジョン・バティステ:アメリカン・シンフォニー』も彼らによるプロデュースだ。
2022年、グラミー賞で最多11部門ノミネートされ、5部門に輝いたジョン・バティステがその裏で抱えていた苦悩を収めたドキュメンタリー。バティステはジュリアード音楽院を卒業後、路上ライブ等で市井のアーティストとしてキャリアを積む傍ら、クラシックからジャズまで幅広いジャンルを横断する実験性の高い作曲活動を続け、グラミー賞ノミネートを受けてついに殿堂カーネギーホール公演を行うチャンスを手に入れる。“アメリカン・シンフォニー”と題された新曲はルーツの異なる様々な音楽をミックスしたまさに人種のるつぼ、アメリカを象徴する交響曲。オバマ夫妻はバティステに次世代のアメリカを担う黒人音楽家としての重要性を見出していたのだろう。しかし、本作に収められているのはポップスターの栄光でもなければ、ブラックカルチャーをエンパワメントする英雄性でもない。バティステはカーネギーホール公演という、黒人アーテイストにとって歴史的とも言えるイベントのプレッシャーに何度も押し潰されそうになる。そして何より彼を追い詰めるのが、最愛の妻スレイカを蝕む白血病だ。時に枕に顔を埋めながらセラピストにすがりつくバティステの弱さも余す所なく映しながら、揺るぎない完遂力でプロジェクトを成功させる彼に次世代の巨匠の姿を見るのである。もちろん、バティステの映画だから音楽映画としても最高だ。オスカーに手が届けば劇場でも公開してほしいところだが、どうだろうか。
『ジョン・バティステ:アメリカン・シンフォニー』23・米
監督 マシュー・ハイネマン
出演 ジョン・バティステ、スレイカ・ジャワド
※Netflixで独占配信中※
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