先日東京は上野の美術館に絵を見に行ってきた。最初の狙いはフェルメール展、フェルメールは最も好きな画家のひとりで、今までも絵を見に遠征経験あり、史上最多の八枚もの来日作品が見れるということを知り今行かずしてどうするとばかりに東京へと向かう。
フェルメール展、混雑を避けるために入館日と時間をあらかじめ決めてチケットを購入したがそれでも混雑するという噂をきいていたので、入館時間よりもかなり遅らせて入る。少し並んだものの、思ったよりも大変な思いをせずに済んだ。
入る前からムードが高まるような入り口前。展示されている絵があらかじめ紹介されていて予習ができた。
会場にはフェルメールと同時代のオランダの肖像画、神話画と宗教画、風景画、静物画、風俗画が沢山展示してあり好ましく感じた。フランス・ハルスによる、裕福な商人夫婦の肖像画の豪華で重厚な雰囲気にそくそくし、ワルラン・ヴァイヤンによるマリア・ファン・オーステルヴェイクの肖像、当時少なかったオランダの女性画家の自負が出ていて素敵だった。芸術家たちの集団の肖像画も表情が豊かで非常に魅力的だった。
神話画や宗教画は絵の印象以前に内容を理解することが先だと思いながら見た。青年、中年、老年の三人の王が贈り物を携えてイエスの誕生に敬意を払う東方三博士の礼拝、マタイに向けて私に従いなさいと言ったイエスとイエスに従ったマタイの様子を描いたマタイの召命、愛の神クビドが放った矢を持つ愛の女神ヴィーナスを描いた作品、そして個人的にもっとも残酷に感じながらも忘れられなかった作品が、洗礼者ヨハネの斬首だった。痛々しいヨハネの首、それを見ているサロメの残酷さがたまらなかった。
フェルメール以外の展示作品で個人的に最も好きだったのが、当時の風景を描いた作品だった。凍った運河の冬景色を描いたニコラス・べベルヌムの「市壁の外の凍った運河」、アラート・ファン・エーフェルディンヘンの「嵐の風景」、コルネリス・ファン・ウィーリンヘンの「港町近くの武装商船と船舶」等。美しくも荒々しい海、その海とつきあいながらたくましく生きている人々の様子が浮かんでくるようだった。オランダからの海と言えば西北、どことなく、海は富山を含む日本海、そして船は昔日本海を回っていた北前船に近いものも感じた。
目的のフェルメールの作品、どの絵にも、物語がありそうで、しかしその物語がすべて明らかになっているわけではなく含蓄やが含まれていて想像を繰り広げられそうな感じで、とても楽しく鑑賞することができた。はるか昔の作品なのに描写力や画材の使い方がうまいのか、時代を超えて目の前に人々や語りかけているような気がした。「ワイングラス」の色彩の美しさ、「手紙を書く婦人と召使」の細やかで気持ちが伝わってきそうな描写、「手紙を書く女」のほっとするような微笑みが印象に残った。展示の最後にあった、「牛乳を注ぐ女」の絶妙な色彩感、精緻な描写に基づいた、女性が心を込めてミルクを注ぐ姿の神々しさ、画集や画像で見るだけでは感じる事が出来なかった神々しさを感じた。あの神々しさ、忘れられない。
フェルメール展の余韻を残しつつも上野をぶらぶらしていたら、なんと近くでルーベンス展もやっているとのこと。こんなに近く同士の美術館でこんなに贅沢な展示がなされているなんてたまらない(そしてもう一つムンク展も近くであったと後で知る)、今見なければいつ見に行けるかわからないと思い、ルーベンス展に向かうことにした。
入るなり大きな動く映像と教会の音楽が流れてきてびっくり、フランダースの犬のネロのような気分だと思っていたら、まさにその通り。ルーベンスに心底憧れていたネロはついに、アントワープ大聖堂にたどりつき「キリストの降架」を目にすることができパトラッシュとともに力尽きてしまった。映像では「キリストの降架」「キリスト昇架」「マリア被昇天」が紹介されていて、展示作品ではなかったもののすっかりその気分に。。。
ルーベンスは過去のギリシャ時代やローマ時代の彫刻、そしてイタリアに出向いたときにはルネサンスのティツィアーノ、ミケランジェロの作品から多くを学び真摯に吸収した。そして彼は絵画だけではなく政治力にもたけているし規則正しい生活を続け立派な家庭人でもあるし、とことんできる人物だったと知る。
ルーベンスの作品で印象に残ったのは人々の表情が手に取るように感じ取られた作品、残酷ながらも動的で劇的な描写が生き生きしていた作品、対象への愛情が込められた心温まる作品だった。一番目の作品で挙げられるのは「法悦のマグダラのマリア」「マルスとレア・シルウィア」、二番目の作品としては「パエトンの墜落」「聖アンデレの殉教」、三番目の作品としては「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」、「眠る二人の子供」だろうか。娘さんを描いた「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」のかわいらしさ、ルーベンスの愛情がたっぷり伝わってきた。それぞれの絵について詳しく説明しようとしたら時間がかなりかかりそうなので、時間のある時にまた書けたらいいなと思っている。ちょっとした文章では書けないぐらい充実そのものの内容で、ルーベンスのバロック時代の芸術への貢献度の偉大さを肌で感じる事ができたひとときだった。
ルーベンス展が開催された国立西洋美術館には常設展もあると知る。常設展とは言えどもすごい絵があるかもしれないと思い入ってみたら予想通り、いや、予想以上の充実極まりない内容だった。駆け足で見たので断片的にしか味わうことができなかったのだが、常設展だけ見ても美術館を堪能した、と胸を張って言えそうな内容だった。
最後に、駅の中の某洋食店でいただいたオムライスがとっても美味しかった!