無線呼び出し(むせんよびだし)とは、ポケットベル(略してポケベル、英語: pager (ページャー),beeper(ビーパー))とも呼ばれる通信機器で、連絡をとりたい時に、特定の電話番号に電話をすると、小型受信機に電波で合図を送り、相手に知らせるもの。警察無線や消防無線の受令機も広義の無線呼び出しである。こちらは無線電話の音声を受信出来、全対象者に命令の一斉伝達が、また聴いているであろう特定の相手を名指しする事で簡単な伝言が出来る。
電気通信事業者による電気通信サービス(公衆無線呼び出し)と、特定の工場やビル内などを対象に設置されたもの(構内無線呼び出し)がある。
クイックキャストはNTTドコモのサービス名。また、ポケットベルはNTTドコモの登録商標。ちなみにTTMのポケットベル/TTMのポケベルという商標はYOZANが取得している。
概説
1950年代に米国で世界初のサービスが開始された。当時は、交換手に呼出し番号を伝えるものであった。やがて、特定の電話番号に電話をすることで呼び出すものとなり、DTMFで電話番号やメッセージを送信できるように多機能化が行われた。
課金方式としては、次のものがある。
契約者が月額定額料金を支払い、呼び出しを行う人が呼び出しに使用した通話代金を支払う。
契約者が月額定額料金と呼び出し回数に応じた料金とを支払い、呼び出しを行う人が呼び出しに使用した通話代金を支払う。
契約者には料金が発生せず、呼び出しを行う人が呼び出しに使用した通話代金に上乗せして呼び出し料金を支払う。
技術
周波数あたりの加入者収容能力は非常に大きい。しかし輻輳時は呼び出しまでの時間遅れが大きくなる。また、単方向通信であるので受信の確認に別の手段が必要である。
小容量の電池で長時間の使用ができるように、受信機をグループ別に分け、通信時間を限定する間欠通信方式となっている。
高出力の複数の送信局から同期した信号を送信し、広いサービスエリアを確保している。また、高速化にともない送信局間のより精密な同期が必要となっている。
制御装置から送信局への情報の伝送は、狭い範囲の場合有線通信や地上固定無線通信が用いられ、広域のものは通信衛星回線が用いられることがある。また、端末への伝送手段としてFM放送の電波の隙間を利用するFM放送ページャーが一部の国で、通信衛星からの電波を直接受信し全世界で利用可能な衛星ページャーも提供されている。
日本の無線呼び出し事業
移動体通信のパイオニア
公衆サービスは1968年7月1日に、東京23区で旧電電公社により150MHz帯の多周波信号方式で開始された。加入者の増加とともに、1978年に280MHz帯のFSK変調200b/sのNTT方式のサービスが開始され、1987年に400b/s・1989年に1200b/sへの高速化が行われた。
主に業務上で外出の多い営業マンや管理者、経営者に携帯させ、呼び出し音が鳴ったら、出先の公衆電話から会社へ確認の電話を入れてもらう使い方であった。当初のものは、電子音による呼び出し音が鳴るだけの一方的な機能であったが、本格的な携帯電話が登場する1990年代まで、唯一のパーソナルな通信手段であった。
通信自由化を迎え、花の時代に
1985年の通信自由化を経て、電電公社のポケベル事業はNTTドコモグループに移管された。また、1987年以降、各地域に設立された地場資本中心の新規参入事業者がPOCSAG方式で事業を開始して競争が激しくなった。
その過程で、単に呼び出し音を鳴らすだけの機能から、プッシュ信号 (DTMF) による数桁の数字を送れるように改良され、受信した方は公衆電話などからポケットベルに表示された番号に電話をかけるという使い方がされるようになった。
ところが、女子高生を中心に、この番号に意味をつけてメッセージを送るという、一種の言葉遊びが流行し、1990年代中盤あたりからコミュニケーションツールとして爆発的に普及した。
例:「14106」=「アイシテル(愛してる)」
社会に与えた影響も大きく、1993年に製作されたテレビドラマ「ポケベルが鳴らなくて」や、同名の主題歌がヒットし、さらには特定時間帯の通信トラフィックの増大、公衆電話の酷使による故障が相次ぎ、事業者は対応に追われるようになった。
