さんぽみちプロジェクト

さんぽみちプロジェクトの記録。
和歌山新報で日曜日一面に連載中の「WAKAYAMA NEWS HARBOR」と連携。

貯蔵技術でブランド化も 濃い味と香りが特徴「麗紅」

2024-03-31 22:00:00 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、樹上で熟成される晩生品種である「津之香」を取り上げた。桜の季節を迎えるが、この時期に旬を迎える柑橘はまだまだある。
今週は「麗紅(れいこう)」を紹介したい。


【写真】味と香りが豊潤な「麗紅」

麗紅は「清見」と「アンコール」の育成系統である「No.5」に「マーコット」を掛け合わせて生まれた品種。1984年に長崎県の農研機構で育成が始まり、2005年に品種登録されている。

果皮は張りがあり、色はその名のとおり少し赤みがかった橙色をしており、果肉の色も濃いオレンジ。重さは200g~300gで、一般的な温州ミカンと比べやや大きめである。
食してみると強い甘味と適度な酸味が感じられる。糖度は12度を超え、酸度は1.0%~1.2%と高めであることから、しっかりとした味わいを楽しむことができる。

果汁が豊富であることからジューシーで、強い香りがある。外皮が薄いので容易に手で剥くことができ、じょうのうが薄いため食べやすい。これらの特徴から、ジャムやケーキのトッピングに適している。

佐賀県では糖度、酸度、外観が基準を満たしたものを「はまさき」という名称で販売。収穫後、1ヶ月程度貯蔵することで食味が高まるとされ、ここでも蔵出しの技術が活用されている。

農水省統計(2020年)によると、収穫量の第1位は佐賀県(907t)、第2位は宮崎県(69t)、第3位は愛知県(60t)で、和歌山県は第8位(16t)となっている。
県内における収穫量は多くないが、この時期、産直市場で目にする品種である。

収穫は1月中旬から3月下旬頃。フレッシュな柑橘を味わえる、今シーズン最後の機会。目にすることがあればぜひ食べてみてほしい。

(次田尚弘/和歌山市)
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樹上で熟成される晩生品種 限られた地域で栽培「津之香」

2024-03-24 14:14:14 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、適度な酸味と濃厚な甘みが特徴の、和歌山県オリジナル品種「田口早生」を取り上げた。これまで、収穫されてから一定の期間、貯蔵されてから出荷される蔵出しみかんを取り上げてきたが、この時期に収穫期を迎える晩生の品種がある。
今週は一部の地域に限られて栽培されている希少品種である「津之香(つのかおり)」を紹介したい。


【写真】オレンジのような味わい「津之香」

津之香は「清見」と「興津早生」の交雑実生で、昭和47年に長崎県の果樹研究所で生まれた品種。平成3年に品種登録されている。
果実の大きさは160g程度で一般的な温州みかんと変わらない大きさ。果皮は橙色で清見よりも濃い印象。12月中旬には完全に着色するが、クエン酸の含有量の減少が清見よりも遅く、成熟期は3月下旬となる。

栽培地域は樹上で越冬が可能な地域に限定され、年間の平均気温が17度を超える温暖な地域が適地とされる。栽培面積が少ないため農水省統計の値として公開情報は無いが、熊本県や佐賀県、和歌山県で栽培されているという。
気象庁の公表値では、和歌山県(和歌山市)の平均気温(1991年~2020年)は16.9℃とされているので、栽培に適した地域といえよう。

果皮は硬めであり手で剥くことは難しいため、ナイフでスマイルカットに切るのがおすすめ。食してみると果汁が多く、甘味と酸味が共に強い印象。糖度は15度程度になり、減酸が遅い品種であるため酸味も強い。温州みかんというよりもオレンジに近い味わい。種がほとんどなく食べやすい。

これから4月下旬にかけて旬を迎える津之香。筆者は海南市(下津)で栽培されたものを産直市場で購入した。希少な品種で目にする機会は限られるかもしれないが、ぜひ味わってほしい逸品だ。

(次田尚弘/和歌山市)
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適度な酸味と濃厚な甘み 県オリジナル品種「田口早生」

2024-03-17 17:01:23 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、雨が多い地域に適合し、浮皮が無く高糖度である「石地温州」を取り上げた。
蔵出しみかんは晩生の品種が中心であるが、稀に、早生の品種でも貯蔵後に出荷されるものがある。今週は「田口早生」を紹介したい。


【写真】貯蔵により味わいが秀でる「田口早生」

田口早生は、昭和53年に当時の和歌山県有田郡吉備町(現在の有田川町)で、興津早生の変異種として発見されたもの。樹勢が強く葉が大きいことから育成対象となり、平成7年に品種登録された。名称は発見者の田口氏に由来する。

興津早生と比べ減酸、増糖ともにやや早く、糖度は11月上旬に12度程度にまで達し収穫可能となる。樹上で熟成させることで糖度は更に増す。クエン酸は10月下旬には1%以下となるが、減酸は遅い傾向にある。
石地温州と同様に浮皮が発生しづらく、じょうのうは薄い。果実は120g程度(M寸)で、果汁が多く味わいもよい。

