ここから始まる物語は、
あくまでもフィクションで、実在する人物とは、
一切、なんの関わりもありません。
ただの、小説でございます。
名前を変換する機能もついておりませんので、
ご了承くださいませ。
読んでいただける方は、続きから、お願いします。
前回を、ハンパなとこで切っておりますので、
今回は、
少々、長めになるかと、思われます。
携帯からですと、
その機能の設定上、ページ数が増える可能性があります。
ご承知おきください。
突然、頭の上から声が落ちてきて、
あづさは、びっくりして、目を開けた。
の、あとからです。
いつのまに、眠っていたのか。
立っていたのは、美術教師・加藤浩也。
29歳、独身。変わり者。
去年、あづざのクラスの副担任で、
朝のバスで一緒になることが多かったせいもあって、
やたら話をするようになり、
暇さえあれば、美術準備室に入り浸ることになった。
「奈波と待ち合わせしてたんやけど、
いつのまに、寝てしまったわ。
あったかすぎるわ、ここ。
センセ、眠気覚ましにコーヒー入れて」
「なんや、我儘やな、相変わらず。
しゃあないな」
言いながら、加藤はポットに湯を沸かし、
慣れた手つきで、コーヒーを入れた。
豆からこだわってブレンドした、加藤オリジナルだ。
挽きたてのコーヒーの香りが、
狭い部屋に漂う。
「飲んだら、帰れよ」
「は? あかんよ。
奈波と待ち合わせ、言うたでしょ。
話、あんのよ」
コーヒーをクチで冷ましながら、
あづさは言い返す。
教師に対して、というより、
まるで同級生に対する口調で。
「込み入った話なんか」
ソファの向かいに座った加藤が、問い掛ける。
「別に、込み入ってはおらん、と思うけど。
もう、結果の出てることやし」
「始業式の日くらい、早よ帰れや。
明日、確認テストなんと、ちゃうんか?」
「それ! なんで、新学期早々、テストなんかせんとあかんの?
面倒くさいわァ」
「あのな、おまえ。
教師の前で、よう、そんなこと言うなあ」
「だって、ほんまのことやもん」
「いくら、まだ二年生でも、やで。
受験なんか、あっというまに、来るぞ」
「まだ受験するとは、限らへんやん」
「なんや、決まってへんのかいな」
「そんな先のこと、考えられへんもん。
明日どころか、
今日の自分だって、持て余してんのに」
「難儀なやっちゃな」
加藤が苦笑したところで、
勢いよく、ドアが開いた。
「ごめんなァ、遅くなってしもうた。
石崎のヤツ、話、長すぎる・・・」
入ってきたのは、奈波だ。
「あ! ずるい!!
私にもコーヒーちょうだい、センセ」
加藤は、奈波にも、コーヒーを入れてやると、
「ほしたら、
俺は、美術室で、描きかけの絵、描いてるから。
終わったら、呼びや。
話するんやったら、ドア、両方ともカギ、かけとかんと、
誰ぞ、入ってくるかもわからんからな」
自分の分のコーヒーを持って、
隣の美術室に、移っていった。
「さて、と」
奈波が、おもむろに、話を切り出す。
「で? なんで、別れたん?」
「唐突やな」
「だって、あんなに仲良かったのに」
「丸山君は、亮から、なんて聞いたんやろ」
「別れた、としか聞いてないんとちゃう?
詳しくは知らん様子やったけど」
「そう?」
「私に隠し事出来るコじゃないねん。
隠しようが下手やから、すぐバレんねん」
奈波の彼氏の丸山君は、他校の3年生。
交際のきっかけは、奈波の逆ナンらしいけど、
真偽の程は定かじゃない。
ただ、
亮とあづさの交際のきっかけは、
彼が、亮の幼馴染だったことだ。
「ふうん・・・。
でもな、別に、理由はない、っていうか、
私にも判らへん」
「判らへん・・・て。
あんた、自分のことやで」
「せやかて、教えてもらわれへんかったんやもん。
突然やったし、メールだけやったし、
理由を言っても、私は納得せぇへんやろって」
「そんな勝手なこと・・・」
「うん、勝手やんな。
あの日一日、考えて考えて、
でも、判らんかって。
だから、考えるん、やめた。
シンドイだけやったから」
「そら、シンドイかもしれんけど。
なんか、あったんとちゃうん?」
「私には、ほんまに、わからん。
・・・我儘・・・やったんかなあ?って思うくらい。
亮にとって、何かが限界やったんだろうなァって」
「会いには、行ってないの?」
「行ってない。
なんか、逢いに行くんも、見苦しいかなって」
「見苦しいことかもしれんけど、でも、
それで、いいん?
