日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

刀 兼得 Kanenari Katana

2016-06-11 | 
刀 兼得


刀 兼得

 江戸時代の刀工は、戦国時代の美濃の作刀技術を踏襲している。この刀のように、平地部分は杢目交じりの板目鍛えで、揺れて流れる風があるも、鎬地は柾目が強いところが美濃物の特徴。江戸時代の刀も、鎬地は柾目鍛えで、平地は小板目肌鍛えを基本として板目や小杢目、小板目肌となるのが普通。これが靭性を高める工夫と考えられる。この兼得は、兼房を輩出した関七流では善定派の流れ。直刃を基礎としてその変化形を専らとする。地鉄の躍動感がそのまま刃中に及んだ感があり、鍛え目強く細かな地沸が付いて淡い映りも特徴的。刃文は小沸主調の直刃で沸深く、ゆったりと浅く湾れ、刃境がほつれ掛かって刃中の沸筋や金筋に変じている。

脇差 兼氏 Kaneuji Wakizashi

2016-06-10 | 脇差
脇差 兼氏


脇差 兼氏

 鎌倉後期の兼氏ではない。その工銘を慕ったものであろうか、同銘は江戸時代まで続いている。人気があった証である。この脇差は一尺三寸強、反り三分強、元幅広く物打辺りも広く鯰尾のような陰影。横手筋がなく鎬筋が通って棟に抜けた菖蒲造。杢目を交えた板目鍛えの地鉄が肌立ってザングリとし、映りがこれに重なっている。刃文は湾れ刃に感じられるが、尖り調子の小互の目を交えた構成。沸が強く刃境を流れ、肌目に沿ってほつれかかり、金線、砂流、沸筋も多彩。刃中に淡く入る足に沸筋が絡んで流れる。

脇差 兼元 Kanemoto Wakizashi

2016-06-09 | 脇差
脇差 兼元


脇差 兼元 

 一尺七寸強。この手の脇差をどのように読んだら良いのか、迷うことがある。現代の「銃刀法」の分類では明らかに脇差だからそのように表記もするが、実用の時代には脇差でも刀でもない。腕の延長である。みずからが抜刀しやすい寸法の刀を備えとするのは当然だ。刀あるいは脇差という概念が生じるのは、江戸時代の武家諸法度による頃から、戦国時代の刀や脇差とは・・・それほど明確に分けなくても良い、判然としない存在でも良いではないかと考える。この兼元は孫六兼元に頗る近しい存在。身幅広く刃先の鋭い、鋒の伸びた造り込みも孫六を想定したもので、見るからに孫六。地鉄は杢目交じりの小板目肌で比較的均質に詰んで一部揺れ、地沸がついて映りも立つ。美濃刀として精良さがとよくなていることがよくわかる。刃文は孫六伝の特徴的尖刃交じりの三本杉乱。匂口明るく冴え、叢沸はつかずに焼刃は均質。帽子まで調子が同じく乱れ、先は丸く返る。この刃文が、後に「孫六写し」と呼ばれるように流行してゆく。相州伝が微塵も感じられない、美濃伝の一典型である。

刀 兼舛 Kanemasu Katana

2016-06-08 | 
刀 兼舛


刀 兼舛

 同じ奈良太郎派の兼舛の刀。茎から腰元までは重ねを厚く造り込み、その上の棟側の肉を削いで薄く仕立てており、これによって鎬が高くなり、横から受ける力にも対応ができる。刃先はもちろん鋭いことから、截断の際の抵抗が減って刃の通り抜けが良くなる。実用のための造り込みだ。地鉄は板目肌が良く詰んで小板目肌風に見え、これに地沸が付いており、焼き入れ温度が高いのか、湯走り状に叢になっている。刃文も沸が主体の湾れに互の目乱で、刃縁の沸が強く、ほつれから変化した沸筋、沸の帯、砂流、金線が刃境を流れる。帽子も沸強く掃き掛けて返る。相州の伝法が強く表れた出来である。

短刀 兼景 Kanekage Tanto

2016-06-07 | 短刀
短刀 兼景

 
短刀 兼景

 関七流の中で、兼常の流れは奈良太郎系。これと同じ流れを汲むのが兼景。兼景は、兼常も得意とした直刃を焼いている。刃長九寸強、無反りの短刀。重ねしっかりとしており、小杢を交えた板目鍛えの地鉄が躍動感に溢れて靭性と強みが感じられる。特に映りのかかった肌合いは緊張感に満ちて凄みがあり、これぞ美濃物の優れた素質。匂口の締まった細直刃も引き締まった感があり、刺突のみならず截断に優れていることが分かる。刃境の穏やかなほつれに古作大和伝の名残が窺える。映りの様子が拡大写真で分かると思う。微妙に質の異なる鋼に焼き入れの際の火まわりの調子が影響したものであろうか、あるいは土どりの調子も影響しているのであろうか、様々な要因によってこの不思議な景色が生まれる。



