さんぽみちプロジェクト

さんぽみちプロジェクトの記録。
和歌山新報で日曜日一面に連載中の「WAKAYAMA NEWS HARBOR」と連携。

酒の肴に相性抜群 「奈良漬クリームチーズ」

2024-10-06 13:30:00 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、伝統野菜を次世代につなぐために、「源五兵衛(げんごべい)」の素材を活かした創意工夫により、経済的持続性を成立させている鳥取の「とまり漬け」の事例を取り上げた。
粕漬(奈良漬)を若者や海外の人々に親しみやすくしようと、粕漬を他の食材とアレンジする試みが広がっている。
今週は人気が高まる「奈良漬クリームチーズ」を紹介したい。


【写真】「奈良漬クリームチーズ」

先日、筆者は梅田駅近くの飲食店に居た。帰宅途中、同僚と立ち寄ったお店のメニューに、人気商品としてマーキングされていたのがこれだ。渋いメニューを選ぶねと笑われながら、迷わず注文してみることにした。

小さな鉢の中に、すりきり一杯に入れられたクリームチーズの中から、角切りにされた奈良漬が顔を出し、可愛らしい緑の飾り葉が乗せられ、その傍らにはクラッカーが添えられている。

スプーンで、奈良漬が練り込まれたクリームチーズをすくい取り、クラッカーに乗せて食す。「うまい!」。奈良漬特有の酒粕の香りが、クリームチーズのまろやかさと融合し、香り高い高級食材と化している。ビール、ワイン、日本酒、どのお酒にも合う味わいで、酒の肴にぴったりな存在である。

人気を博し始めたのはここ数年。大手の漬物メーカーなどが商品化し販売を開始。奈良漬として使用されている原材料は「クリームチーズ」「瓜」「酒粕」と表記されており、使用されている瓜の品種はわからないが、酒粕たっぷりで濃い味が特徴の源五兵衛は、美味しくいただけるであろうと感じた。

クリームチーズには様々な種類があり奥が深い。奈良漬にも原材料や地域によって違いが多い。
一見、相反するような存在の異色な組み合わせが、日本ならではの食材の、新しい価値を見出している。

(次田尚弘/大阪市)
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経済的持続性が成立 伝統野菜「源五兵衛」のこれから

2024-09-29 13:38:38 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、和歌山の伝統野菜「源五兵衛(げんごべい)」を使った鳥取の名産品「とまり漬け」を取り上げた。
今週は、伝統野菜を次世代に伝えていく、持続可能な農業について考えたい。


【写真】源五兵衛の粕漬(左)と醤油漬(右)

江戸時代から布引地区で栽培が始まった源五兵衛であるが、現在は、松江地区が主な栽培地となっている。栽培面積は約2haで、生産量は100t程度とされる。一般に流通する機会は無く、漬物業者への出荷が確約された契約栽培。収穫されたものは農家の手で一次加工された後、県外へ出荷される。

県外で粕漬にされた加工品が再び県内のスーパーなどの店頭で見かけることは稀で、和歌山市の伝統野菜であることを知る方は少ない。
市場に並ぶことがなく認知度は低いものの契約栽培という形式で細々と生産が続くのは、経済的持続性が成立しているから。

市場に出荷するだけでは採算性が取れないが、生産・製造(加工)・小売を地域で一貫して行う、いわゆる六次産業化により付加価値を高めることで採算を確保し、経済的持続性が成り立つケースはある。

源五兵衛は、生産と製造(加工)の一部を農家が行い、製造の残工程と小売は県外の業者が担い、粕漬(奈良漬)として、漬物が有名な他地域のブランド品として認知され、さり気なく、和歌山の伝統野菜として、持続可能な立ち位置を確立している珍しい事例である。

とまり漬けは、粕漬としての価値への限界という、地域の危機感から生まれ、新たな味として定着。そこには、農作物をいかに価値あるものに変化させるかという創意工夫のうえに成し得たもの。

和歌山産の源五兵衛も、地域を跨いで生産と加工のプロフェッショナルが連携し、新たな価値を提供し続けることが、伝統野菜を次世代につなぐ、持続可能な農業の大きなカギになりそうだ。

(次田尚弘/和歌山市)
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鳥取県で栽培される源五兵衛 薄口醤油で癖が無い「とまり漬け」

2024-09-22 13:33:00 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
江戸時代から栽培が続く、和歌山の伝統野菜「源五兵衛(げんごべい)」を取り上げている。
前号では、古くから受け継がれる粕漬の製法と、その味わいについてお伝えした。
近年は、消費者の嗜好に合わせ、薄口醤油に漬け込まれた醤油漬けの販売が始まっている。
今週は、鳥取県の名産品となっている「とまり漬け」を紹介したい。


【写真】源五兵衛を加工した「とまり漬け」

和歌山市の布引地区を中心に栽培が広がった源五兵衛であるが、現在、県内での栽培は僅か。和歌山市と同様に砂地の地形が特徴の鳥取県では、源五兵衛が積極的に栽培されている。

