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Kには、夜7時に千賀子の店へ行けと伝えてある。
ホイホイと嬉しそうであった。
「またキンキラキンのついた制服着て来るんじゃないのか」
参加者からは、この声しきり。
Kが初めて同窓会に来た正月、わざわざ制服で現われた。
あの衝撃は、誰しも忘れられない。
が、セーター姿だったので、ちょっと残念。
シンプルに輝く頭、オイリーなお肌
レイバン型の遠近両用メガネが、ナウでヤングなフィーリング。
帰省、帰省と言いながら、手ぶらで来るのも彼らしい。
「みりこん、なんか体がゴツくなったな…昔は細かったのにな」
などと近付いて来て、背中を触る。
ゾ~!
嫌われる人間というのは、おしなべてこんなこと言う。
話題が貧困なので、太った痩せたを会話のとっかかりにする。
キャー!セクハラよ!なんて言わない。
ますます喜ばせるだけだ。
「あんたも、さらに薄くなったな!昔は髪もあったのにな!」
普段、本人の努力ではどうしようもないことは
面と向かって言わない主義だが、今日は言って、一座の失笑を買う。
千賀子は手足の包帯姿もなんのその、張り切ってKにガンガン飲ませる。
総勢8人の宴会は、Kだけが盛り上がっていた。
気の進まぬ集まりではあっても
男子が唯一聞きたいのは、国防の情勢である。
例のごとく、大げさに話を振っておいては「国家機密だから…」
などと得意げにもったいぶるはずが、今回は触れたがらない。
配置転換で移動になったとだけ言うので、皆もそれ以上聞かなかった。
左遷…どうやらそれは、K王国の国家機密であるらしい。
九州に住む年上妻が編んだというセーターを自慢しいしい
いかにできた立派な妻かを延々と語る。
おまえらも見習え…とまで言う。
「単身赴任先から、同級生の女子に電話しまくっている」と
その立派な妻に教えてやったら、どんなに気持ちがいいだろう。
家族を悲しませたくないから、我慢してやっているのだ。
今年、母親を老人施設に入れたのも、彼にはこたえている。
母親は、ずっと四国で一人暮らしをしていたが
ボケ始めたので、そのまま四国の施設に入れたそうだ。
「何もわからずに、また家へ帰るつもりでいるんだ…。
オフクロを残して一人で帰る時、悲しくて、悲しくて…」
母親をあわれみ、涙ぐむK。
「奧さん、九州でしょ?なんで四国の施設?
そんなに立派な奧さんなら、普通、近くの施設へ呼び寄せようとか
言うんじゃない?」
モンちゃんが無邪気にたずねる。
仕事をしながら、姑の施設に通うモンちゃんにとっては、素朴な疑問であろう。
モンちゃん、グッジョブ!
「それとこれとは、別なんじゃ!」
Kはムキになって叫ぶ。
痛い所であるらしかった。
左遷と母親…今回の帰省に絡む執拗さは、そのあたりから来ているようだ。
その夜は、フィギュアスケートの女子ショートプログラムが放送されていた。
皆、Kそっちのけでテレビに夢中になる。
放送が終わると同時に、おひらき。
私はウタゲの幹事として、挨拶をする。
「え~、これで被害者の会を終わります。
子供の頃にさんざんいじめ抜いておいて
今さら懐かしがられても、こっちはいい迷惑でございます。
お集まりくださった皆様のご支援、ご協力、心より厚く御礼申し上げます」
皆は笑う。
Kも笑う。
拍手がおさまったところで、モトジメが穏やかに言った。
「K、次に帰る時は、黙って帰れよ」
一同、酔っているとはいえ、凍りつく。
「おまえの希望は叶えて、義理は果たした。
おまえも同窓会の一員として、最低限の礼儀は守れ。
同窓会名簿を悪用するな。
淋しくて電話するんなら、オレら男子にしてこい」
「アハハ!ごめん、ごめん!
今日はみんなに会えて、嬉しかったよ」
取りつくろっているのではない。
真実、どこまでも明るいKなのであった。
そのまま店の奥の民宿に泊まるKは、我々を見送りながら言った。
「みりこん、楽しかったよ!また電話するからな!」
一同は呆然と立ちすくむ。
だめだ、こりゃ…モトジメがつぶやいた。
「チエちゃんとよっちゃんのために、おまえが犠牲になれ」
「ギャ~!」
しかし、ありがたさのほうが勝っていた。
今夜は私がお布施をもらった。
解散する前に、外でちょこっと来月の相談をする。
家族ぐるみの一泊旅行に行くのだ。
皆、とても楽しみにしている。
こういうのが、まっとうな“予定”というものであろう。
完
本年もお世話になり、ありがとうございました。
来年もよろしくお願い致します。
皆様にとって、幸多き1年でありますように。