一般的には11月下旬の早生品種のシーズンに出荷されるが、12月まで樹上に残す農家もいるという。収穫後、年明けまで貯蔵した田口早生を、1月下旬、海南市内の産直市場で見つけ購入。貯蔵することで糖度は14度程度まで増し、減酸が遅い特性から、他の蔵出しみかんと比べ、やや酸味が残りつつ、濃い甘味が特徴のものに仕上がる。
濃厚さが故に、まるでオレンジのゼリーを食べているような食感。早生ならではの珍しい味わいである。

農水省統計(令和3年産)によると、全国の栽培面積は約650ha。和歌山県内は約330haと第1位で、熊本県(約83ha)、長崎県(約67ha)、愛媛県(約58ha)と続く。

滅多に見る機会がない早生品種の蔵出しみかん。ぜひ、その味わいを楽しんでほしい。

(次田尚弘/和歌山市)
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多雨の地域に適合 浮皮がなく高糖度「石地温州」

2024-03-10 18:03:10 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、中生(なかて)の品種ながら貯蔵のうえで出荷される「向山(むかいやま)温州」を取り上げた。
同様に扱われる希少な品種が他にもある。今週は「石地温州」を紹介したい。


【写真】甘味が際立つ「石地温州」

石地温州は杉山温州の苗木から樹勢に優れたものを発見し育成されたもの。広島県で行われた優良系統を育成する事業で果実特性が調査され、平成12年に品種登録。以降、栽培が広がっている。名前は、発見者の苗字に由来する。

大きな特徴は、果実に浮皮が発生しづらいこと。降雨が多いシーズンは、果皮と果肉が分離する浮皮症が起き、輸送性の低下や腐敗のしやすさから価格が下落する要因となるもの。
石地温州は根が浅く、横に広がる特徴があるため、水分の吸収が少ない。それが、浮皮の抑制や糖度の向上に貢献しているとされる。

根が浅いことから台風などの強風にあおられ転倒することが多く、また、収穫が隔年となりがちで、1本あたりの収穫量が多くない。

他の品種と比べ開花が早いが収穫期は11月下旬から12月下旬と中生であることから、果実が樹上で熟す期間が長く、高糖度で濃厚な味わいが実現する。
果実のサイズは100g程度とやや小ぶりのものが多い。糖度は13度から15度程度と甘く、クエン酸の含有量は1%以下となることから、酸味は少なめで甘味が先行する。

農水省統計(令和3年産)によると全国における栽培面積は763haで、みかんの中では10位以内に入る。
主な生産地は、広島県(269ha)、愛媛県(131ha)、和歌山県(91ha)となっている。

一般的には年末にかけて出荷されるが、一部は貯蔵され1月中旬頃から出回る。
蔵出しみかんに見られる浮皮が少なく、濃い甘さが特徴の石地温州。貯蔵されるケースは稀とみられるので、見つけた時はぜひ食べてみてほしい。

(次田尚弘/和歌山市)
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貯蔵は中生の品種でも 新品種の登録も「向山温州」

2024-03-03 16:36:36 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、静岡を代表する品種で、下津みかんと同様に貯蔵された後に出荷される「青島温州」を取り上げた。貯蔵技術は晩生(おくて)の品種に限らず、一部の中生(なかて)の品種でも行われている。
今週は、和歌山県内で発見され、親しまれている「向山(むかいやま)温州」を紹介したい。


【写真】貯蔵されて出回る「向山温州」

向山温州は昭和9年に、現在のかつらぎ町の向山氏の農園で発見された品種。尾張系の温州みかんの枝替わりとされ、中生における代表種として知られる。

一般的に中生は12月中旬から下旬頃にかけて収穫され、年内に出荷されるケースが多く、お正月に食べるみかんがこれにあたる。向山温州は中生のなかでも遅めの時期に収穫され、一部の農家では、すぐに出荷せず年明けまで貯蔵し、時期をずらして1月中旬から下旬頃に出荷される。晩生ほどではないが、早生に比べるとじょうのうが厚いことから、貯蔵が可能な品種である。

サイズは様々であるが、大きくなるにつれ浮皮の発生が見られる傾向。小さめのほうが張りがあり、中生らしい味わいがある。食してみると、糖度は高めで酸味は少ない。貯蔵されることにより、さらに酸味が減り、より濃厚な食味になる。

長年、和歌山県内で栽培されてきた向山温州であるが、昭和35年頃、向山温州の苗木として販売されていたものの中に、じょうのうが薄く、食味に優れた枝替わりの品種を発見。
その後、有田市宮原町で育成され、50年もの時を経た平成26年に「きゅうき」という名前で登録された品種がある。浮皮の発生が少なく、早生のような食味が特徴で、県のオリジナル品種として注目されている。

来シーズンは、年末から年始にかけて出回る向山温州の魅力に触れてみてほしい。

(次田尚弘/和歌山市)
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