同い年の友人チヒロが、最近結婚した。
熟年の結婚は、若い時と違って地味で自由がきくぶん、急である。
久しぶりに聞く、景気のいい話ってもんだ。
もう一人の友人ハルミと一緒に、心ばかりの結婚祝いを届けた。
7才年下で初婚の彼は、家を建てて彼女を迎えた。
チヒロの成人した子供たちも一緒に迎えるのだから
アパートでは狭かろう…という理由からである。
独身が長かったので、お金持ちの彼ではあるが
狭かろう…と言ったって、普通、家まではなかなか…。
チヒロがいかに愛されているか、それだけでもわかるというものだ。
30代で夫を亡くし、2人の子供を育てながら
仕事に、そしてさまざまな恋にいそしんできた。
今回、優しい…しかも安定した高収入つきの
彼の熱意が実り、ついに結婚を承諾したのだ。
チヒロは、飛び抜けた美人!というのではない。
愛される女になるために、格別の努力をしているわけでもない。
ぽっちゃりしたかわいらしいタイプなので、多少若く見えるが
それだけではこういうことにはならない。
だったら…と私はチヒロの新居に向かう道すがら、ハルミに宣言する。
「今回はもう間に合わんけど
次に女で生まれた時のために、今日は勉強するっ!」
「私もっ!」
チヒロの好みで設計したという新居は
新婦の老後に備えた、ステキなバリアフリー。
こんな気配りにも、うっとりしてしまう。
長身でスポーツマンタイプのご主人も交え
「今度、みんなで何か食べに行こう」
などと談笑する。
「行く行くっ!」
「なんでも食べるよっ!」
と即答する私たち。
しかし、チヒロはちが~う。
「和食?洋食?」
ご主人は、赤ちゃんに問いかけるように言いながら
真新しい結婚指輪を光らせ
“考える人”みたいなポーズで、隣に座るチヒロをじっと見る。
「ン~…」
チヒロはロングヘアを揺らし、小首をかしげて考える。
体をくねらせると、大きくあいた胸から谷間がチラリ…。
媚びているのではなく、自然にそういう仕草になるのだ。
こりゃ、たまらんわ…男だったら!
カックンカックンうなづきながら
「肉!肉!」と叫ぶ我が身のあさましさ…。
ご主人の前でメモ帳を出すわけにもいかず
そろそろ怪しくなってきた頭にインプット。
“即答しない”
“まず、ン~…って言う”
よっしゃ!これで来世はバッチリじゃ!
ハルミと私は目配せし合う。
チヒロは声が小さく、ポツポツと話す。
小さな声って、聞くために一生懸命になるものだ。
そして、口数の少ない者の話すことは、聞き入るものだ。
ご主人なんてもう、雨に濡れた子犬を見るような目で
チヒロを見つめる。
ふだん我々が認識しているチヒロの「おっとり」が
本当はすごい武器なのだと発見。
ささ、メモメモ。
“小さい声で話す”
“おっとり”
すでに我々の前途には、暗雲が立ちこめていた。
“おとなしい”
“口数が少ない”
これはもう、我々の辞書には存在しない言葉だ。
男(夫…ね)に飽きられ、そこにいるかとも言われなくなった女は
自身の存在を知らしめたい本能が表面化する。
腹から発声して、機関銃のようにまくし立てるのが習慣になっているのだ。
そりゃあね…薄々気付いてはいましたよ。
なんか、遺伝子からして違うんじゃないかな…と。
「いや!まだ物理的方法があるっ!」
帰りの車中で私は叫ぶ。
「胸の開いた、女らしい服を着るんじゃ!」
そうじゃ!外見で勝負じゃ!…
口々に言ってはみたものの、それはすぐにむなしい響きとなる。
「胸の開いた服って…あんた…尻はあるけど胸無いじゃん…」
「くっそ~!配分を間違えたか!」
「私もどっか行っちゃったんだよぉ!」
「探せよ!」
「ねぇよ!」
あらぬモノを探す二人。
「おお!そうじゃ!髪じゃ!髪さえ長ければ、ボロが隠れる!」
「全身隠れるまで伸ばさにゃ!」
「…化け物じゃん!」
「う~ん…今から伸ばしたって、白髪しか生えてこんだろうしなぁ」
「今回はもういいよ~。半分以上終わってんだから!」
“あるべきモノが、有るべきところに末永く滞在する”
もう、頭のメモに書き加える気は起きなかった。
