長男がお腹にいた時から、夫と相談して名前は決めてあった。
「岬(みさき)」
いつも呼びかけて、抱っこできる日を楽しみにしていた。
しかし、生まれて病院にいる間に
義母が知り合いの紹介で、あるお寺の僧侶に名付けを頼んでしまった。
ガ~ン!
ほどなく、いくつかの名前を書いた紙が届き
その中から好きなのを選べと言う。
好きもなにも…
「頼益(よります)」「経稀(けいき)」「常時(つねとき)」
我が理想から百万光年ほどかけ離れた微妙な名前が並び、絶望。
おすすめは「房太郎(ふさたろう)」らしい。
房太郎だけ、大きな字で書いてある。
ミサキ…一夜にしてフサタロウ…。
あんまりじゃ…。
ハッ!隅に小さく「マコト(仮名)」とある。
選ぶも何もない…平凡そうなのはこれのみ。
うっうっう…さようなら…ミサキ…こんにちは…マコト。
今の私ならフサタロウも有りだけど
若かったもんで、イメージ先行だったわけよ。
見も知らん坊サマに付けてもらうよりは、自分たちで付けたかったしさ。
悲しかったぜっ!
でも名前は生涯つきあうもの…
もめて嫌な思い出になるのは避けたかったのよぉぉ~!
それでもまぁ呼んでりゃ慣れてくるもんで、悲しみも薄れたある日…
名付け親の僧侶から、決まった名前を書いた額が届く。
アフターサービスみたいなものであろう。
父 ヒロシ
母 ヨシコ
長男 マコト
ヨシコ…?なんでヨシコ?
「あ~ら!間違えちゃった~!」
義母が叫ぶ。
この僧侶は、両親の名前を考慮して子供の名前を決めるという。
仲介してくれた知り合いに頼む時
お父さんの名前は?と聞かれて「ヒロシ」
お母さんの名前は?と聞かれて、義母はつい自分の名前を言った。
確信犯ではない。
この人、本当にうっかりそういうことをやってのける。
フサタロウだろうと、マコトだろうと
夫とその母親の間に生まれた、それこそ禁断の子供用の名前である。
事故だ…事故。
ひたすら自分に言い聞かせる。
さて6年後、ひょっこり二人目が出来る。
胎児が男とわかってから、私は密かに決意していた。
「この子は卓郎(タクロウ)じゃ!」
前回は失敗したが、今度こそ!
夫の初浮気も発覚して、つらかった妊娠期間…
これくらい許されてもよいはずじゃ!
お腹のタクロウちゃんは、月満ちて元気に生まれた。
生まれて数日後、初めて見舞いに来た夫に言う。
「名前は決めてるからね」
愛人のために、女房のお腹の子はよその子だ…などと世間に吹聴した男に
名前なんぞ付けさせないもんね~!
あ~、それ…夫はのんびりと言う。
「もう決まってるよ」
「ええっ?」
「ヨシキ(仮名)。お袋が自分のヨシの字をつけて、ヨシキになった」
「タクロウよ!この子はタクロウ!」
「オレは構わないけど、もう届けは出したみたいだぜ」
くっそ~!またもや失敗に終わった~!
なにしろこっちは入院中…身動き出来る者が有利なのだ。
夫と完全に和解しないまま出産に至ったため、連絡ミスが敗因であった。
もう何を言っても遅い。
名付けの段階で汚点を残すより
おばあちゃんにかわいがられるほうが、この子にとって幸せだ。
わ~ん!さようなら…タクロウ…こんにちは…ヨシキ。
呼んでいると、また慣れてきた。
ヨシキもかわいいじゃないか…。
半ばヤケにも似たあきらめを道連れに生きるようになったのは
この時からだと記憶している。
余談ではあるが、夫は子供たちの名前を正しく書けない。
棒が抜けたり多かったりする。
たまたまこの二つの名前に、夫が勘違いしたまま覚えた漢字が含まれていた。
練習させたこともあるが、直らない。
指摘されると、意固地な反抗心が芽生えるようだ。
子供たちも成長し、何かの機会に夫が名前を書くことも無くなったので
これはこれで安全、と放置することにした。
成人した子供の名前を悪用する懸念が無いからである。
この男ならやる。
愛情の有無を問うよりも、心配がひとつ減ったことを喜ぼうではないか。
図らずもこれらの名前になったのは、そのためだったのかもしれない…
子供たちも無事大きくなったしね。
これぞプラス思考!と、満足する私である。
「岬(みさき)」
いつも呼びかけて、抱っこできる日を楽しみにしていた。
しかし、生まれて病院にいる間に
義母が知り合いの紹介で、あるお寺の僧侶に名付けを頼んでしまった。
ガ~ン!