まだ、好きなんでしょ」
訊きにくいことも、
奈波は、言葉を選ぶことをしない。
「忘れよう、と努力はした。
せやけど、忘れようとすること自体、
忘れてないってことやから、
無理は、止めた。
美也子さんにも、言われたし。
必要なんは、時間薬やって」
「時間薬・・・ね。
あ、そうやわ、あと、もうひとつ薬あるんやけど、いる?」
「もうひとつ?」
「お・と・こ薬。
実を言うとね、あづさに連絡とってくれって頼まれてるんやけど」
「誰?」
「え。ちょ、何、言って・・・。
自分、落し物、したんとちゃうん?」
「落し物?」
「渋谷先輩、そう、言うとったよ?
遊園地で会うたんでしょ?」
「遊園地・・・?」
あづざの記憶は、
すぐに、あの日の、遊園地に飛んだ。
ひとりきり。
幾度となく並んだアトラクション。
やたらと目があった、顔。
閉園後の駐車場、
話しかけてきた青年。
あのヒト!
え!?
渋谷せんぱい?
「今、気付いたん? 遅ッ!!」
奈波が呆れ顔で、あづさを見る。
「だって、あの日は、亮に別れようって、メールをもらった日だよ。
それだけで、頭いっぱいだよ」
「そうかもしれんけど、渋谷先輩、知ってるでしょ?」
「知ってる・・・、話には。
でも、私らが入る前に卒業してしまってたヒトでしょ?
小さな集合写真くらいしか、見たこと・・・」
「おいおい。
ちょいちょい、部活にも顔出してくれてたよ?
渋谷先輩は、あづさのこと、知ってたのに。
なんて、やつ」
「待って待って。
そもそも、なんで、奈波のとこに、そんな話が来たん?」
あづさにとっては、
自然な質問だったのに、
奈波は、なんで今更そんな質問するのか、といった表情だ。
「は? ああ、OB会やってん、その日、男子バスケ部の。
OB会の世話役、
マネージャーの仕事ってことになってるから、
なんかあったら、そら、
連絡くらい来るんちゃう?」
「ふぅん、そんなもん?」
「そんなもんやって。
で? 逢うの? 逢わへんの?」
「落し物って、なに?」
「いや、そんなん、直接聞いてよ。
逢ったら、判るんちゃう?」
「逢うくらいなら、逢ってもいいけど」
「そしたら、決まり。
渋谷先輩に、アドレス、教えても、ええ?」
「アドレス・・・」
一瞬、あづさが、戸惑いの色を浮かべる。
「何? なんか不都合でもあるん?
いややったら、しゃあないけど」
「あ、ううん、別に不都合とかじゃなくて、
変えようと、思ってたんだ、アドレス」
「なに? 前のじゃ、ダメなん?」
「前のは・・・、アドレス自体が、亮に関連してるから」
「めんどくさいコやな」
「そんなん言わんといてよ」
「ほな、ええわ。今、ここで、変えてしまお。
で、ついでに、渋谷先輩に連絡取ろ」
「せっかちやな、なんでそんなに急ぐん」
「あづさが呑気すぎるんだって。
そういうことは、ちゃっちゃとやりぃな。
新しいの、決まってんでしょ?」
「まあ・・・」
「ほんなら問題あらへん。
さ、携帯出して」
奈波の勢いに押されて、
あづさは言われるまま、携帯を取り出すと、
アドレスの変更を始めた。
その横で、奈波は自分の携帯を取り出すと、
あづさのアドレスを修正して、
なにやら、メールを打ち出した。
「送信っ、と」
「どこへメールしたん?」
「あ? 先輩に決まってるでしょ」
「早やッ」
「こういうことは早いほうがええねんで。
むこうだって、気になってると思うし」
「そんなもんかなあ。
毎度、奈波の手際の良さには、
感心させられるわァ」
「褒めてる? それ」
「尊敬するよ、ほんまに」
「言い方が気に障るけど、
ええわ、素直にきいとくわ。
ありがと」
「話、まとまったな、きれいに」
「ほんまやな」
二人、顔を見合わせて、
大笑いになる。
その笑い声を聞きつけて、
ドアの向こうから、加藤が声をかけた。
「なんやしらん、楽しそうやな。
話、終わったんなら、さっさと帰れよ」
「はぁーい」
二人は、声を揃えて返事をした。
2-3へ、続く。
あくまでもフィクションで、実在する人物とは、
一切、なんの関わりもありません。
ただの、小説でございます。
名前を変換する機能もついておりませんので、
ご了承くださいませ。
