【コンパクトシティ事例研究Ⅰ:富山市】
戦後の人口増加と成長のもと、居住地域はいたるところ
に広がった。だが、人口が減少する昨今、都市機能や居
住地域をコンパクトにまとめる行政効率の良いまちづく
り「コンパクトシティ」政策が各地で進められている。
多くの自治体で巨費を投じられているものの、その効果
には賛否両論が尽きない。コンパクトシティ政策の問題
とは何か。先駆的に取り組んできた富山市を先進事例と
して、人口減少時代の都市のあり方を考える。
● コンパクトシティとは何か
コンパクトシティとは、都市機能が高密度にまとまり、
徒歩や公共交通での移動がしやすい都市形態のこと。コ
ンセプトは1970年代の米国で、行き過ぎた郊外化へ
の反省から生まれたとされている。日本では2005年
頃から注目を集めるようになる。
都市をコンパクト化すれば、郊外に広がった商業・居住
エリアから空洞化した中心街に活気を取り戻せる上、イ
ンフラ維持管理などの行政サービスも効率化できる。そ
のためコンパクトシティ政策は、秋田県秋田市、栃木県
宇都宮市、新潟県長岡市など多くの自治体で再開発のテ
ーマに掲げられていく。
背景には、政府による強力な後押しがある。国は06年、
自治体が定める「中心市街地活性化基本計画」のうち、
認定した計画に交付金や税の特例を適用する形で、自治
体のコンパクトシティ化を支援し始めた。認定数は累計
136市200計画に上る。
今年7月、総務省が行った「地域活性化に関する行政評
価」で、「中心市街地活性化基本計画」は評価対象とし
た44計画のうち目標を達成できた計画が「ゼロ」と判
明。他の地域活性化手法と目標達成度に明らかな差異が
あることを重く見た高市早苗総務相が、関係省庁に改善
を勧告する事態となっている。
富山市ガラス美術館の入る複合施設「TOYAMAキラリ」
● なぜ注目したのか
富山市の市街地は1970~2010年までの40年間
で約 2.1倍に拡大。一方、人口は05年をピークに減
少へ転化した。現在約42万人を抱えるが、人口密度は
全国の県庁所在地で44位の1平方キロメートルあたり
337人(新宿区は1万8300人)まで低下。激しい
郊外化が進んでいる。
市の試算(04年)では、郊外化で人口密度が今の半分
にまで低下すると、住民1人当たりの道路や下水道の維
持更新費は2倍になる。人口減少などで税収が減る中、
街のすみずみまで道路や学校をこれまでと同じように維
持管理していくのは無理があります。また、人が減った
ことでスーパーや病院、公共交通などが撤退すれば、暮
らし自体も困難になる。コンパクトシティはそれらの諸
問題を解決の処方箋になると担当職員が答えている(「
コンパクトシティはなぜ失敗するのか 富山、青森から
見る居住の自由」2016.11.08, Yahoo!ニュース)。
LRT環状線富山駅/JRから屋外に出ずに乗り換えが可能
こうして富山市はコンパクトシティ化へと舵を切った。
07年には、国が認定する「中心市街地活性化基本計画」
の第1号になる。市は計画の中で、まず、LRT (次世代
型路面電車:Light Rail Transit))などの公共交通を再整備
し、駅前や中心街を再開発によって活性化しながら、散
らばった居住エリアをゆるやかに中核拠点に寄せる意図
をもつ。そうした取り組みの結果、LRT全線の1日平均
乗車人数は大幅に増えたという。中心市街地への転入人
口も毎年プラスになっている。コンパクトシティ政策の
成果は着実に上がっている。
だが、中心部の景観はきれいになり、街が活性化してい
る実感はありません。通りを一本外れれば、シャッター
街や空き家が並んでいますから。LRTは年寄りには便利
だと思うが、若い世代は今でも車移動中心に変化はない。
たしかに、昔は人の頭で前が見えないほどの人出で賑わ
っていた市中心部の商店街に、その面影はない(彦根市
と同様である(「キャッスルロート夢京橋」は観光客の
影響で賑わっているがこれは例外)。
富山市郊外部のショッピングモール
そのことを踏まえ、富山市のコンパクトシティ政策は郊
外の暮らしを否定するものではなく、あくまでも無秩序
な郊外の拡大を抑止し、活気ある中心街と公共交通網を
軸に街に人や企業が集まる流れを生むことが目標であり、
まちづくりの結果が見えるまでにはそれなりの年月が必要。
公費も含む巨額の投資コストに見合う効果も含め、コンパク
トシティの成否の判断はまだ早い、というのが富山市の見解
である。
ここで、富山市のLRT (次世代型路面電車:Light Rail Transit))
に対応するのは近江鉄道であり、近江鉄道、JR西日本との
利便性への再考と投資計画が課題となる。
この項つづく
【エピソード】
【脚注及びリンク】
-----------------------:------------------------
- 平成 28年度 主要事業 彦根市
- 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
- 橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
滋賀県 - 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
- 「地域資源・交通拠点等のネットワーク化による
国際観光振興方策に関する研究」国土技術政策総
合研究所 プロジェクト研究報告 2008.05.21 - 「歴史まちづくりのてびき(案)」ISSN 1346-73
28 2013.11.13 - 歴史まちづくりの特性の見方・読み方 国土技術
政策総合研究所 2013.04.11 - 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主導
のまち創る-近世城下町 彦根市本町地区の2例の
場合-(これからの都市づくりと都市計画制度 全
国市長会) 中島一 2005.05.09 - List of cities with defensive walls Wikipedia
- ヨーロッパ100名城 Wikipedia
- 中国の城郭都市 : 殷周から明清まで 愛宕元著
- 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
- 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
- ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 都市計画-1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
- 都市計画-2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
- 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
- 「協働的プランニング」の都市計画理論 Patsy He-
aley ,“Collaborative Planning”2010.02.13 - 第4回 リスク社会論 ベック・ギデンズ・ルーマ
ンの「リスク」論(現代都市文化論演習 2009)筑
和 正格 2010.05.25 - ビフォア・セオリ 現代思想の<争点> モダンと
ポストモダン 慶應義塾大学出版会|人文書 - 道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩波
新書 - 日本の道路史 武部健一 中公新書
- 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
- 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
- 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
- 彦根市都市計画道路網見直し指針
- 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
- 彦根市新市民体育センター整備基本計画 2016.10.31
- 彦根市立図書館|簡易検索
- 日中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
- 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
展望 2014.11.26 - 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
---------------------;-------------------------
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます