前書き・・・です。
妄想の種は、何ヶ月か前のアイドル誌の、すばる君の小さなワンカット。
白いシャツのボタンに手をかけ、少し視線を右下に落としてるカット。
∞のコーナーではありますが、確か、ページのメインは他の∞メンだったように思います。
無精ひげのうっすら残る、男くささ。淋しそうで、せつなくて。
それに。
47写真集のカット。
コーヒーカップを口に運び、物思いにふけってるかのような、カット。
この組み合わせから紡ぎだしたお話です。
続きで、本編です
パサリ・・・・・・
心地よいまどろみの中、
微かな衣擦れの音が、私の目を覚ました。
「あ、悪い。起こしてもうたか?」
見上げた私の目に映ったのは、
素肌に羽織ったシャツのボタンを留めている彼の姿だった。
「もう、そんな時間・・・?」
「ああ、今日はそうゆっくりもしてられん」
「明日、早いの?」
「ん、すまんな」
仕事と仕事とのわずかな時間だけ、
彼から会えると連絡があって、二人だけの時間がもてる。
私から会いたいと望んでも、必ずしも会えるわけではない彼。
隠すわけではないけれど、
人の多い場所に出掛けるときは、随分と気を使う。
そんな不自由さは、分かっていた。
けれど。
こんなふうにして、一人着替えて出ようとする彼を見送るのは、
何度経験しても、淋しくて、泣きたくなる。
「コーヒー、飲むくらいの時間はある?」
ベッドから起きだした私は、手近にあったガウンを羽織り、キッチンに立った。
「ああ、ありがとうな」
湯を沸かしている間に、ポットにフィルターをセットして、
彼の好きなブレンドの豆を挽く。
ガリガリッという音が、ひとりのキッチンに響く。
丁寧に淹れたコーヒーから、香りが立ち上る。
温めた、彼専用のカップに注ぎ終わった頃、
身支度を終えた彼が、キッチンにやってきた。
「ええ香りやな」
カップを受け取った彼は、それを一口、飲んだ。
「やっぱり、おまえが淹れてくれるんが、一番うまいわ」
歯の浮くようなセリフも、彼にかかれば、素直に受け取れる。
仕事に出掛ける彼に、してあげられることといえば、
こんな小さなこと、くらいだ。
・・・・・・今度は、いつ、会える?
聞きたくて、でも、聞いてはいけない言葉を、
私はコーヒーと一緒に飲み下す。
「この夏も、地方の仕事ばっかり入ってるから、
また、なかなか会われへんな」
ぽつり・・・と、彼がすまなそうに言った。
「時間が空いたら、今日みたいに連絡する。
そんなんで、ええんか?」
彼が何より仕事を大切にしてるのは知ってる。
10代の半ばから始めたその仕事を、ここまで続けてくるまでに、
彼が、どれほど苦しんで、悩んで、傷ついてもきたか。
暗く、長いだけのトンネルを、それでも、歩き続けてこれたのは、
励まし続けてくれた家族と、
ともに歩き続けた仲間と、
応援してくれる声があったからだ、と、
ことあるごとに、彼は口にする。
だから。
私は、その邪魔をしてはいけない。
たとえ、どんなに淋しくても、会いたくても、
傍にいてほしくても。
ひとたび会えば、
私だけを愛して、抱きしめて、いたわってくれる彼のことを、
私は誰より、何より、大切にしたいから。
愛してるから。
「大丈夫」
「ほんまか」
「なんで? そんなこと聞くのん?」
「せやって、仕事ばっかりで、なかなか会われへんし、長い休みやって取られへん。
やっと会えたと思ったら、こんな風に時間が短かったりして。
普通の恋人同志みたいにデートするんやって、ままならん」
「淋しくないって言ったら、嘘になる。・・・だけど」
私は、コーヒーを口に運び、湧き上がってくる思いを、無理にも飲み込んだ。
「そんなこと、気にしなくてもいいのに」
彼が分かってくれてる、それだけで十分だった。
「何か、心配?」
「いや、心配っていうか・・・」
「私が浮気するんちゃうか、とか?」
「そんなことは思ってへん、思ってへんよ」
「そしたら、何で? そんなこと、突然言い出すん?」
言い難そうに、彼は、私から目を逸らして言った。
「前は、それでフラレたから」