読んでいただける方は、続きから、お願いします。
前回を、ハンパなとこで切っておりますので、
今回は、
少々、長めになるかと、思われます。
携帯からですと、
その機能の設定上、ページ数が増える可能性があります。
ご承知おきください。
突然、頭の上から声が落ちてきて、
あづさは、びっくりして、目を開けた。
の、あとからです。
いつのまに、眠っていたのか。
立っていたのは、美術教師・加藤浩也。
29歳、独身。変わり者。
去年、あづざのクラスの副担任で、
朝のバスで一緒になることが多かったせいもあって、
やたら話をするようになり、
暇さえあれば、美術準備室に入り浸ることになった。
「奈波と待ち合わせしてたんやけど、
いつのまに、寝てしまったわ。
あったかすぎるわ、ここ。
センセ、眠気覚ましにコーヒー入れて」
「なんや、我儘やな、相変わらず。
しゃあないな」
言いながら、加藤はポットに湯を沸かし、
慣れた手つきで、コーヒーを入れた。
豆からこだわってブレンドした、加藤オリジナルだ。
挽きたてのコーヒーの香りが、
狭い部屋に漂う。
「飲んだら、帰れよ」
「は? あかんよ。
奈波と待ち合わせ、言うたでしょ。
話、あんのよ」
コーヒーをクチで冷ましながら、
あづさは言い返す。
教師に対して、というより、
まるで同級生に対する口調で。
「込み入った話なんか」
ソファの向かいに座った加藤が、問い掛ける。
「別に、込み入ってはおらん、と思うけど。
もう、結果の出てることやし」
「始業式の日くらい、早よ帰れや。
明日、確認テストなんと、ちゃうんか?」
「それ! なんで、新学期早々、テストなんかせんとあかんの?
面倒くさいわァ」
「あのな、おまえ。
教師の前で、よう、そんなこと言うなあ」
「だって、ほんまのことやもん」
「いくら、まだ二年生でも、やで。
受験なんか、あっというまに、来るぞ」
「まだ受験するとは、限らへんやん」
「なんや、決まってへんのかいな」
「そんな先のこと、考えられへんもん。
明日どころか、
今日の自分だって、持て余してんのに」
「難儀なやっちゃな」
加藤が苦笑したところで、
勢いよく、ドアが開いた。
「ごめんなァ、遅くなってしもうた。
石崎のヤツ、話、長すぎる・・・」
入ってきたのは、奈波だ。
「あ! ずるい!!
私にもコーヒーちょうだい、センセ」
加藤は、奈波にも、コーヒーを入れてやると、
「ほしたら、
俺は、美術室で、描きかけの絵、描いてるから。
終わったら、呼びや。
話するんやったら、ドア、両方ともカギ、かけとかんと、
誰ぞ、入ってくるかもわからんからな」
自分の分のコーヒーを持って、
隣の美術室に、移っていった。
「さて、と」
奈波が、おもむろに、話を切り出す。
「で? なんで、別れたん?」
「唐突やな」
「だって、あんなに仲良かったのに」
「丸山君は、亮から、なんて聞いたんやろ」
「別れた、としか聞いてないんとちゃう?
詳しくは知らん様子やったけど」
「そう?」
「私に隠し事出来るコじゃないねん。
隠しようが下手やから、すぐバレんねん」
奈波の彼氏の丸山君は、他校の3年生。
交際のきっかけは、奈波の逆ナンらしいけど、
真偽の程は定かじゃない。
ただ、
亮とあづさの交際のきっかけは、
彼が、亮の幼馴染だったことだ。
「ふうん・・・。
でもな、別に、理由はない、っていうか、
私にも判らへん」
「判らへん・・・て。
あんた、自分のことやで」
「せやかて、教えてもらわれへんかったんやもん。
突然やったし、メールだけやったし、
理由を言っても、私は納得せぇへんやろって」
「そんな勝手なこと・・・」
「うん、勝手やんな。
あの日一日、考えて考えて、
でも、判らんかって。
だから、考えるん、やめた。
シンドイだけやったから」
「そら、シンドイかもしれんけど。
なんか、あったんとちゃうん?」
「私には、ほんまに、わからん。
・・・我儘・・・やったんかなあ?って思うくらい。
亮にとって、何かが限界やったんだろうなァって」
「会いには、行ってないの?」
「行ってない。
なんか、逢いに行くんも、見苦しいかなって」
「見苦しいことかもしれんけど、でも、
それで、いいん?