刀 兼常 Kanetsune Katana

2016-06-06 | 
刀 兼常


刀 兼常

 一寸強の磨り上げで現在は二尺ちょうどの頗る扱いやすい寸法。元幅一寸弱、鎬が立っておりしかも樋が掻かれている。元来が片手打ちであったものを、さらに短くして扱い易さを突き詰めている。刀の、自らの身体化に他ならない。刀は生ぶ茎でなければだめだなどというのは、時代背景を考えていない、刀を美術品としてしか見ていない者の言葉であろう。刀の美しさは、「実用」を経て実感する。例えば、奉納を目的として製作された異様に身幅の広い刀は、なんと非実用的な姿格好であろうか。この作は、地鉄は板目肌が小板目肌状に詰んでいるも細かな地景が入って板目が綺麗に立って見える。これに映りが加わり、関物らしい凄みが感じられる。刃文は直刃に湾れ、所々に小互の目を交えた、締まった刃文構成。小沸が明るくさえ、湯走り、ほつれ、喰い違い、小形の金線が刃に沿って流れ掛かる。


脇差 兼房 Kanefusa Wakizashi

2016-06-04 | 脇差
脇差 兼房


脇差 兼房

 使い手が替わってもなお、実戦の場で頼りとされたものであろう、一尺五寸強、三度も磨り上げられており、元来は一尺八寸ほどの片手打ちの刀であった。現状でも反りが強く、使い勝手が良さそうだ。地鉄は肌立ち調子の板目肌だが、肌目は大模様にならず、小刻みに揺れて、所々に杢目が交じって斬れ味は良さそうだ。全面に映りが立って凄みがある。刃文は互の目が尖り調子となり、左右に突き出た様子は耳形、矢筈形などで、ここにも相州伝の影響が残る。焼刃の調子は匂口が閉まっており、刃縁に小沸が付いて砂流状に沸が流れている。帽子は浅く乱れこんで先が掃き掛けて返り、乱刃ながら地蔵風にはなっていない。総体に凄みのある出来である。



平造脇差 兼房 Kanefusa Wakizashi

2016-06-03 | 脇差
平造脇差 兼房


平造脇差 兼房

 兼房乱と呼ばれる、互の目が茶の花のようにふっくらと丸みを持ち、時に互の目が複式に、大小連続する構成とした刃文を得意としたのが兼房。美濃にあって生まれた相州伝の変化形と言えよう。刃長は一尺強だから寸伸び短刀の部類だが、反りが深く、どちらかというと小脇差に捉えられよう。板目流れ調子の地鉄は地沸がついて映り立ち、変化に富んだ地鉄に面白みのある極上質の肌合い。焼き幅深く、ゆったりとした互の目が連続し、刃沸明るく足状に沸が刃先に伸び、これを切るように砂流がかかる。とにかく綺麗な刃文。刃中に流れる沸の筋が刷毛目のようで、これが鋒辺りまで流れかかっている。



短刀 兼常 Kanetsune Tanto

2016-06-02 | 短刀
短刀 兼常

 
短刀 兼常


 兼常は、大和手掻派の出。美濃に移住して代々が栄え、室町時代には関鍛冶をまとめる立場にあった名流。この門流より尾張で活躍した政常がでている。先に紹介した兼常は乱刃であったが、この短刀は直刃。いずれも得意としている。この時代には、兼元や兼定にもあるように、古作を手本としてその再現を試みた例がある。この一尺弱の寸伸び短刀も、鎌倉時代の来や粟田口を思わせる出来。小板目肌鍛えの地鉄は地中に地景が入って肌目に躍動感があり、肌立つところに斬れ味の追及がうかがえる。身幅たっぷりとして刃先鋭く、具足の腰に備えて戦場を経巡ったであろうことが想像される。使うことを追求したものながら、健全体躯で伝え遺されているところがいい。直刃は小沸に匂の複合。刃縁に小沸の流れがあり、二重刃状の連なりもうかがえる。




太刀 兼常 兼定 Kanetsune Kanesada Tachi

2016-06-01 | その他
太刀 兼常 兼定


太刀 兼常 兼定

 時代は天文頃。二寸ほどの磨上で、現状は二尺四寸強だから、元来は二尺六寸の、長めで打ち下ろすに適した寸法。面白いのは、関の兼常と兼定の合作であるところ。この兼定は之定ではなく、次代の工。兼常は之定や孫六に次いで技術と知名度の高い美濃刀工。総体にゆったりと深く反り、先反りもついていかにも戦国期の太刀。地鉄はザングリと肌立つ感のある板目鍛えで、所々柾目状に流れて地沸が付き、関映りが叢立つ。刃文は沸主調の互の目乱で、焼き頭が尖り調子となり、地に深く付き入って湯走りあるいは飛焼状に沸が叢付き、地中の景色を成す。刃中には沸が広がって葉とは異なる沸による島刃が点在する。相州の作風を受け継いだ出来である。