昨日は若手演奏家の吉田誠氏(クラリネット)と佐野隆哉氏(ピアノ)の演奏会を聴きに紀尾井ホールに行ってきた。曲目は以下の通りで盛りだくさん。
1.ドニゼッティ作曲 高橋達馬編 オペラ『愛の妙薬』による第1ヴィルトゥオーゾ組曲 全5曲
2.ゲーゼ作曲 幻想小曲集 Op.43 全4曲
3.サティ作曲 ジュ・トゥ・ヴ―
4.サン・サーンス作曲 クラリネット・ソナタ変ホ長調 Op.167 全4曲
(休憩)
5.メシアン 「世の終わりのための四重奏曲」 より第3楽章 鳥たちの深淵
6.モーツァルト ソナタ変ロ長調KV378 全3曲
7.バーンスタイン作曲 高橋達馬編 ミュージカル『ウェスト・サイド・ストーリー』による華麗なる二重奏曲 全5曲
アンコール
サン・サーンス作曲 白鳥
美輪明宏作曲 ヨイトマケの唄
1、7のようにオペラやミュージカルからの編曲あり、6のようにヴァイオリンが原曲になっている曲もあり、2、4、5のようにクラリネットのために書かれた曲ありと、バラエティに満ちた曲目であり、1から5まで下りながらまた6でさかのぼり7で下るというようにプログラム順にもこだわりが感じられた。二人とも心から楽しんで演奏しているのが伝わってきてすがすがしかった。
クラリネットの吉田氏はパリ国立高等音楽院からジュネーヴ音楽院に在学中だが、2007年東京音楽コンクール木管部門第1位を獲得し、多くのオーケストラと共演を果たしている。プログラムにはクラリネットという楽器が背負ってきた見えない足枷を打ち破っていると書かれていたのだが、本当にその通り。音域も音量の幅もここまで大きくていいのだろうかと思えるぐらい大きくてのびやか、ヴィブラートもかかりのびやかにクラリネットを歌わせていた。非常に小さな音で演奏しているところもあったのだが、二階にまでしっかり音が伝わってきた。息遣いまで感じられた。メシアンの世の終わりのための四重奏曲は無伴奏でクラリネットだけの曲だったのだが、消え入るような遥か彼方の音から始まり、どんどん近づいたかと思ったら、とことん接近色も原色のような演奏になったりと曲の描写がたくみだった。ゲーゼの幻想小曲集はシューマンの幻想小曲集とどことなく似ていてロマンチックだったが、そのロマンも甘く語っていて素敵だった。サティのジュ・トゥ・ヴ―なんかすっかりドラマの主人公だった気が。出だしのppにはぞくぞくした。役としてはどちらかといえば男性だったような気がするのだが実際はどうだったのだろう。ウェスト・サイド・ストーリーでは、クラリネットとともに抜群のリズム感で自らパーカッションも引き受けていた。ウェスト・サイド・ストーリーは編曲も素敵だったと思う。限られた時間でミュージカルの世界に旅立たせてもらえたような気がした。
ピアノの佐野氏もパリ国立高等音楽院を終了し、各コンクールで優秀なおさめ多くのオーケストラと共演を果たしている。無駄な動きがなく軽やかに弾いているような感じなのだが、色彩感豊かで切れも抜群、音楽の流れをたくみに作り上げていて見事だった。クラリネットの吉田氏をしっかり引き立てて、音楽のベースをしっかり支えていて見事だった。
アンコールの白鳥、原曲はチェロだがクラリネットの音域はかなり高かった。しかしまったく軽い感じはなく、しみじみと心にしみ入る演奏だった。最後のヨイトマケの唄こそまさに日本人の演奏家ならではのアンコール、人生を物語っているような演奏だった気がした。
技術が非常に高かったのはいうまでもないのだが、若き二人らしく盛りだくさん、のびやかに演奏会に臨んでいた。一人や二人の作曲家にしぼってその作曲家に向き合う演奏会も素敵だが、時代もジャンルも楽器の壁も超え表現力の限界に挑むべく多種多様の曲で楽しませてくれた。終わったらとても温かい気持ちになれた。また二人の演奏が聴ける機会があったら聴きたいと思った。
幅広い世界をつくりあげ、
聴き手に暖かな余韻を残してくれるコンサート、
……いいですねえ。
すてきなレビューをありがとうございました。
本当によかったです
こちらこそ、ありがとうございました