熟年の結婚は、若い時と違って地味で自由がきくぶん、急である。
久しぶりに聞く、景気のいい話ってもんだ。
もう一人の友人ハルミと一緒に、心ばかりの結婚祝いを届けた。
7才年下で初婚の彼は、家を建てて彼女を迎えた。
チヒロの成人した子供たちも一緒に迎えるのだから
アパートでは狭かろう…という理由からである。
独身が長かったので、お金持ちの彼ではあるが
狭かろう…と言ったって、普通、家まではなかなか…。
チヒロがいかに愛されているか、それだけでもわかるというものだ。
30代で夫を亡くし、2人の子供を育てながら
仕事に、そしてさまざまな恋にいそしんできた。
今回、優しい…しかも安定した高収入つきの
彼の熱意が実り、ついに結婚を承諾したのだ。
チヒロは、飛び抜けた美人!というのではない。
愛される女になるために、格別の努力をしているわけでもない。
ぽっちゃりしたかわいらしいタイプなので、多少若く見えるが
それだけではこういうことにはならない。
だったら…と私はチヒロの新居に向かう道すがら、ハルミに宣言する。
「今回はもう間に合わんけど
次に女で生まれた時のために、今日は勉強するっ!」
「私もっ!」
チヒロの好みで設計したという新居は
新婦の老後に備えた、ステキなバリアフリー。
こんな気配りにも、うっとりしてしまう。
長身でスポーツマンタイプのご主人も交え
「今度、みんなで何か食べに行こう」
などと談笑する。
「行く行くっ!」
「なんでも食べるよっ!」
と即答する私たち。
しかし、チヒロはちが~う。
「和食?洋食?」
ご主人は、赤ちゃんに問いかけるように言いながら
真新しい結婚指輪を光らせ
“考える人”みたいなポーズで、隣に座るチヒロをじっと見る。
「ン~…」
チヒロはロングヘアを揺らし、小首をかしげて考える。
体をくねらせると、大きくあいた胸から谷間がチラリ…。
媚びているのではなく、自然にそういう仕草になるのだ。
こりゃ、たまらんわ…男だったら!
カックンカックンうなづきながら
「肉!肉!」と叫ぶ我が身のあさましさ…。
ご主人の前でメモ帳を出すわけにもいかず
そろそろ怪しくなってきた頭にインプット。
“即答しない”
“まず、ン~…って言う”
よっしゃ!これで来世はバッチリじゃ!
ハルミと私は目配せし合う。
チヒロは声が小さく、ポツポツと話す。
小さな声って、聞くために一生懸命になるものだ。
そして、口数の少ない者の話すことは、聞き入るものだ。
ご主人なんてもう、雨に濡れた子犬を見るような目で
チヒロを見つめる。
ふだん我々が認識しているチヒロの「おっとり」が
本当はすごい武器なのだと発見。
ささ、メモメモ。
“小さい声で話す”
“おっとり”
すでに我々の前途には、暗雲が立ちこめていた。
“おとなしい”
“口数が少ない”
これはもう、我々の辞書には存在しない言葉だ。
男(夫…ね)に飽きられ、そこにいるかとも言われなくなった女は
自身の存在を知らしめたい本能が表面化する。
腹から発声して、機関銃のようにまくし立てるのが習慣になっているのだ。
そりゃあね…薄々気付いてはいましたよ。
なんか、遺伝子からして違うんじゃないかな…と。
「いや!まだ物理的方法があるっ!」
帰りの車中で私は叫ぶ。
「胸の開いた、女らしい服を着るんじゃ!」
そうじゃ!外見で勝負じゃ!…
口々に言ってはみたものの、それはすぐにむなしい響きとなる。
「胸の開いた服って…あんた…尻はあるけど胸無いじゃん…」
「くっそ~!配分を間違えたか!」
「私もどっか行っちゃったんだよぉ!」
「探せよ!」
「ねぇよ!」
あらぬモノを探す二人。
「おお!そうじゃ!髪じゃ!髪さえ長ければ、ボロが隠れる!」
「全身隠れるまで伸ばさにゃ!」
「…化け物じゃん!」
「う~ん…今から伸ばしたって、白髪しか生えてこんだろうしなぁ」
「今回はもういいよ~。半分以上終わってんだから!」
“あるべきモノが、有るべきところに末永く滞在する”
もう、頭のメモに書き加える気は起きなかった。