ほどなく、いくつかの名前を書いた紙が届き
その中から好きなのを選べと言う。
好きもなにも…
「頼益(よります)」「経稀(けいき)」「常時(つねとき)」
我が理想から百万光年ほどかけ離れた微妙な名前が並び、絶望。
おすすめは「房太郎(ふさたろう)」らしい。
房太郎だけ、大きな字で書いてある。
ミサキ…一夜にしてフサタロウ…。
あんまりじゃ…。
ハッ!隅に小さく「マコト(仮名)」とある。
選ぶも何もない…平凡そうなのはこれのみ。
うっうっう…さようなら…ミサキ…こんにちは…マコト。
今の私ならフサタロウも有りだけど
若かったもんで、イメージ先行だったわけよ。
見も知らん坊サマに付けてもらうよりは、自分たちで付けたかったしさ。
悲しかったぜっ!
でも名前は生涯つきあうもの…
もめて嫌な思い出になるのは避けたかったのよぉぉ~!
それでもまぁ呼んでりゃ慣れてくるもんで、悲しみも薄れたある日…
名付け親の僧侶から、決まった名前を書いた額が届く。
アフターサービスみたいなものであろう。
父 ヒロシ
母 ヨシコ
長男 マコト
ヨシコ…?なんでヨシコ?
「あ~ら!間違えちゃった~!」
義母が叫ぶ。
この僧侶は、両親の名前を考慮して子供の名前を決めるという。
仲介してくれた知り合いに頼む時
お父さんの名前は?と聞かれて「ヒロシ」
お母さんの名前は?と聞かれて、義母はつい自分の名前を言った。
確信犯ではない。
この人、本当にうっかりそういうことをやってのける。
フサタロウだろうと、マコトだろうと
夫とその母親の間に生まれた、それこそ禁断の子供用の名前である。
事故だ…事故。
ひたすら自分に言い聞かせる。
さて6年後、ひょっこり二人目が出来る。
胎児が男とわかってから、私は密かに決意していた。
「この子は卓郎(タクロウ)じゃ!」
前回は失敗したが、今度こそ!
夫の初浮気も発覚して、つらかった妊娠期間…
これくらい許されてもよいはずじゃ!
お腹のタクロウちゃんは、月満ちて元気に生まれた。
生まれて数日後、初めて見舞いに来た夫に言う。
「名前は決めてるからね」
愛人のために、女房のお腹の子はよその子だ…などと世間に吹聴した男に
名前なんぞ付けさせないもんね~!
あ~、それ…夫はのんびりと言う。
「もう決まってるよ」
「ええっ?」
「ヨシキ(仮名)。お袋が自分のヨシの字をつけて、ヨシキになった」
「タクロウよ!この子はタクロウ!」
「オレは構わないけど、もう届けは出したみたいだぜ」
くっそ~!またもや失敗に終わった~!
なにしろこっちは入院中…身動き出来る者が有利なのだ。
夫と完全に和解しないまま出産に至ったため、連絡ミスが敗因であった。
もう何を言っても遅い。
名付けの段階で汚点を残すより
おばあちゃんにかわいがられるほうが、この子にとって幸せだ。
わ~ん!さようなら…タクロウ…こんにちは…ヨシキ。
呼んでいると、また慣れてきた。
ヨシキもかわいいじゃないか…。
半ばヤケにも似たあきらめを道連れに生きるようになったのは
この時からだと記憶している。
余談ではあるが、夫は子供たちの名前を正しく書けない。
棒が抜けたり多かったりする。
たまたまこの二つの名前に、夫が勘違いしたまま覚えた漢字が含まれていた。
練習させたこともあるが、直らない。
指摘されると、意固地な反抗心が芽生えるようだ。
子供たちも成長し、何かの機会に夫が名前を書くことも無くなったので
これはこれで安全、と放置することにした。
成人した子供の名前を悪用する懸念が無いからである。
この男ならやる。
愛情の有無を問うよりも、心配がひとつ減ったことを喜ぼうではないか。
図らずもこれらの名前になったのは、そのためだったのかもしれない…
子供たちも無事大きくなったしね。
これぞプラス思考!と、満足する私である。