主な生産地は湯梨浜町。鳥取県の西部に位置する。ここで栽培される源五兵衛を半年程度酒粕に漬けて寝かせた後、酒粕と塩を抜き、薄口醤油で浸ける。収穫から加工され出荷するまで約1年かけて出来上がったものが「とまり漬け」だ。

大変なのは加工の工程だけでなく、収穫も。とまり漬けに適した果実の大きさが直径5.4㎝から6.4㎝のものと定められているため、成長が早い源五兵衛は、朝に直径5.4㎝未満であっても1日で6.4㎝を超えるサイズになる。
そのため、農家は1日に複数回の収穫を余儀なくされるという。とまり漬け(鳥取県産)と源五兵衛(和歌山県産の粕漬)のサイズを比べると、とまり漬けの方が、果実のサイズが小ぶりであることがわかる。

食してみると、源五兵衛(粕漬)と比べ柔らかい。コリコリした食感は無く、巨大なオリーブを食しているような感覚である。サクサクとして粕漬特有の香りもなく、甘辛い醤油の味付けと、刻まれた鷹の爪のピリ辛さが絶妙である。
小さめのサイズで収穫され、外皮が薄いからなのか、醤油漬けによるものなのか、理由は定かでないが、柔らかくプニプニとした弾力がある。

(次田尚弘/和歌山市)
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和歌山の伝統野菜を使用 深い味わい「源五兵衛の粕漬」

2024-09-15 17:19:39 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号より、紀州名産の小スイカ「源五兵衛(げんごべい)」を取り上げている。
江戸時代から栽培が始まり「小スイカの粕漬」に加工され、現在も親しまれる源五兵衛。
今週はその中身と味わいを紹介したい。


【写真】スイカを連想させる「源五兵衛

収穫当初は一般的なスイカと同様に張りのある果皮であったが、粕漬にする過程で、おにぎりのような形になる。輪切りにしてみると、中心部分を一周するように小さな種があり、これがスイカであることを明らかにさせてくれる。

源五兵衛の粕漬は、酒粕を5度に渡り浸け直して製造。これは和歌山の伝統的な粕漬(奈良漬)の作り方であるという。
現在、和歌山県内で製造する業者は僅かなようで、筆者が手にしたものは県外で加工されたもの。県内で収穫された源五兵衛は、すぐに酒粕に漬け込まれ、粕漬の一次加工がされたうえで県外に出荷される。県外の加工業者で更に加工され商品となる。

一般的な漬け込みの期間は半年から1年程度とされる。伝統的な漬け込み方法である5度の浸け直しが行われているかは定かではない。
源五兵衛の粕漬にはランクがあり、漬け込みの期間が浅いものは1個あたり700円前後が相場。酒粕を取り換え、長期熟成されたものは高級品として扱われる。

食してみると、コリコリとした歯ごたえがあり、柔らかさがなく食べ応えがある。噛むごとに口いっぱいに酒粕の風味を強く感じ、若干の苦みはあるが、ご飯が進む逸品である。

時代の流れなのか、粕漬(奈良漬)特有の風味と味の濃さよりも、さっぱりとした味わいを求められる傾向も。昭和30年頃から源五兵衛の栽培が盛んになった鳥取県では、近年、薄口醤油に漬け込み、醤油漬けとしての販売が始まるなど、現代の消費者の嗜好に合わせた工夫が行われている。

(次田尚弘/和歌山市)
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布引地区の小スイカ栽培 紀州名産、歴史が深い「源五兵衛」

2024-09-08 14:57:10 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、味覚の対比効果により甘味が引き立つ、スイカと塩の関係について取り上げた。
関西では有数のスイカの産地である和歌山県。長年、和歌山市内で栽培され、ご当地のみならず県外でも親しまれるスイカの品種があることをご存知だろうか。
今週は「源五兵衛(げんごべい)」を紹介したい。


【写真】こぶし大の「源五兵衛

源五兵衛は小スイカの一種で、主に、和歌山市の布引地区で栽培されてきた。
時は江戸時代にまで遡る。津波により不毛の地と化していた和歌山市南部の砂地の地域に対し、徳川頼宜が土地改良を命じ、スイカの栽培が始まった。
水はけのよい砂地が栽培に適し、良質のスイカが収穫できたため「布引スイカ」と呼ばれ、紀州の名産品になったという。

このスイカに転機が訪れたのは和歌山市本町にあった酒屋の杜氏(とうじ)・源五兵衛との出会い。源五兵衛が和歌山市毛見にある「濱宮(はまのみや)神社」に参拝する途中、布引の畑でこぶし大のスイカを拾った。酒屋に持ち帰り、酒粕に漬けたところ上品な仕上がりとなり、改良を重ね販売を開始。やがて「小スイカの粕漬」として紀州の名産品となり、大阪や京都、さらには江戸へと販路を広げていった。
この商品を作った人の名にちなみ、スイカにも粕漬にも、源五兵衛の名が付けられたという。

粕漬にした源五兵衛はこぶし大で、漬物の茄子よりも小さく、一般的なスイカのイメージを覆す。丸い形ではなく、やや上下に長い楕円形をしており、上部にはしっかりしたヘタが付いている。

実際に食してみるとどのような味わいなのか。次週に続く。

(次田尚弘/和歌山市)
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