ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

この世の片隅に

2017-09-17 21:15:33 | 映画のレビュー
   
外は、台風ですごい嵐。その中で、映画を観る。これも、一、二年前とっても、評判になったアニメ映画。 でも、「君の名は」のような若さあふれる、現代的な作品と違って、絵柄もほのぼの系だし、内容も戦争を扱っているなど、どちらかと言えば、真摯な作品に違いない。

観終わっての感想――とっても、良かった! NHKの朝のドラマとかでお目にかかるような題材かな? と思ったのだが、戦火の中の市井の人たちがどんな風に生きたか、どんな風に思い、愛し、笑ったかがダイレクトに伝わってきて、上映時間の間、ずっと画面から目が離せなかったのだ。

ヒロインのすずは、おっとりとした、どちらかといえば「トロイ」女の子なのだが、望まれて呉にある海軍に勤める青年の家に嫁にやってくる。当時の呉が軍の基地がある町で、通りや家並みがどんな感じだったか、生き生きと伝わってくるのが、素晴らしい。すずの嫁いだ家は、海を見下ろせる段々坂の上にあり、そこではタンポポなどの花が揺れている。

すずの魅力や夫の周作の優しさが、じんわりと伝わってきて、人の心の美しさというのは、どんな状況でも失われることなないのだ、と確信した。戦争中というと、すべてが灰色の世界とばかり思ってしまうけれど。

やがて、戦争は終末へ向かい、とうとう広島に原爆が投下されてしまう。そこで暮らしていたすずの家族にも悲劇的な運命が待っていた――すずの妹は、原爆症に倒れ、もう長くはないだろうということもわかるのだが、それでもすずたちは力強く立ち上がって、生きていく。 すずと周作は、原爆で孤児になった小さな女の子を、呉の山の家に連れてかえるのだが、家には柔らかな灯りがともり、皆が夕餉を囲む。 これが、「この世の片隅」で生きる人たちの幸せであり、明日をてらしてくれる灯なのだろう。

温かな家の灯が、すずたちのこれからの日々を守ってくれますように。

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