殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

モテ道

2009年07月09日 14時21分43秒 | みりこんぐらし
同い年の友人チヒロが、最近結婚した。

熟年の結婚は、若い時と違って地味で自由がきくぶん、急である。

久しぶりに聞く、景気のいい話ってもんだ。

もう一人の友人ハルミと一緒に、心ばかりの結婚祝いを届けた。


7才年下で初婚の彼は、家を建てて彼女を迎えた。

チヒロの成人した子供たちも一緒に迎えるのだから

アパートでは狭かろう…という理由からである。


独身が長かったので、お金持ちの彼ではあるが

狭かろう…と言ったって、普通、家まではなかなか…。

チヒロがいかに愛されているか、それだけでもわかるというものだ。


30代で夫を亡くし、2人の子供を育てながら

仕事に、そしてさまざまな恋にいそしんできた。

今回、優しい…しかも安定した高収入つきの

彼の熱意が実り、ついに結婚を承諾したのだ。


チヒロは、飛び抜けた美人!というのではない。

愛される女になるために、格別の努力をしているわけでもない。

ぽっちゃりしたかわいらしいタイプなので、多少若く見えるが

それだけではこういうことにはならない。


だったら…と私はチヒロの新居に向かう道すがら、ハルミに宣言する。

「今回はもう間に合わんけど

 次に女で生まれた時のために、今日は勉強するっ!」

「私もっ!」


チヒロの好みで設計したという新居は

新婦の老後に備えた、ステキなバリアフリー。

こんな気配りにも、うっとりしてしまう。


長身でスポーツマンタイプのご主人も交え

「今度、みんなで何か食べに行こう」

などと談笑する。


「行く行くっ!」

「なんでも食べるよっ!」

と即答する私たち。

しかし、チヒロはちが~う。


「和食?洋食?」

ご主人は、赤ちゃんに問いかけるように言いながら

真新しい結婚指輪を光らせ

“考える人”みたいなポーズで、隣に座るチヒロをじっと見る。


「ン~…」

チヒロはロングヘアを揺らし、小首をかしげて考える。

体をくねらせると、大きくあいた胸から谷間がチラリ…。

媚びているのではなく、自然にそういう仕草になるのだ。


こりゃ、たまらんわ…男だったら!


カックンカックンうなづきながら

「肉!肉!」と叫ぶ我が身のあさましさ…。


ご主人の前でメモ帳を出すわけにもいかず

そろそろ怪しくなってきた頭にインプット。

“即答しない”

“まず、ン~…って言う”

よっしゃ!これで来世はバッチリじゃ!

ハルミと私は目配せし合う。


チヒロは声が小さく、ポツポツと話す。

小さな声って、聞くために一生懸命になるものだ。

そして、口数の少ない者の話すことは、聞き入るものだ。

ご主人なんてもう、雨に濡れた子犬を見るような目で

チヒロを見つめる。


ふだん我々が認識しているチヒロの「おっとり」が

本当はすごい武器なのだと発見。


ささ、メモメモ。

“小さい声で話す”

“おっとり”


すでに我々の前途には、暗雲が立ちこめていた。

“おとなしい”

“口数が少ない”

これはもう、我々の辞書には存在しない言葉だ。

男(夫…ね)に飽きられ、そこにいるかとも言われなくなった女は

自身の存在を知らしめたい本能が表面化する。

腹から発声して、機関銃のようにまくし立てるのが習慣になっているのだ。


そりゃあね…薄々気付いてはいましたよ。

なんか、遺伝子からして違うんじゃないかな…と。


「いや!まだ物理的方法があるっ!」

帰りの車中で私は叫ぶ。

「胸の開いた、女らしい服を着るんじゃ!」


そうじゃ!外見で勝負じゃ!…

口々に言ってはみたものの、それはすぐにむなしい響きとなる。


「胸の開いた服って…あんた…尻はあるけど胸無いじゃん…」

「くっそ~!配分を間違えたか!」

「私もどっか行っちゃったんだよぉ!」

「探せよ!」

「ねぇよ!」

あらぬモノを探す二人。


「おお!そうじゃ!髪じゃ!髪さえ長ければ、ボロが隠れる!」

「全身隠れるまで伸ばさにゃ!」

「…化け物じゃん!」

「う~ん…今から伸ばしたって、白髪しか生えてこんだろうしなぁ」

「今回はもういいよ~。半分以上終わってんだから!」


“あるべきモノが、有るべきところに末永く滞在する”

もう、頭のメモに書き加える気は起きなかった。
コメント (16)
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