話題の映画、蜜蜂と遠雷に行ってきた。最初から最後まで目も耳も離せない見事な展開だった。
舞台はピアノコンクールの現場、4人の若者たちがまっすぐに音楽を目指す。その4人はコンテスタント同士、華麗ながらも過酷な現場を乗り越えていく。お互いにライバルでぶつかりあうのだろうかと思いきや、根底に、音楽を愛する者同士の連帯感がベースにあり、それぞれが出逢いを通して自分を見つめ一皮むけ成長する。そのベースにある、温かさに、心打たれた。
将来を嘱望されながらも母親の死をきっかけに表舞台から身を引いていた栄伝亜夜、今回のコンクールに再起をかけつつもその過程で色々な闘いを経ていくのだが、その中で出逢う様々なシーンが印象的だった。ふらふらっと心を見透かしたような感じでやってきた風間塵と月の光の下で連弾をしていくうちに奏でていく音楽を通じて自分の中にある音楽がよみがえり心も拓かれていく。本選選出者が決まった後、コンテスタント同士で砂浜に集まるシーン、本選まで進んだ栄伝亜夜、マサル・カルロス・レヴィ・アナトール、風間塵が駆け抜けていく中、楽器店のサラリーマンで妻子がいて年齢制限ぎりぎりでコンクールに挑戦した高島明石、本選に残れなかった自分のすべてを認め、「あっち側の世界はわかんない」という。本当は「あっち側」でいたかっただろうし、自分もそうなれるのではと思っていたかもしれないのに。そう言いつつも音楽をその後も続けていくことに肯定的な姿勢は貫いていた。コンテスタントの中では高島に最も近い私としては彼の気持ちがわかり、そんな中での彼の勁さに心惹かれるものがあった。豊かな才能を持ち合わせながらも気さくで心優しいマサルが亜夜に語ったスケールの大きな夢、才能ある音楽家なら持ちそうな夢だなあ、そういえばマサルの雰囲気に近い感じの人も実際にいそうだなとにんまりしたり。あきらかにマサルはあっち側の人物なのだが非常に人間が出来ていて愛にあふれた行動をとり続けていた。風間塵の自然児そのもの天然と思える態度とともに、「世界が鳴ってる」という台詞が忘れられない。
そして、いったん決勝の舞台から身を引こうとしていた亜夜が黒いドレス姿で舞台に戻り、ひとかわもふたかわも向けた演奏をして晴れやかな笑顔で登場したシーン、本当によかった。できたら、全曲、演奏を聴いてみたかった。
言葉足らずだが、音楽の力を実感するシーンが沢山あった。俳優、ピアニストの人選も、選曲も、物語のよさを引き出すものでよかったと思う。映画化は不可能かもしれないと言われていたそうだが、映画化してくれて、本当に、よかったと思う。