今日はラ・フォル・ジュルネ3日目、昨日1日休んで今日再び金沢へと出向きました。
今日の目的は福間洸太朗氏のピアノソロでした。ショパンのCDの切れの良さと美しさに心惹かれていたのと、よいという評判を聞いていたのでぜひ生演奏を聴きたいと思い聴くことにしました。ちなみに人気のプログラムのようで、東京では競争率も非常に高かったようです。
プログラムはビゼー作曲ライン川の歌、グリンカ作曲バラキレフ編曲ひばり、スメタナ作曲福間洸太朗編曲モルダウ、メシアン作曲「鳥の小スケッチ」よりヨーロッパコマドリ、武満徹作曲雨の樹素描、リスト作曲2つの伝説でした。席は彼の動きがよく見える左側ではなく、音がよく聴こえる右側を取りました。
ライン川の歌が始まったとたん、流れるように美しい音のきらめきが会場全体を包み込みました。ライン川の歌、ビゼーの数少ないピアノ曲なのですね、第1曲はどこかで聴いたことがあるような郷愁を感じる音楽でした。瑞々しい緑とその中をさらさらと流れるせせらぎを連想しました。最初から幸せな気分に包まれました。
グリンカ作曲バラキレフ編曲のひばり、哀愁のこめられた訴えかけるようなメロディーが、優しく奏でられました。それが次第に装飾を伴ってひらひらとはばたいていったのですが、メロディーもはばたきを感じる装飾の音の粒も美しく、永遠の世界へとつながっていくようでした。どんなに譜面が難しい曲でも難しさを聴いている側に感じさせずに、歌っているように、聴かせているところがすごいなあと思いました。
スメタナ作曲福間洸太朗編曲のモルダウ、あの有名な交響詩モルダウをピアノ一台で演奏することが可能なのだろうか、と聴く前は感じていたのですが、見事にやりのけられました。しかも、そのような気がかりは杞憂以外の何物でもないと思える、スケールの大きな演奏でぞくぞくしっぱなし。出だしの管楽器によるテーマの部分ではテーマをくっきりと歌わせるとともに弦楽器で表現されているせせらぎは細やかな分散和音で表現していました。真ん中の踊りの部分も生き生きとしていてわくわくする気分になれたし、その後合流して下流へと向かっていくところでの盛り上がり、音がたっぷりと鳴っており、大げさかもしれませんがピアノがまるでオーケストラのように思えてきました。ピアノ一台でここまでできるんだな、すごいなあとただただ感じ入りました。
メシアン作曲の「鳥の小スケッチ」よりヨーロッパコマドリ、こまどりの歌を描写して作られたこの曲、コマドリの動き豊かな鳴き声に真に迫り音で描き出したように聴こえました。不協和音と言われる響きも、自然らしさをあらわしているように感じました。図鑑のイラストでいったら、デフォルメせずに、実物らしく緻密にスケッチしたような感じでしょうか。鳥類学者としても活躍し鳴き声を採譜したメシアンだからこそできる曲だと思ったし、福間さんも、曲の特徴をよくつかまれていたと思います。
武満徹作曲の雨の樹素描、水滴のついた樹木、いや、その水滴は樹氷のようにも見えました。動的メシアンのコマドリの鳴き声に対して、樹木とそこについた水滴が静的にたたずんでいる、三好達治の「雪」を連想しそうな、低温で光だけが変化している静かな世界が描き出されていたような気がします。硬質な音のきらめきがプリズムのように光っていました。音のパレットが限りなくある福間さん、聴いているのは音だけなのに、浮かんでくるものはくっきりとした情景でした。
リスト作曲の2つの伝説、「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」小鳥のさえずりをあわらす細やかな音の動きには曖昧さが感じられず美しい粒が感じ取れたとともに、小鳥に説教する聖フランチェスコの言葉も、優しく諭すように聴こえました。この曲、今まで聴いたときには、とにかく透明で綺麗な感じなのだけど、純度が高すぎて親しみにくい印象になってしまい、情景も浮かんでこなかったのですが、今日の演奏からは時代がぐんとのぼり古い教会や中世のフレスコ画が浮かんできました。音の粒立ちが本当に美しかったです。「水の上を歩くパオラの聖フランチェスコ」波打つ水がうねりをなしてどんどん荒れ狂っていくのですが、その荒れ狂う波にもまけずに大きなマントをバンと敷いて堂々と歩んでいくフランチェスコ、その描写のスケールが底なしに大きいのでした。危険を伴うはずの水の上だけど、大丈夫、大丈夫と言いながら歩いてゆき、その歩みはどんどん力強くなっていき。。。ピアノの機能フル活用、コーダ近くになると途中で腰を浮かすなど重心もフルにかけて演奏されていました。楽曲の特徴とピアノの可能性をがっちりと掴み、その成果をプレゼントしてくれたような演奏、心も体もすっかりピアノの音楽に没入してしまい、そこから抜けられないような状態に、しばらくなっていました。
割れるような拍手の後はアンコール、1曲目はサン・サーンスの白鳥、美しきアルペジオによって音楽が支えられていました。2曲目は曲目が分かりませんでしたがバロック時代の踊りを連想する哀愁と情熱が感じられる音楽でした。バッハとスカルラッティをたして二で割ったように聴こえたのですが、実際は何という曲だったのでしょうか?
元々は予定していなかったのですが、結局CDを購入、サインもしていただきました。穏やかで飾らない、好感のもてる方でした。
会場ではまだまだ公演やイベントが続いていたのですが、余韻を少しでもしっかり残しておきたかったのと、会場からの距離が近くないので、終了次第すぐに帰りました。
それにしてもピアノという同じ楽器を演奏していても、ここまで表現できる方もいるのですね。それに対してあまりにもお粗末な私の現状。いや、あのような雲の上の方を挙げる自体が、おこがましい以外の何物でもないし、あのような境地には、到底たどりつけるものではないのですが、演奏をお聴きしたので少しは耳や体からエネルギーをいただけたかもしれません、それにも期待して、これからもピアノを続けていきたいです♪
これで私のラ・フォル・ジュルネとともにゴールデンウィークも終わりました。充実した休日が過ごせてよかったです。
追記) 福間さんご本人の本日(5月6日)のtwitterに、アンコールに演奏された曲は、ラモー作曲「鳥のさえずり」だったと書かれていました。