すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

長編 2-2

2009-04-10 20:42:56 | 小説・長編
ここから始まる物語は、
あくまでもフィクションで、実在する人物とは、
一切、なんの関わりもありません。

ただの、小説でございます。

名前を変換する機能もついておりませんので、
ご了承くださいませ。

読んでいただける方は、続きから、お願いします。

前回を、ハンパなとこで切っておりますので、
今回は、
少々、長めになるかと、思われます。

携帯からですと、
その機能の設定上、ページ数が増える可能性があります。

ご承知おきください。


突然、頭の上から声が落ちてきて、
あづさは、びっくりして、目を開けた。


の、あとからです。



いつのまに、眠っていたのか。

立っていたのは、美術教師・加藤浩也。
29歳、独身。変わり者。
去年、あづざのクラスの副担任で、
朝のバスで一緒になることが多かったせいもあって、
やたら話をするようになり、
暇さえあれば、美術準備室に入り浸ることになった。


「奈波と待ち合わせしてたんやけど、
 いつのまに、寝てしまったわ。
 あったかすぎるわ、ここ。
 センセ、眠気覚ましにコーヒー入れて」

「なんや、我儘やな、相変わらず。
 しゃあないな」

言いながら、加藤はポットに湯を沸かし、
慣れた手つきで、コーヒーを入れた。

豆からこだわってブレンドした、加藤オリジナルだ。

挽きたてのコーヒーの香りが、
狭い部屋に漂う。

「飲んだら、帰れよ」

「は? あかんよ。
 奈波と待ち合わせ、言うたでしょ。
 話、あんのよ」

コーヒーをクチで冷ましながら、
あづさは言い返す。

教師に対して、というより、
まるで同級生に対する口調で。

「込み入った話なんか」

ソファの向かいに座った加藤が、問い掛ける。

「別に、込み入ってはおらん、と思うけど。
 もう、結果の出てることやし」

「始業式の日くらい、早よ帰れや。
 明日、確認テストなんと、ちゃうんか?」

「それ! なんで、新学期早々、テストなんかせんとあかんの?
 面倒くさいわァ」

「あのな、おまえ。
 教師の前で、よう、そんなこと言うなあ」

「だって、ほんまのことやもん」

「いくら、まだ二年生でも、やで。
 受験なんか、あっというまに、来るぞ」

「まだ受験するとは、限らへんやん」

「なんや、決まってへんのかいな」

「そんな先のこと、考えられへんもん。
 明日どころか、
 今日の自分だって、持て余してんのに」

「難儀なやっちゃな」

加藤が苦笑したところで、
勢いよく、ドアが開いた。

「ごめんなァ、遅くなってしもうた。
 石崎のヤツ、話、長すぎる・・・」

入ってきたのは、奈波だ。

「あ! ずるい!!
 私にもコーヒーちょうだい、センセ」



加藤は、奈波にも、コーヒーを入れてやると、

「ほしたら、
 俺は、美術室で、描きかけの絵、描いてるから。
 終わったら、呼びや。
 話するんやったら、ドア、両方ともカギ、かけとかんと、
 誰ぞ、入ってくるかもわからんからな」

自分の分のコーヒーを持って、
隣の美術室に、移っていった。


「さて、と」

奈波が、おもむろに、話を切り出す。

「で? なんで、別れたん?」

「唐突やな」

「だって、あんなに仲良かったのに」

「丸山君は、亮から、なんて聞いたんやろ」

「別れた、としか聞いてないんとちゃう?
 詳しくは知らん様子やったけど」

「そう?」

「私に隠し事出来るコじゃないねん。
 隠しようが下手やから、すぐバレんねん」

奈波の彼氏の丸山君は、他校の3年生。
交際のきっかけは、奈波の逆ナンらしいけど、
真偽の程は定かじゃない。
ただ、
亮とあづさの交際のきっかけは、
彼が、亮の幼馴染だったことだ。

「ふうん・・・。
 でもな、別に、理由はない、っていうか、
 私にも判らへん」

「判らへん・・・て。
 あんた、自分のことやで」

「せやかて、教えてもらわれへんかったんやもん。
 突然やったし、メールだけやったし、
 理由を言っても、私は納得せぇへんやろって」

「そんな勝手なこと・・・」

「うん、勝手やんな。
 あの日一日、考えて考えて、
 でも、判らんかって。
 だから、考えるん、やめた。
 シンドイだけやったから」

「そら、シンドイかもしれんけど。
 なんか、あったんとちゃうん?」

「私には、ほんまに、わからん。
 ・・・我儘・・・やったんかなあ?って思うくらい。
 亮にとって、何かが限界やったんだろうなァって」

「会いには、行ってないの?」

「行ってない。
 なんか、逢いに行くんも、見苦しいかなって」

「見苦しいことかもしれんけど、でも、
 それで、いいん?
 まだ、好きなんでしょ」

訊きにくいことも、
奈波は、言葉を選ぶことをしない。

「忘れよう、と努力はした。
 せやけど、忘れようとすること自体、
 忘れてないってことやから、
 無理は、止めた。
 美也子さんにも、言われたし。
 必要なんは、時間薬やって」