まだ、好きなんでしょ」
訊きにくいことも、
奈波は、言葉を選ぶことをしない。
「忘れよう、と努力はした。
せやけど、忘れようとすること自体、
忘れてないってことやから、
無理は、止めた。
美也子さんにも、言われたし。
必要なんは、時間薬やって」
「時間薬・・・ね。
あ、そうやわ、あと、もうひとつ薬あるんやけど、いる?」
「もうひとつ?」
「お・と・こ薬。
実を言うとね、あづさに連絡とってくれって頼まれてるんやけど」
「誰?」
「え。ちょ、何、言って・・・。
自分、落し物、したんとちゃうん?」
「落し物?」
「渋谷先輩、そう、言うとったよ?
遊園地で会うたんでしょ?」
「遊園地・・・?」
あづざの記憶は、
すぐに、あの日の、遊園地に飛んだ。
ひとりきり。
幾度となく並んだアトラクション。
やたらと目があった、顔。
閉園後の駐車場、
話しかけてきた青年。
あのヒト!
え!?
渋谷せんぱい?
「今、気付いたん? 遅ッ!!」
奈波が呆れ顔で、あづさを見る。
「だって、あの日は、亮に別れようって、メールをもらった日だよ。
それだけで、頭いっぱいだよ」
「そうかもしれんけど、渋谷先輩、知ってるでしょ?」
「知ってる・・・、話には。
でも、私らが入る前に卒業してしまってたヒトでしょ?
小さな集合写真くらいしか、見たこと・・・」
「おいおい。
ちょいちょい、部活にも顔出してくれてたよ?
渋谷先輩は、あづさのこと、知ってたのに。
なんて、やつ」
「待って待って。
そもそも、なんで、奈波のとこに、そんな話が来たん?」
あづさにとっては、
自然な質問だったのに、
奈波は、なんで今更そんな質問するのか、といった表情だ。
「は? ああ、OB会やってん、その日、男子バスケ部の。
OB会の世話役、
マネージャーの仕事ってことになってるから、
なんかあったら、そら、
連絡くらい来るんちゃう?」
「ふぅん、そんなもん?」
「そんなもんやって。
で? 逢うの? 逢わへんの?」
「落し物って、なに?」
「いや、そんなん、直接聞いてよ。
逢ったら、判るんちゃう?」
「逢うくらいなら、逢ってもいいけど」
「そしたら、決まり。
渋谷先輩に、アドレス、教えても、ええ?」
「アドレス・・・」
一瞬、あづさが、戸惑いの色を浮かべる。
「何? なんか不都合でもあるん?
いややったら、しゃあないけど」
「あ、ううん、別に不都合とかじゃなくて、
変えようと、思ってたんだ、アドレス」
「なに? 前のじゃ、ダメなん?」
「前のは・・・、アドレス自体が、亮に関連してるから」
「めんどくさいコやな」
「そんなん言わんといてよ」
「ほな、ええわ。今、ここで、変えてしまお。
で、ついでに、渋谷先輩に連絡取ろ」
「せっかちやな、なんでそんなに急ぐん」
「あづさが呑気すぎるんだって。
そういうことは、ちゃっちゃとやりぃな。
新しいの、決まってんでしょ?」
「まあ・・・」
「ほんなら問題あらへん。
さ、携帯出して」
奈波の勢いに押されて、
あづさは言われるまま、携帯を取り出すと、
アドレスの変更を始めた。
その横で、奈波は自分の携帯を取り出すと、
あづさのアドレスを修正して、
なにやら、メールを打ち出した。
「送信っ、と」
「どこへメールしたん?」
「あ? 先輩に決まってるでしょ」
「早やッ」
「こういうことは早いほうがええねんで。
むこうだって、気になってると思うし」
「そんなもんかなあ。
毎度、奈波の手際の良さには、
感心させられるわァ」
「褒めてる? それ」
「尊敬するよ、ほんまに」
「言い方が気に障るけど、
ええわ、素直にきいとくわ。
ありがと」
「話、まとまったな、きれいに」
「ほんまやな」
二人、顔を見合わせて、
大笑いになる。
その笑い声を聞きつけて、
ドアの向こうから、加藤が声をかけた。
「なんやしらん、楽しそうやな。
話、終わったんなら、さっさと帰れよ」
「はぁーい」
二人は、声を揃えて返事をした。
2-3へ、続く。