数字だけでなく、カタカナやさらには漢字まで画面に表示できるタイプも発売され、1996年には加入者の増大に対応するためFLEX-TD方式の導入が開始された。最盛期の1996年6月末には、約1077万件の加入者があった。
そして、終焉を迎え
携帯電話機の買い切り制が導入され、携帯電話の新規参入第二弾のデジタルホン(現ソフトバンクモバイル)とツーカー両グループの事業が開始され、さらにPHS事業者も事業を開始した1995年以降、急速に携帯電話の料金が低下し、携帯電話の普及と引き換えに、ポケベルの解約が始まった。
さらに1996年以降、電子メールやショートメッセージサービス機能が内蔵された携帯電話が普及してからはポケベルの存在意義がなくなり、1999年10月末には加入者が約280万件まで激減した。
1999年、新規参入事業者で最大手であった東京テレメッセージがシステムの高度化の設備投資の資金を回収できず会社更生法の適用を申請して倒産した[1]。また、その他の各地に設立された新規参入事業者はNTTドコモに加入者を移管し、2001年までに首都圏1都3県および沖縄本島を除き事業を停止した。
この頃から、自動販売機やタクシー・バス車内に端末を設置し、配信されたニュース速報や緊急防災情報、広告等を電光表示板で表示するという使われ方も行われるようになった。そのため、NTTドコモでは、それまでのサービス名「ポケットベル」を、2001年1月に「クイックキャスト」(クイックとマルチキャストから作った造語)に変更した。
しかし、日本全国単位としては唯一ポケベル事業を手がけるNTTドコモも、2004年6月30日をもってポケットベル新規契約の受付を終了、2007年3月31日をもってサービスを終了することが発表された。 また、解約金を2006年10月に無料にした。
今後
現在では医師や看護師など、職業上、携帯電話を使えない一部の人が持っているのみとなっているが、院内PHSの普及もあいまって、2007年3月31日以降日本国内においてこの事業を行なう業者は株式会社YOZANとその関連会社である沖縄テレメッセージのみとなり、そのサービスエリアも首都圏1都3県および沖縄本島のみである。
なお、YOZANは通信衛星を使用し全国区でサービスを展開すると発表しているが、同社のこれまでの事業展開からすると実現性には疑問が残る。事実関東では2006年3月設備の刷新と共に大幅にエリアが縮小された。
サービス存廃の是非
ポケベルは、携帯電話やPHSに比べ、
建物内への電波の到達範囲が一番広い
受信専用なことからペースメーカー等の電子機器への悪影響が無い
という2つの特徴を持つ。
NTTドコモは、ポケベルを価格競争で多くの地域で独占した後の2007年に全廃する計画で、携帯電話に比べて電子機器への悪影響が小さいPHSの新規契約も既に停止しており、全廃することを発表している。このような独占から全廃への経緯を考えると、NTTドコモは携帯電話だけを残す予定の地域の利用者のために、社会的使命として以上の2つのポケベルの特徴を維持するよう、携帯電話の建物内への呼び出し電波の到達範囲をポケベル並みに充実することと、ペースメーカー等の電子機器への悪影響がポケベル並みの受信専用の端末を発売するのが当然との意見がある。
しかし、ウィルコムが、全国的にPHSや、非音声通信手段である文字電話のサービスを今後も維持させることを考えると、上記の意見は、NTTドコモに対する過剰な期待と受け取れなくもなく、建物内への呼び出し電波の到達範囲をポケベル並みに充実させることやペースメーカー等の電子機器への悪影響がポケベル並みの受信専用の端末発売をウィルコムに期待するのも一理あると思われる。
主な大口利用者
京王電鉄
NEC製作の「IDS(Information Display System)」を導入。駅改札に設置された電光掲示板や、電車内のLED表示器にお知らせや運行情報を配信する。
神奈川都市交通
タクシーチャンネル。クイックキャスト受信機を内蔵した小型LED表示器をタクシー車内に設置し、FM文字多重放送を利用して最新のニュースや広告を流している。
「ポケベル」が「NTTドコモ」の商標という事を初めて知った。テレビ局の記者は常に「ポケベル」を持たされていたが・・・今後、どうなるのだろう。