「時間薬・・・ね。
 あ、そうやわ、あと、もうひとつ薬あるんやけど、いる?」

「もうひとつ?」

「お・と・こ薬。
 実を言うとね、あづさに連絡とってくれって頼まれてるんやけど」

「誰?」

「え。ちょ、何、言って・・・。
 自分、落し物、したんとちゃうん?」

「落し物?」

「渋谷先輩、そう、言うとったよ?
 遊園地で会うたんでしょ?」

「遊園地・・・?」

あづざの記憶は、
すぐに、あの日の、遊園地に飛んだ。



ひとりきり。

幾度となく並んだアトラクション。

やたらと目があった、顔。

閉園後の駐車場、
話しかけてきた青年。


あのヒト!

え!?
渋谷せんぱい?


「今、気付いたん? 遅ッ!!」

奈波が呆れ顔で、あづさを見る。

「だって、あの日は、亮に別れようって、メールをもらった日だよ。
 それだけで、頭いっぱいだよ」

「そうかもしれんけど、渋谷先輩、知ってるでしょ?」

「知ってる・・・、話には。
 でも、私らが入る前に卒業してしまってたヒトでしょ?
 小さな集合写真くらいしか、見たこと・・・」

「おいおい。
 ちょいちょい、部活にも顔出してくれてたよ?
 渋谷先輩は、あづさのこと、知ってたのに。
 なんて、やつ」

「待って待って。
 そもそも、なんで、奈波のとこに、そんな話が来たん?」

あづさにとっては、
自然な質問だったのに、

奈波は、なんで今更そんな質問するのか、といった表情だ。

「は? ああ、OB会やってん、その日、男子バスケ部の。
 OB会の世話役、
 マネージャーの仕事ってことになってるから、
 なんかあったら、そら、
 連絡くらい来るんちゃう?」

「ふぅん、そんなもん?」

「そんなもんやって。
 で? 逢うの? 逢わへんの?」

「落し物って、なに?」

「いや、そんなん、直接聞いてよ。
 逢ったら、判るんちゃう?」

「逢うくらいなら、逢ってもいいけど」

「そしたら、決まり。
 渋谷先輩に、アドレス、教えても、ええ?」

「アドレス・・・」

一瞬、あづさが、戸惑いの色を浮かべる。

「何? なんか不都合でもあるん?
 いややったら、しゃあないけど」

「あ、ううん、別に不都合とかじゃなくて、
 変えようと、思ってたんだ、アドレス」

「なに? 前のじゃ、ダメなん?」

「前のは・・・、アドレス自体が、亮に関連してるから」

「めんどくさいコやな」

「そんなん言わんといてよ」

「ほな、ええわ。今、ここで、変えてしまお。
 で、ついでに、渋谷先輩に連絡取ろ」

「せっかちやな、なんでそんなに急ぐん」

「あづさが呑気すぎるんだって。
 そういうことは、ちゃっちゃとやりぃな。
 新しいの、決まってんでしょ?」

「まあ・・・」

「ほんなら問題あらへん。
 さ、携帯出して」

奈波の勢いに押されて、
あづさは言われるまま、携帯を取り出すと、
アドレスの変更を始めた。

その横で、奈波は自分の携帯を取り出すと、
あづさのアドレスを修正して、
なにやら、メールを打ち出した。

「送信っ、と」

「どこへメールしたん?」

「あ? 先輩に決まってるでしょ」

「早やッ」

「こういうことは早いほうがええねんで。
 むこうだって、気になってると思うし」

「そんなもんかなあ。
 毎度、奈波の手際の良さには、
 感心させられるわァ」

「褒めてる? それ」

「尊敬するよ、ほんまに」

「言い方が気に障るけど、
 ええわ、素直にきいとくわ。
 ありがと」

「話、まとまったな、きれいに」

「ほんまやな」

二人、顔を見合わせて、
大笑いになる。

その笑い声を聞きつけて、
ドアの向こうから、加藤が声をかけた。

「なんやしらん、楽しそうやな。
 話、終わったんなら、さっさと帰れよ」

「はぁーい」

二人は、声を揃えて返事をした。




2-3へ、続く。