後編へ続く
妄想の種は、何ヶ月か前のアイドル誌の、すばる君の小さなワンカット。
白いシャツのボタンに手をかけ、少し視線を右下に落としてるカット。
∞のコーナーではありますが、確か、ページのメインは他の∞メンだったように思います。
無精ひげのうっすら残る、男くささ。淋しそうで、せつなくて。
それに。
47写真集のカット。
コーヒーカップを口に運び、物思いにふけってるかのような、カット。
この組み合わせから紡ぎだしたお話です。
続きで、本編です
パサリ・・・・・・
心地よいまどろみの中、
微かな衣擦れの音が、私の目を覚ました。
「あ、悪い。起こしてもうたか?」
見上げた私の目に映ったのは、
素肌に羽織ったシャツのボタンを留めている彼の姿だった。
「もう、そんな時間・・・?」
「ああ、今日はそうゆっくりもしてられん」
「明日、早いの?」
「ん、すまんな」
仕事と仕事とのわずかな時間だけ、
彼から会えると連絡があって、二人だけの時間がもてる。
私から会いたいと望んでも、必ずしも会えるわけではない彼。
隠すわけではないけれど、
人の多い場所に出掛けるときは、随分と気を使う。
そんな不自由さは、分かっていた。
けれど。
こんなふうにして、一人着替えて出ようとする彼を見送るのは、
何度経験しても、淋しくて、泣きたくなる。
「コーヒー、飲むくらいの時間はある?」
ベッドから起きだした私は、手近にあったガウンを羽織り、キッチンに立った。
「ああ、ありがとうな」
湯を沸かしている間に、ポットにフィルターをセットして、
彼の好きなブレンドの豆を挽く。
ガリガリッという音が、ひとりのキッチンに響く。
丁寧に淹れたコーヒーから、香りが立ち上る。
温めた、彼専用のカップに注ぎ終わった頃、
身支度を終えた彼が、キッチンにやってきた。
「ええ香りやな」
カップを受け取った彼は、それを一口、飲んだ。
「やっぱり、おまえが淹れてくれるんが、一番うまいわ」
歯の浮くようなセリフも、彼にかかれば、素直に受け取れる。
仕事に出掛ける彼に、してあげられることといえば、
こんな小さなこと、くらいだ。
・・・・・・今度は、いつ、会える?
聞きたくて、でも、聞いてはいけない言葉を、
私はコーヒーと一緒に飲み下す。
「この夏も、地方の仕事ばっかり入ってるから、
また、なかなか会われへんな」
ぽつり・・・と、彼がすまなそうに言った。
「時間が空いたら、今日みたいに連絡する。
そんなんで、ええんか?」
彼が何より仕事を大切にしてるのは知ってる。
10代の半ばから始めたその仕事を、ここまで続けてくるまでに、
彼が、どれほど苦しんで、悩んで、傷ついてもきたか。
暗く、長いだけのトンネルを、それでも、歩き続けてこれたのは、
励まし続けてくれた家族と、
ともに歩き続けた仲間と、
応援してくれる声があったからだ、と、
ことあるごとに、彼は口にする。
だから。
私は、その邪魔をしてはいけない。
たとえ、どんなに淋しくても、会いたくても、
傍にいてほしくても。
ひとたび会えば、
私だけを愛して、抱きしめて、いたわってくれる彼のことを、
私は誰より、何より、大切にしたいから。
愛してるから。
「大丈夫」
「ほんまか」
「なんで? そんなこと聞くのん?」
「せやって、仕事ばっかりで、なかなか会われへんし、長い休みやって取られへん。
やっと会えたと思ったら、こんな風に時間が短かったりして。
普通の恋人同志みたいにデートするんやって、ままならん」
「淋しくないって言ったら、嘘になる。・・・だけど」
私は、コーヒーを口に運び、湧き上がってくる思いを、無理にも飲み込んだ。
「そんなこと、気にしなくてもいいのに」
彼が分かってくれてる、それだけで十分だった。
「何か、心配?」
「いや、心配っていうか・・・」
「私が浮気するんちゃうか、とか?」
「そんなことは思ってへん、思ってへんよ」
「そしたら、何で? そんなこと、突然言い出すん?」
言い難そうに、彼は、私から目を逸らして言った。
「前は、それでフラレたから」
後編へ続く